ニュース 2022.11.01. 17:30

オリックス 26年ぶり日本一を決めた3つの「ナカジマジック」

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【プロ野球日本シリーズヤクルト対オリックス、第7戦】日本一になり胴上げされるオリックスの中嶋聡監督=2022年10月30日 神宮球場 写真提供:産経新聞社
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月30日に行われたプロ野球日本シリーズ第7戦で日本一を達成したオリックスバファローズ・中嶋聡監督の「ナカジマジック」と呼ばれる選手起用にまつわるエピソードを紹介する。

10月30日、オリックスが26年ぶりの日本一を果たして幕を閉じた日本シリーズ第7戦。思えば、第1戦を絶対的エース・山本由伸で落とした上に、山本は脇腹を痛め降板。第2戦は3点リードの勝ちゲームを9回、内山壮真の同点3ランで追い付かれて引き分け。第3戦は宮城大弥が山田哲人に3ランを浴びて完敗。この時点では「これは今年(2022年)もヤクルトが勝つな」と思った方も多いでしょう。

しかし、レギュラーシーズンの逆転Vもそうでしたが、追い込まれると驚異の粘り腰を発揮するのがオリックスです。第4戦、杉本裕太郎のタイムリーで奪った虎の子の1点を継投リレーで守り切り、これで待望の初勝利を挙げると、第5戦は9回にヤクルトの守護神・マクガフを攻略。吉田正尚がサヨナラ2ランを放って対戦成績をタイに戻しました。

さらに第6戦は投手陣が1安打完封リレーで3連勝。何と、あの厳しい状況から一転、ヤクルトより先に日本一へ王手を掛けたのです。これには驚きました。

第5戦・第6戦でマクガフが致命的な送球エラーをしてしまったのと連鎖するように、第7戦では塩見泰隆が痛恨の満塁走者一掃エラー。ヤクルトも終盤、村上宗隆のタイムリーとオスナの3ランで猛追しますが及ばず、オリックスがヤクルトに昨年(2021年)のリベンジを果たしました。

シリーズを振り返ると、昨年もそうでしたが、中嶋監督の選手起用の巧みさが目立ちました。1つのパターンに固執せず、そのときの状況や選手の調子などを冷静に見極め、臨機応変に打つ手を変える……これがオリックスの勝因だったと思います。今回は、目立たないけれども、特に印象深かった「ナカジマジック」をいくつかピックアップしてみましょう。

<1>山﨑福也の第2戦先発
日本シリーズでは、第1戦にエースを登板させ、第2戦では準エース格の投手を投げさせるのが普通です。そうすれば第6戦・第7戦でもう一度この2人が投げられるからです。

オリックスは昨年の日本シリーズで、第1戦にエース・山本由伸(昨季18勝5敗)、第2戦に宮城大弥(昨季13勝4敗)を立てて臨みました。今年もオリックスの勝利数1位・2位はこの2人(山本15勝5敗、宮城11勝8敗)でしたから、当然同じ順番で来るかと思いきや……何と、中嶋監督が第2戦の先発に指名したのは、今季5勝8敗と負け越している山﨑福也でした。

第2戦、なぜ宮城ではなく山﨑福だったのか? それは今回の第1戦・第2戦が、敵地・神宮での開催だったからです。神宮ではDH制は使えないため、投手も打席に立ちます。チャンスで投手に打順が回った場合、まだ余力があるのに、代打を送らなければならないケースも出てきます。宮城は長いイニングを投げられる投手ですので、打順のことを考えなくていいDH制の京セラドームで投げさせたい、というのが1つ。

もう1つの理由は、山﨑福が日大三高→明治大出身で、学生時代、神宮のマウンドに何度も立っているからです。昨年の日本シリーズは、神宮球場が使えず東京ドーム開催でした。また今季、両チームが交流戦で対戦したのは京セラドーム。オリックス投手陣は、神宮のマウンドに慣れていない投手が多かったのです。宮城は神宮で投げたことがありませんでした。

さらに山﨑福は学生時代、バッティングにも定評があった選手で、打席に立つのは大歓迎。実際、第2戦の先制タイムリーは山﨑福が打っています。山﨑福はこのシリーズ、勝ち星こそ付かなかったものの、決め手を与えないピッチングでヤクルト打線を翻弄。第2戦は4回無失点、第6戦は5回無失点ときっちり先発の仕事をして降板しました。その後は宇田川優希や山﨑颯一郎ら、山﨑福より球の速いパワーピッチャーがどんどん出てくるのですから、打つ方はたまりません。

また、継投が前提の山﨑福を第2戦で起用したことで、結果的にオリックスは主要リリーフ陣がひと通り神宮のマウンドを経験することができ、これが第6戦・第7戦連勝につながりました。なにげに山﨑福の第2戦先発は、今シリーズにおける中嶋監督の最大のヒットだったような気がします。

