中日・木下拓哉 (C) Kyodo News

◆ 忘れられない7月6日

 まだ1年か、もう1年かは分からない。

 ただ、中日・木下拓哉はハッキリと覚えていた。

 「あの日は地方でゲームがありました。群馬ですよね……」

 6日、今月末に行われる「マイナビオールスターゲーム2022」のファン投票の最終結果が発表された。竜の正捕手は初めてトップとして選ばれた。

 その日からちょうど1年前の2021年7月6日。チームメイトで昨夏亡くなった木下雄介さんが倒れた日だった。木下拓は前橋で巨人戦に臨んでいた。

 投票結果を受けた会見では、故人をしのび、思いをはせた。

 「オールスターだけではないですが、今一度、プレーできているのは当たり前ではないと、本当に、胸において、やりたいです。後輩ですが、彼なら『ようやったっすね』と褒めてくれたと思います。普段から彼と一緒にプレーしています。彼が高校時代、独立リーグ時代に過ごした四国で開催されるのは楽しみです」

 木下雄さんは大阪出身。高校と独立リーグは徳島でプレーしている。

◆ 戦友の想いも背負って…

 木下拓にとっては、2年連続のオールスター出場となる。

 1年前は監督選抜。昨季は7月中旬の開催だったから、木下雄さんが他界してから初の球宴となる。

 特別なロゴをあしらったグラブで出場することを決めた。

 今季から用具メーカー「ミズノ」とブランドアンバサダー契約を結んでいる。ロゴには、木下雄さんの背番号「98」をあしらった。グラブやエルボーガードに刻んである。

 メーカー側と話し合い、オールスター用のグラブづくりに着手。もちろん、ロゴ入りになる。

 木下雄さんを思い、ファンを喜ばせる球宴。

 「個人としてもチームとしても成績がふるわず、『ヨッシャ』という感情ではありませんが、投票してくださったファンの方に感謝します。元気なプレーを見せます」

 対戦したい投手には、昨季までのチームメイトでソフトバンクへ移籍した又吉の名前を挙げた。

 「真っすぐとカットボール、どっちが来るかわかりませんが、オールスターの舞台。対戦する機会があったら、球種は考えずに思い切ってスイングしたいと思います」と意気込んだ。

 又吉もまた、木下雄さんの死に心を痛めた。同じ独立リーグ・四国アイランドリーグ出身者に期待を掛けていた。

 ファン投票や選手間投票など、選ばれ方はさまざま。

 ファンに選ばれた木下拓は、木下雄の分も背負って、ハツラツとプレーする使命を自らに課している。

文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)

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