話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は2022年のプロ野球、セ・リーグで生まれた劇的すぎるサヨナラシーンを球団別に振り返りたい。
8月19日の中日対ヤクルト戦の試合後、こんなコメントを発したのはサヨナラ勝ちの立役者、今季台頭した高卒2年目の土田龍空だ。同点で迎えた9回裏、先頭の木下拓哉がスリーベースで出塁すると、ヤクルトは2者連続の申告敬遠で満塁策を選び、あえて土田との勝負に打って出た。
「なめられている」という反発心以外にも、土田には奮起する要因がいくつもあった。まずはこの前日、母校・近江高校の後輩たちが夏の甲子園でベスト4に進出したことが刺激になっていたこと。そしてもう1つは、今季抜擢してくれた指揮官に報いるためだ。
果たして、土田が放った打球は一、二塁間を抜けサヨナラタイムリーに。10代選手のサヨナラヒットは球団では68年ぶりのことだった。
■広島東洋カープ
広島の劇的サヨナラ場面は8月6日、本拠地マツダスタジアムでの阪神戦。序盤から劣勢の展開が続くも、3点差で迎えた9回裏、連打で無死一、二塁のチャンスをつくると、阪神のエラーを誘ってまずは同点。さらに1死二塁のチャンスで打席が回ってきたのが今年(2022年)6月に日本球界に復帰し、広島に入団した秋山翔吾だった。
この日まで、広島は後半戦0勝7敗と絶不調。大きな期待とともに入団した秋山もなかなか打棒が爆発せず、この日もここまで4打席無安打と結果が出ていなかった。そんな追い込まれた状況で、やっと飛び出たサヨナラタイムリー。チームにとって後半戦の初勝利であり、秋山にとっては新天地で初のお立ち台。その大切な場所で秋山が語ったのは、非常に実直なコメントだった。
この日は77回目の「原爆の日」。“ピースナイター”と銘打たれた日に放った「広島の秋山」を強烈に印象付ける一打となった。
■読売ジャイアンツ
巨人のサヨナラは今季3試合。そのなかで印象的だったのはプロ14年目の苦労人が放った一発だ。
4月9日のヤクルト戦、2対2で迎えた延長10回裏、1死走者なしの場面で東京ドームのライトスタンドに突き刺さったサヨナラ弾。打ったのは、これまでのプロ通算ホームラン3本、守備固めや代走での出番が多い立岡宗一郎だ。
この日も8回にポランコの代走として途中出場。延長戦にならなければ打席に立つことはなかった。それがめぐりめぐって打席に立ち、今季4打席目にして初ヒット&初ホームラン、しかもプロ初のサヨナラ打という劇的な一発となった。
お立ち台ではその「意外すぎる一打」について、こんな言葉とともに振り返っていたのが実に印象的だ。
■阪神タイガース
阪神タイガースの今季サヨナラゲームは、勝敗数を調べると2勝9敗と大きく負け越し。その2度の勝利のうち、打った本人も驚く意外性で話題を集めたのが6月26日、甲子園球場での中日戦だ。
試合後、こんなコメントを残したのは8回に「代走」として出場した熊谷敬宥。この日の試合前時点で打率.125。あくまでも「守備と走塁のスペシャリスト」として期待されていた熊谷だったが、延長になったため「打者」としても出番がやってきたのだ。
迎えた11回裏、2死一、三塁で打席に立った熊谷が右中間へのサヨナラタイムリー。4時間16分の熱戦に終止符を打った。
プロ初のサヨナラ打を放った熊谷だが、実は「甲子園でのサヨナラヒット」は今回が2度目。仙台育英時代の2013年、夏の甲子園1回戦・浦和学院戦で9回2死一塁からレフトオーバーの2ベースを放ち、11対10という死闘に決着をつけている。小島和哉(現ロッテ)の足が痙攣を起こし、涙ながらに降板した伝説の一戦以来のサヨナラヒットだったわけだ。
あのときも試合時間2時間59分の大熱闘。今後も、試合がもつれたときには熊谷のバットに期待してもいいかも知れない。
■横浜DeNAベイスターズ
今年、DeNAがとくに沸いたエピソードといえば、夏の横浜で繰り広げた「ハマスタ17連勝」。この勢いで、史上最速でマジックが点灯するなど独走状態だったヤクルトを猛追し、セ・リーグを大いに盛り上げてくれた。
そんな17連勝のちょうど真ん中、8月9日の阪神戦で生まれたサヨナラ勝利をここではピックアップしたい。今季からDeNAの一員となった大田泰示が移籍後初のサヨナラヒットを放った一戦だ。
