中日・小笠原慎之介 (C) Kyodo News

◆ 「豪快」と「繊細」の両立

 再出発のマウンドだった。中日・小笠原慎之介投手(24)が、6月21日のヤクルト戦で先発登板。豪快に、そして繊細に試合を運んだ。

 細心の注意を払うのは、来たる勝負の場面への準備。8回を投げて被安打は3、失点はソロ本塁打による1点のみに抑えた。

 「豪快」と「繊細」の両立を狙うのは、前回登板の7日・ロッテ戦があったから。

 2点リードの6回に逆転3ランを被弾。積み上げたスコアボードの「0」が水の泡となった。

 それから2週間……。150キロ近いまっすぐを中心に、変化球をどう織り交ぜるか。自らに問いかけた。

◆ 自身の体の状態を確かめるように

 「まず、洗車からだと思いました」

 愛車は排気量約4000ccの外国製ピックアップトラックと、国産で約1500ccの普通車。

 「悪路も行ける大型車と、小回りの効く街乗り用です」

 5月中旬に連敗を喫し、ふと洗車から遠ざかっていたことに気づく。

 5月31日の楽天戦では、球界屈指の右腕・田中将大に投げ勝った。

 鳥のフンがついたままの愛車を目にして「ウンを付けたままでいいかな」。

 そううまくはいかない。ロッテ戦の被弾で黒星がついた。  

 リーグ戦再開を迎え、2台とも洗車へ。手洗いした。

 ホイール、ボディー、窓ガラス……。パーツごとにスポンジを分けて丁寧に洗った。

 「気持ちを込めて洗いました」

 愛車のメンテナンスは、登板前後の体の状態を確かめるのと同じ。

 ゆっくりと約2時間、時間をかけて磨き「よし、これでいいかな」。登板前のブルペン入りと同様、洗車もヤクルト戦への準備のひとつだった。

◆ 田中将大との投げ合いで得た教訓

 立浪和義監督は、捕手・木下拓哉のリードに時には首を振る必要性もあると語る。

 「一番きつい6回、7回。大野や柳の次になってもらわないといけない。直接抑えにつなぐぐらいまで、信頼の置ける投手になってもらいたい。小笠原にはまだまだ苦しい場面でも投げさせていかないと。6回でいいなら、6回でいいピッチャーになってしまう。そこを乗り越えて。配球を考えてそれが捕手と合えばいいですし、勝負どころで自分の投げたいボール投げるのも大事」と指揮官。

 プロ7年目の24歳。成長の歩みを加速させたい。

 田中将との投げ合いを制して教訓も得た。

 「勝ちたい、と思っていたんです。勝ったら何かが変わると思っていました。そして、いざ勝った。でも、あまり変わらないんですよね。自信にはしたいですけど、それよりも次の登板のことが気になっちゃって」

 越えたハードルよりも、次のハードル。走っていれば、試練も困難もやってくるのだ。

 首位・ヤクルト相手に8回を1失点も、援護はなく白星は手にできなかった。だが、チームは勝った。

 チームも個人も、すべてがうまくいくわけではない。ピックアップトラックの性能と同様、悪路も苦にせず、左腕は力強く進む。

文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)

もっと読む