進化の秘密
ロッテの東妻勇輔は昨季開幕一軍を逃したが、交流戦明けの6月18日に一軍昇格すると、ツーシーム、スライダー、縦に落ちるスライダー、フォークを武器にピンチの場面で何度も火消し、シーズン自己最多の37試合に登板して、1勝0敗4ホールド、防御率2.88と安定した成績を残した。
これまで与四球で崩れることも多かったが、「スピード表示ばかり追い求めていた。いくら155という数字が出ても、バッターに速くないと思われていたら、55出ていても意味がない。その考えを払拭して、バッターに嫌がられるようなボールを投げようと取り組んだ結果、ストライクゾーンに投げられるようになったという感じですかね」と昨季は34回1/3を投げて、与四球は9個だった。
昨年、飛躍のきっかけのひとつになったのがツーシーム。「自分で意識して曲げて打たせているので、そこに狙えている。それが安定して投げられているところかなと思います」と、自在に操り、ゴロを打たせて何度もピンチを脱した。
左打者対策
一軍で結果を残し、新シーズンに向けてオフシーズンは“左打者対策”をテーマに取り組んだ。
「去年は左打者への被打率が高かったので、左バッターへのインコースの使い方をもっと磨こうというところで、インコースにしっかり投げ込める練習をしてきました」。
確かに昨季は右打者の被打率が.197だったのに対し、左打者の被打率は.361と高かった。
東妻は右打者対策でスライダーを多く使いたいという理由で昨年からプレートの踏む位置を一塁側から三塁側に戻した。“左打者対策”のために、左打者のときに一塁側のプレートを踏む考えはあったりするのだろうかーー。
「そこはあまり考えていないですね。外寄りのボールが多いから踏み込まれていたというのが自分のなかでの考え方なので、踏み込まれないようにインコースに怖いボールを投げていけたらと思います」。
具体的に“怖いボール”について訊くと、「内に角度のあるまっすぐを投げ込めるというのと、内にスライダーを入れて、踏み込んできたらデッドボールもあるかもしれないと思わせたい」と教えてくれた。
実戦に入ってからは「うまいこといっていないというか、攻めきれていない」と納得がいっていないが、オフから取り組んできた成果を開幕までに発揮したい。
目指せ開幕一軍!
ここまで実戦では2試合に登板して、2試合とも失点しているが、昨年の経験から今季は“勝利の方程式”に割って入るような存在になって欲しいところ。
「そこは結果を出せば、自ずとついてくると思っている」と話し、「去年は半分しか上にいられなかった。できれば開幕から上にいられるように目指している」と決意する。
東妻は19年にプロ入りしてから開幕を一軍で迎えたことがない。だからこそ、開幕一軍への想いは強い。
「夏くらいから呼ばれることが多かった。1年間通して戦い抜けていないという気持ちがすごくある。チームのために1年間、戦力になれるようなピッチャーになりたいと思っているので、そこをしっかり今年できたらと思っています」。
昨年はツーシームで打たせて取る技術を身につけ飛躍し、まだ結果に繋がっていないが、オフは課題にしてきた“左打者への対策”を行ってきた。プロ入り後は壁にぶつかりながらも、その度に自分で考え、コーチや先輩にアドバイスをもらい、着実に進化した姿を見せている。取り組んできたことに自信を持って、今季も一軍のマウンドで躍動することを期待したい。
取材・文=岩下雄太