阪神・岩崎優 (C) Kyodo News

◆ 後輩に見せる背中

 この場所は毎年、冬を感じさせない。この日もダウンジャケットは全く必要なかった。

 静岡県静岡市。球場から数分のところには日本有数の景勝地・三保の松原があり、広大な駿河湾の上に富士山が鎮座する絶景が広がる。

 タイガースの岩崎優にとって、プロ入り以来変わらない始動の場。1月5日まで、チームメイトの髙橋遥人と佐藤蓮とともに汗を流してきた。

 「気候も良くて、練習をサポートしてくれる方もいますし、毎年良いスタートを切れています」

 スタンドには両親と祖母、知人や地元のファンも駆けつける。グラウンドにはノックなどの練習をサポートする面々。少なくない期待をその背に受け、長いシーズンを戦う覚悟を決める。そんな数日間だった。

 ギアを上げていくのはまだ先で、1年を考えれば完全なウォームアップの時期。一方で、今年は後輩たちに助言する姿が目立った。

 「一緒に一軍の舞台で戦えたら自分も嬉しいですから。自分が教えられるようなことは教えていきたい」

 特にプロ2年目を迎える佐藤蓮には、キャッチボールから積極的に声をかけ続けていた。

 不動のセットアッパーとして、チームには欠かせぬ存在。ドラフト6位入団の左腕は9年目にして完全な“主力”となった。

 昨年もリリーフの日本人では最年長で、見渡せば歳下ばかり。競争にさらされ、自身のポジションを確立していく段階は終わり、「チームを強くするために」という視点で背中を追ってくる後輩たちを見ている。

◆ 「言われたところでしっかりと」

 特に同郷の髙橋と佐藤に向ける視線は、温かくも厳しさがある。

 年末に行われた「プロ野球静岡県人会」でも顔を合わせた3人。トークショーではまず、毎年故障に泣かされている髙橋に向けて、「来年は遥人(髙橋)は1年間通して投げるので優勝します」と宣言すると、1年目を終えたばかりの佐藤蓮は“守護神候補”に挙げた。

 地元の野球少年・少女、ファンを前にしたリップサービスと捉えることもできるが、後輩たちのポテンシャルを知る岩崎からすれば、ハッパをかけた意味合いも多分にあったはず。

 先発の髙橋から佐藤蓮、そして自身にバトンがつながる“静岡リレー”にも「そうなってくれたらいい。3人で活躍できたら良いなと思う。彼(髙橋)はちゃんと投げないと私は出てこないので」と乗り気だった。

 昨年はチームトップタイ62試合に登板して44ホールドポイントをマーク。今季は退団したロベルト・スアレスに替わる守護神候補にも挙がっている。

 「自分はまだ何も言われてないので。言われたところでしっかり仕事ができるように」

 どのポジションを任されようが、心持ちは変わらない。

 チームの勝利、その先にある悲願のリーグ優勝のための献身。今年も静岡から一歩目を踏み出した。2022年こそ、「日本一」で完結するストーリーにして見せる。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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