試合を決める場面でまさかの「スッポリ」 (C) Kyodo News

◆ 「たまらんベルト事件」

 2021年も残りわずか…。1年の終わりに、プロ野球・2021年シーズンをしみじみと振り返っていきたい。

 今回は、公式戦の試合中に起こった「嘘みたいな本当の珍プレー」を紹介していく。

 まずは、4年連続でパ・リーグ遊撃手のベストナインとゴールデングラブ賞を獲得した西武・源田壮亮の身に起こった悲劇「たまらんベルト事件」から。

 4月21日のオリックス戦。西武は初回一死から、源田がレフトへの安打で出塁。チャンスの足掛かりとしたいところだが、相手エースの山本由伸は当然ながら源田の俊足を警戒する。

 一塁へ何度も牽制球を投げる山本と、そのたびに素早く帰塁する源田。この攻防の末に、なんと源田のユニフォームのベルトがプツンと切れてしまった。

 仕方がないので、一塁ベースコーチの小関竜也は自らのベルトを外して源田に提供。つづけてベンチからは佐藤龍世も駆けつけ、ベルトを差し出す。

 結局、源田は2つの中から小関コーチのベルトを選択したのだが、これで一件落着とはならず…。なんとそのベルトが緩くて、しっかりと締めることができなかった。

 これには一塁手のスティーブン・モヤも堪え切れずにクスクスと笑い、徐々にスタンドからも笑いが。源田はノーベルトでプレー再開をしようとしたが、一塁塁審の土山剛弘にあえなく却下されてしまう。

 そこで、佐藤が再び持ってきたベルトを着用すると、サイズはピッタリ。このやりとりの間に、試合は2分半も中断した。

 再開直後、心のスキを狙ってか山本がすかさず一塁に牽制。源田が帰塁すると、テレビ中継のアナウンサーも「ベルトは大丈夫です」と、プレーよりもベルトを心配するという珍実況に。

 結局、次打者・森友哉の遊ゴロで二封アウトとなり、走塁では見せ場を作れずじまい。試合後、ベルトについて質問攻めにあった源田は「やっちゃいました。恥ずかしかった」と小さくなっていた。

◆ 「呉越同舟の救出作戦」

 次も西武絡みの珍プレー。8月25日のソフトバンク戦で起こった「救出劇」を取り上げたい。

 4回の守り。ソフトバンクの先頭打者・今宮健太が右翼方向にファウルフライを打ち上げると、西武の右翼手・川越誠司は落下点に向かって猛然とダッシュ。ソフトバンク側のブルペンの目の前でジャンプ一番、ダイレクトキャッチに成功した。

 ここまでは文句なしのスーパープレーだったのだが、その直後、とんでもないアクシデントが待ち受けていた。

 勢いあまってフェンスを乗り越えてしまった川越は、柔らかい防球ネットに背中から包まれるような形で宙づり状態に。

 うしろ向きの姿勢のまま、まるで捕虫網にでもかかったように身動きができなくなってしまった川越。ここから、“呉越同舟”の救出作戦が幕を開ける。

 ブルペンで待機していたソフトバンクの松本裕樹と高橋礼、田中正義の3投手が駆け寄り、息もピッタリの連係プレーで川越を抱き起して救出。

 そして、川越が捕球しているのを確認した一塁塁審の西本欣司が右手を上げ、「アウト!」を宣告したのだ。

 このシーンの一部始終が大型ビジョンに映し出されると、スタンドのファンは川越の超美技に「おおー!」とどよめき。

 続けて、レスキュー部隊さながらの救出劇を演じたソフトバンクの3人に対しても、惜しみない拍手が送られた。 

◆ 「勝負どころでまさかの“スポッ”」

 最後は、悪夢の逆転サヨナラ負けが一転、引き分けに変わった「世にも不思議な物語」を紹介する。

 9月23日の中日-阪神戦。阪神はこの時、首位・ヤクルトと「マイナス0.5ゲーム差」の2位に転落したばかりで、首位奪回をかける重要な戦いだった。

 初回、ジェフリー・マルテの適時打で先行した阪神。6回に追いつかれるも、8回に大山悠輔が2点適時打を放って3-1と勝ち越しに成功する。

 迎えた最終回、もちろん守護神ロベルト・スアレスがマウンドへ。これまでセーブシチュエーションで33度登板し、1度の失敗もない男を送り込んだのだから、矢野燿大監督も「今日はもらった」と勝利を確信していたことだろう。

 ところが、この日のスアレスはピリッとしない。先頭の京田陽太に二塁打を浴びると、堂上直倫と大島洋平にも連打を許してたちまち1点差。さらにダヤン・ビシエドにも三遊間へ痛烈な当たりを打たれたが、ここはショート・中野拓夢の超美技に救われ、ようやく一死を取った。

 しかし、なおも一・三塁というピンチで、代打・福留孝介の放った打球はレフトを守る植田海の頭上を越えていく。三塁走者・加藤翔平(=堂上の代走)が同点のホームを踏み、さらに一塁走者の三ツ俣大樹(=ビシエドの代走)もホームへ。逆転サヨナラ負け……と思いきや、まだ阪神にはツキが残っていた。

 なんと、福留の打球はレフトのフェンスの溝にスッポリと挟まり、ボールを引っこ抜こうとしても抜けないのだ。

 この結果、バンテリンドームのローカルルールで福留の一打は「エンタイトル二塁打」に認定。サヨナラのホームを踏んだはずだった三ツ俣も一塁から2つしか進むことができないため、三塁に戻されることとなった。

 九死に一生を得たスアレスは、高橋周平を申告敬遠して一死満塁とした後、木下拓哉を三ゴロ併殺に打ち取って試合終了。3-3の引き分けでゲームセットを迎えた。

 これには矢野監督も「負けるのと引き分けるのでは全然違う。よく踏みとどまってくれた」と胸をなでおろしたが、終わってみれば阪神の最終順位は首位・ヤクルトとゲーム差なしの2位。

 もし、この日逃げ切りに成功していれば…。皮肉にも、「勝つのと引き分けるのは全然違う」結果となってしまった。

文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

【久保田龍雄・プロフィール】
1960年東京都生まれ。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

この記事を書いたのは

久保田龍雄

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