<2>太田椋の1番抜擢
今季、レギュラーシーズンで中嶋監督が主に1番打者に起用していたのは福田周平です。しかし日本シリーズ中、福田の調子が今一つとみるや、第4戦・第5戦では佐野皓大を先発で起用。佐野は期待に応え、第4戦の第1打席でいきなり二塁打を放ってみせました。

しかし佐野が第5戦でノーヒットに終わると、第6戦、中嶋監督が1番打者に指名したのが、4年目の太田椋でした。2018年、天理高校からドラフト1位で入団した逸材ですが、今季は32試合に出場し打率は.196。しかし、中嶋監督は太田の調子を見て、大胆にも重要な試合の斬り込み隊長に抜擢したのです。

太田は、初回の第1打席にいきなりヒットを放つと、6回、イニング先頭で回ってきた第3打席でもレフト前にヒットを放ち出塁。5番・杉本のタイムリーで生還し、貴重な先制のホームを踏みました。この1点が、初回、塩見のヒット以降ノーヒットのヤクルト打線に重くのしかかり「王手」につながったのです。

太田は続く第7戦でも1番で先発し、プレイボール直後、バットを一閃。ヤクルト先発・サイスニードの初球をセンターバックスクリーンに叩き込んでみせました。日本シリーズでの「1回表・先頭打者の初球ホームラン」は史上初。この強烈な先制パンチも、ヤクルトの出鼻をくじく大きな1発になりました。

過去の実績にとらわれず、調子のいい選手を見極めフレキシブルな起用ができるのは、今季レギュラーシーズン143試合で実に141通りの打順を組んだ中嶋監督ならでは。同じく日替わり打線を組んでいた師匠・仰木彬監督を彷彿とさせる思いきった選手起用が、見事に当たりました。

<3>平野佳寿・阿部翔太の「リベンジ登板」
中継ぎの起用法も、オリックス日本一の大きな原動力になりました。宇田川→山﨑颯→ワゲスパック(名前はジェイコブ)の剛速球リレーは、3人の頭文字を取って「USJ」という呼び名も生まれています。

しかし、この3人以外の起用術にも目を見張るものがありました。二転三転のシーソーゲームとなり、結果的にシリーズの行方を大きく左右した第5戦。この試合、前日の第4戦でイニングまたぎをした宇田川と山﨑颯はベンチから外れていました。

この2人を外したのもかなり大胆ですが、彼らが使えないなか、中嶋監督が見せた継投策には驚きました。3-2と1点リードで迎えた6回、3番手・近藤大亮が2点を失い逆転されると、中嶋監督がマウンドに送ったのは、何と阿部翔太でした。

阿部は第2戦、3点リードの9回にクローザーとして登板。ご存じのとおり、内山壮に同点3ランを打たれています。あの試合以来、登板のなかった阿部を、もうあとのない場面で、中継ぎとして送り込んだのです。「よくここで行かせるなあ」という声があちこちから聞こえてきました。

しかし、中嶋監督は第2戦のときも、本塁打を打たれた阿部をすぐ代えず、そのまま山田・村上・オスナのクリーンアップと対戦させました。阿部はこの3人を抑え、結果、オリックスはサヨナラ負けの可能性もあったこの試合をドローに持ち込んだのです。「またどこかで、挽回の機会を与えるつもりだな」と思いました。

しかし、それが逆転された直後の場面とは……阿部は6回、山田をセンターフライに仕留めてピンチをしのぐと、そのまま7回も続投し、無失点で降板。その後を受け8回から登板したのが、第1戦で打たれた平野佳寿です。平野佳もまるでスイッチが入ったようなピッチングで、山田をショートゴロ、村上・オスナを連続三振に抑えました。

使う側からすると、強打者が並ぶ場面で、前に打たれたピッチャーを再びマウンドに送るのは勇気が要ることです。もし打たれたら「なぜ登板させたんだ?」と非難を浴びるのは自分。中嶋監督がそれを覚悟で2人にチャンスを与えたのは、彼らの力なしには、ヤクルトには勝てないと思っていたからです。

この阿部・平野佳の「リベンジ登板」が、その姿を後ろで見守る野手たちに与えた影響も無視できません。「ここまでピッチャーに助けてもらったんだから、今度は俺たちが何とかする番だ」という思いが、9回、吉田正のサヨナラアーチにつながった気がします。

今年のスローガン「全員で勝つ」を象徴するような戦い方で、26年ぶりに頂点をつかんだオリックス。「ナカジマジック」と呼ばれる大胆な起用術は、決してギャンブルなどではなく、選手の力と適性をしっかり把握し、能力を信じていたからこそできたことなのです。

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