悪天候も吹き飛ばす!?
“BIGBOS”の神通力は、天気までも変えてしまったのか…。
8日に行われた、新生・日本ハムの初陣。今季初の実戦となった阪神との練習試合は悪天候が心配されたが、予定通りに開催された。
週間予報では、降雨確率は最高で80%まで達し、前日段階でも試合開催は微妙だった。
当日も朝方まで雨模様だったが、昼までにはすっかり雲も切れ、スタンドでは半袖のファンも見かけるほどの野球日和に。
地上波での中継も急遽決まるなど、BIGBOSSへの注目度の高さは留まるところを知らない中で、ついに「新庄劇場」改め「BIGBOSS劇場」の幕が上がった。
沖縄で感じた“BIGBOSS旋風”
今年のプロ野球キャンプは、コロナ禍にあって有観客での開催を決断したものの、折からのオミクロン株による感染拡大のなか、どのキャンプ地も集客には苦しんでいる。
しかし、この日試合が行われた阪神のキャンプ地である宜野座村野球場には、BIGBOSSの初陣をひと目見ようと、平日にもかかわらずスタンドがほぼ満員になるほどのファンが詰めかけ、キャンプらしい賑わいを見せていた。
試合の前日、日本ハムのキャンプ地・名護も訪れたが、ここでもBIGBOSSの人気のほどがうかがえた。
この日も平日であったが、休日の他球団のキャンプ地よりも明らかに賑わっている。球場内のグッズ売り場を覗いてみても、BIGBOSS関連のグッズの多くは売り切れていた。
スタッフの話だと、新庄監督のグッズが一番の売れ行きで、リニューアルされたレプリカジャージも、すでにビジターver.は品切れだという。
なぜ、ホーム用ではなくビジター用の方が売れ行きが良いのかは定かでないが、往年の「新庄フィーバー」が沖縄に帰ってきたことは間違いなかった。
ナインに浸透しつつある「新庄イズム」
試合開始の1時間前には、メインスタンドはほぼ満員となった。
そこに登場したのが、BIGBOSS。阪神側ベンチの奥、室内練習場との通路から姿を現した途端、場内からは大きな拍手がわき起こる。その拍手に手を振りながら応え、古巣のベンチに大きな声で挨拶すると、スタンドはさらに沸いた。
「新庄イズム」がファイターズナインに浸透しつつあることは、試合前のアップからもうかがえた。とにかく一同元気がいい。
ファイターズナインの声がフィールド中に響き渡るのを見ると、どちらがホームチームなのかわからなくなる。この声は試合中も球場内に響き渡り、終始ホームチームの阪神を圧倒していた。
そして、スターティングラインナップにも「新庄イズム」は表れていた。
BIGBOSSはキャンプ開始時から各選手の可能性を広げようと、様々なポジションを守らせてきた。この試合でも、昨年は主に三塁を守った野村が「2番・左翼」、外野のレギュラー候補の万波は「3番・三塁」に名を連ねている。
BIGBOSSの姿が見えない…?
汗ばむほどの陽気のなか、予定通り1時に試合は始まったのだが、なぜかBIGBOSSの姿は見えない。
練習試合とあって、通常行われる試合直前のメンバー表交換もなかったが、その前のシートノックの際も、一軍の将であるBIGBOSSの姿はなかった。そして、試合が始まってもその姿はベンチにはない。
宜野座球場のビジター側である一塁側スタンド上部にはプレハブ小屋があるのだが、この日、BIGBOSSは試合中の選手への直接の指示はコーチ陣に任せ、自身はこの小屋から「高みの見物」を決め込んだようだった。
指導者経験のない彼にとって、このキャンプ期間にベンチでの采配の感覚を養うことは重要ではないかという「正論」など、現役時代にあの野村克也をして「宇宙人」と言わしめた彼には通用しないのだろう。
まずは、ベンチとは距離をおいて、チームを俯瞰しようという意図なのか…?
登場するたびにどよめくスタンド
それでも、「ファンは宝物」をチームスローガンとしたこの男のサービス精神は自身を動かした。
4回裏の阪神の攻撃が終わった時、ついにBIGBOSSがフィールドに姿を現す。ユニフォームではなく、黒いグラウンドコートに身を包んだ指揮官がベンチ前に現れると、スタンドがどよめいた。また、その足でカメラマン席前まで歩み出たところがいかにも彼らしかった。
試合は初回に3点を先制した日本ハムが、終始試合の主導権を握って勝利。6回には代打で登場した佐藤龍世が追い込まれながらもレフトにソロを放つと、コロナ対策で声援自粛のスタンドをよそに、日本ハムベンチは大騒ぎになっていた。
一方の投手陣も、若手6投手が阪神打線を2点に抑えるなど、順調な仕上がりを披露。これ以上ない好発進と言えるだろう。
試合後も「BIGBOSS劇場」は続いた。
勝利の瞬間、フィールドにはその姿はなく、試合後もなかなか姿を現さなかったが、大方のファンが帰路についた頃になって、その声がフィールドに響いた。
例の小屋からメディアに応えるBIGBOSSを撮り逃すまいと、カメラマン席から一斉にレンズが向けられる。その「アンコールショー」が終わるのを待って、ホームチームの阪神・矢野監督のインタビュー音声が場内放送で流れたときには、すでにほとんどの観客は家路についていた。
ファンを魅了する「BIGBOSS劇場」は、始まったばかりだ。
文=阿佐智(あさ・さとし)