1番打者での打撃成績は?
今季は出遅れたものの、その存在感は抜群だった。ロッテ・荻野貴司は今季89試合に出場して、打率.310、5本塁打、27打点、15盗塁、出塁率.375。1番打者では73試合に出場して、打率は.315(279-88)に上がる。
チーム成績を見ても今季荻野が1番座った時に37勝36敗だったのに対し、荻野以外の打者が1番で出場した時は32勝37敗1分と負け越した。もちろん、荻野が不在時に1番を務めた髙部瑛斗が好結果だったこともきちんと評価しなければならない。荻野が試合に出場するか、しないか、1番で出場するか、しないかでチームの勝敗に影響を少なからず与えているのも事実。
その荻野がトップバッターとして意識しているのが、「自分のスイングをすること」、「追い込まれたらしっかり粘って出塁すること」だ。今季荻野は初回の第1打席に30回出塁したが、そのうちホームに還ってきたのは18回。荻野本人は「毎打席意識はそんなに変えていないですね」と話したが、第1打席に出塁すると高い確率で生還した。
チャンスメイクするだけでなく、チャンスにも強い。今季の得点圏打率は.340だった。8月29日のソフトバンク戦では2-2の7回二死二塁の第4打席、津森宥紀が1ボール1ストライクから投じた外角のスライダーを逆らわずに、前身守備のライトの頭を越える決勝の適時三塁打を放った。夏場以降は下位打線でチャンスを作り、荻野で還すという攻撃が多く見られた。
シーズン最終盤に1番・髙部、6番・荻野という打順もあったが、打てる打者が増えれば、勝負強い荻野に6番を打たせるのもオプションのひとつとして面白い。
走塁、守備でも素晴らしいプレーを披露
荻野のすごいところは毎年安定した打撃を見せているだけでなく、走っても今年の10月で37歳になったが、衰えぬスピード。本人は「順調に落ちてきている。そんなにスピードはないと思います」と話すが、プロ入りから13年連続で二桁盗塁を達成、相手の隙を突いた走塁は変わらずできている。
7月20日の西武戦、1-2の3回無死一塁で髙部が三塁へバント、一塁走者の荻野は三塁にベースカバーが誰も入っていないのを見て三塁を狙う。西武の一塁手が慌てて三塁へ送球するも、これが悪送球となり一気に生還した。
8月19日の楽天戦では1-1の3回一死二塁から髙部の浅いセンターフライで二塁走者の荻野が、センターの捕球体勢を見て三塁へタッチアップ。その後二死一、三塁となり、山口航輝の3ボール1ストライクから5球目の110キロカーブで一塁走者の中村奨吾が二塁盗塁。捕手が二塁に投げたのを見て、三塁走者の荻野がスタートを切りホームインした。
盗塁に関しても「あまり最近スタートがうまく切れないので、自重することが多くなってきました」と話しているとはいえ、チーム2位タイの15盗塁。「(技術で)カバーできるところはカバーしていきたいですし、そんなに技術がある方ではないので、ビデオでピッチャーを見ながらやっています」。長年培ってきた技術に加え、投手を研究することで、変わらぬパフォーマンスを維持している。
レフトの守備でもゴールデン・グラブ賞を逃したが、レフト線の当たりに強く、何度も好守備を見せた。
6月8日の中日戦、木下拓哉が放ったレフト線の飛球をライン際でジャンピングキャッチすれば、7月6日の日本ハム戦、近藤健介が放ったレフトフェンス付近のあたり、フェンスにぶつかりながら好捕し、8月7日の西武戦では呉念庭のレフトライン際の打球をフェンスに激突しながらランニングキャッチ。8月24日の西武戦では源田壮亮が放ったレフト線に切れる打球に対してフェンスを怖がらずにキャッチした。
レフト線の当たりに強い理由について荻野は「元々左の打球より右の打球の方が得意。それだと思います」と分析している。
37歳という年齢を感じさせない若々しいプレーを見せる荻野。来季もチームを引っ張る活躍を期待したい。
取材・文=岩下雄太