傘と言えば西川遥輝も話題に… (C) Kyodo News

◆ 乱入したファンに“神対応”

 野球の試合にハプニングはつきもの。

 長いプロ野球の歴史をさかのぼると、時には「まさか!?」と目を白黒させられる事態も起きる。

 だが、そんなときでも、当事者の対応ひとつで、思わずホッコリさせられる“ちょっといい話”に変わるのが野球の魅力だ。

 まずは、試合中のグラウンドに乱入した少年ファンに対して、人柄の良さが滲み出る“神対応”を見せた助っ人のお話。1991年に大洋(現・DeNA)に入団したロバート・レイノルズである。

 メジャー通算109盗塁の俊足と強肩が売りのレイノルズは、すでに膝を痛めており、全盛時の快速を披露することはできなかったものの、シュアな打撃で打率3割以上をマーク。同年8月1日の中日戦から4日のヤクルト戦にかけて、NPB新記録となる11打席連続安打も達成した。

 事件が起きたのは、快挙から1カ月余り経った9月17日の巨人戦のこと。

 4-1と大洋がリードして迎えた7回の守りで、二死後に巨人・藤田元司監督が代打・吉村禎章を告げた直後だった。

 突然、2人の少年が一塁側カメラマン席の扉を開け、グラウンドに飛び込んできたのだ。

 色紙を手にした2人は、ライトの守備位置にいるレイノルズにめがけて走っていく。1人はファウルグラウンドで係員に取り押さえられたが、もう1人は目指すレイノルズの前までたどり着き、息せき切ってサインを求めた。

 普通であれば、「試合中だから」と追い返されても仕方のないシチュエーションなのだが、なんとレイノルズは優しい眼差しで少年からペンと色紙を受け取ると、グラウンドに右膝をついた姿勢で、スラスラとペンを走らせるではないか。

 「気にならなかったよ。ゲーム中だったが、ヨシムラの代打で時間があったからね」

 少年ファンを大事にしたナイスガイは、アンダーソックスをズボンで隠すファッションスタイルを最初に、日本に持ち込んだ助っ人としても知られている。

◆ 審判が選手を“ポカリ”?

 納得のいかないジャッジに対し、エキサイトした監督や選手が審判に暴力を振るうシーンは今でも時々見られるが、よりによって審判が選手をポカリと殴りつけるというまさかの珍場面が見られたのが、1997年6月17日のヤクルト-巨人だ。

 0-0の4回、巨人は先頭の後藤孝志が左越え二塁打を放ち、無死二塁のチャンス。後藤は次打者・仁志敏久の一ゴロの間に三塁を狙ったが、ファースト・小早川毅彦がすぐさま送球してタッチアウトになった。

 ところが、友寄正人三塁塁審が「アウト!」とオーバーアクションで右腕を突き出した直後、勢い余ってタッチプレーを終えたあとのサード・池山隆寛の頭をポカリと殴りつけてしまった。

 思いもよらず選手に“暴行”する形になった友寄塁審は「手を出したところに(池山の)頭があった。『悪かったな』と謝りました」とさすがにバツが悪そう。だが、池山は「僕が前に出たから(当たった)。気にしてないっすよ」と大らかに振る舞い、周囲を和ませた。

 パンチが頭に“大当たり”とは、打者にとっては縁起が良いとも解釈できるが、皮肉にもこの日の池山は延長14回までもつれた試合で6打数無安打3三振。肝心のバットのほうは全然当たらなかった。

◆ イチローの粋なファンサービス

 雨がザーザー降りしきるなか、外野手がスタンドのファンから差し出された傘を広げ、しばしの雨宿りをする珍風景が見られたのが、1997年9月25日のオリックス-ダイエーだ。

 試合前から強い雨が降る最悪のコンディションで強行されたこの試合。ぬかるんだマウンドで思いどおりの投球ができず、ぶち切れたオリックス先発のウィリー・フレーザーが3発を被弾して3回途中KO。仰木彬監督はリリーフ・豊田次郎を告げた。

 この間を利用してグラウンド整備も行われ、試合がしばらく中断したのだが、雨に濡れながらただ立っている野手にとっては、このうえなくつらい時間である。

 そんな矢先、ライトを守るイチローの後方のスタンドから「イチローさん、サインして!」の声とともに1本の傘が投げ入れられた。

 イチローは傘を手にすると、開いたり閉じたりして遊んだあと、スタンド前まで歩み寄ると、広げた傘にサインペンを走らせ、ファンにサービスした。

 すでにV3が絶望となったオリックス。悪天候も重なり、この日のグリーンスタジアム神戸の入場者はシーズンワーストの1万2000人だったが、「こんな雨の中でも来てくれたんだから、本当にありがたい」という理由からだった。

 結局、試合は6回表降雨コールドでゲームセットとなり、オリックスは5-11と大敗。試合後は仰木監督も「この雨のなか、出た選手は大変やったやろう。声援してくれたファンはもっと大変やったやろう。ありがとうと言いたい」とナインとファンに感謝の言葉を贈っていた。

 なお、2019年5月18日のソフトバンク-日本ハムでも、負傷した選手の治療で中断中、センターを守っていた日本ハム・西川遥輝がスタンドのファンから差し出された折りたたみ式傘を広げて、雨宿りがてら記念写真撮影に応じるなど、テレビの実況担当も「プレー中に傘を差している選手は初めて見ましたよ」と談笑するほのぼのシーンが見られた。

 雨の日の観戦は、傘をもう1本持っていれば、何かいいことがあるかも……?

文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

【久保田龍雄・プロフィール】
1960年東京都生まれ。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

この記事を書いたのは

久保田龍雄

久保田龍雄 の記事をもっと見る

もっと読む