同点の9回裏、2死ながら走者を2人置き、「代打大田」をコールされると、2球目のカットボールをレフト前にはじき返し、歓喜の瞬間の立役者に。その試合後、「横浜サイコー」のおなじみの掛け声でファンを沸かせた大田は、横浜スタジアムの声援が力になっていると、こんな言葉も残している。
球界初の快挙が生まれたのは9月25日、神宮球場で行われたヤクルト対DeNA戦。0対0で迎えた9回裏、1死二塁の場面で打席に立ったのは、明治大学からドラフト2位で入団したルーキー、丸山和郁だ。
その2球目、外角低めのストレートにバットをうまく合わせると、打球は左中間を破る「優勝決定サヨナラタイムリー」に。新人選手によるサヨナラヒットでの優勝決定は史上初の快挙だった。
もっとも、丸山自身はこのころ、バッティングについて不安を抱いていたという。幸運だったのは、試合開始前の神宮球場で母校の明治大学が東京六大学野球のリーグ戦に出場していたこと。そこで丸山は恩師である明治大学、田中武宏監督に「最近、バッティングがわからなくなった」と相談を持ちかけたという。そこで田中監督は丸山に対して、こんなアドバイスを送ってくれた。
恩師の言葉をエネルギーにバットを振り抜き、結果を出した丸山。神宮で育ったからこそ生まれた新たな神宮伝説でもあったのだ。
◇ ◇ ◇
結果的に、意外なバッターの活躍でサヨナラシーンが生まれたケースが並ぶ形となった。その多様性こそがプロ野球の魅力。来季も意外性あふれる激アツなサヨナラ名場面を数多く堪能したい。
■中日ドラゴンズ
『なめられているなと素直に思った。相当、気合入っていた』
~『スポーツ報知』2022年8月20日配信記事 より(土田龍空の言葉)
8月19日の中日対ヤクルト戦の試合後、こんなコメントを発したのはサヨナラ勝ちの立役者、今季台頭した高卒2年目の土田龍空だ。同点で迎えた9回裏、先頭の木下拓哉がスリーベースで出塁すると、ヤクルトは2者連続の申告敬遠で満塁策を選び、あえて土田との勝負に打って出た。
「なめられている」という反発心以外にも、土田には奮起する要因がいくつもあった。まずはこの前日、母校・近江高校の後輩たちが夏の甲子園でベスト4に進出したことが刺激になっていたこと。そしてもう1つは、今季抜擢してくれた指揮官に報いるためだ。
『立浪監督の誕生日だったので、監督を男にしたいと思っていた』
~『スポーツ報知』2022年8月20日配信記事 より(土田龍空の言葉)
果たして、土田が放った打球は一、二塁間を抜けサヨナラタイムリーに。10代選手のサヨナラヒットは球団では68年ぶりのことだった。
■広島東洋カープ
広島の劇的サヨナラ場面は8月6日、本拠地マツダスタジアムでの阪神戦。序盤から劣勢の展開が続くも、3点差で迎えた9回裏、連打で無死一、二塁のチャンスをつくると、阪神のエラーを誘ってまずは同点。さらに1死二塁のチャンスで打席が回ってきたのが今年(2022年)6月に日本球界に復帰し、広島に入団した秋山翔吾だった。
この日まで、広島は後半戦0勝7敗と絶不調。大きな期待とともに入団した秋山もなかなか打棒が爆発せず、この日もここまで4打席無安打と結果が出ていなかった。そんな追い込まれた状況で、やっと飛び出たサヨナラタイムリー。チームにとって後半戦の初勝利であり、秋山にとっては新天地で初のお立ち台。その大切な場所で秋山が語ったのは、非常に実直なコメントだった。
『(8月6日は)広島の皆さんにとっては大切な日というか、忘れられない日だと思います。僕も外から来た人間ですけど、こういう野球ができていること、応援してもらえることをこれからも心に秘めて、皆さんとともにこの日を忘れずにやっていきたいと思います』
~『日刊スポーツ』2022年8月6日配信記事 より(秋山翔吾の言葉)
この日は77回目の「原爆の日」。“ピースナイター”と銘打たれた日に放った「広島の秋山」を強烈に印象付ける一打となった。
■読売ジャイアンツ
巨人のサヨナラは今季3試合。そのなかで印象的だったのはプロ14年目の苦労人が放った一発だ。
4月9日のヤクルト戦、2対2で迎えた延長10回裏、1死走者なしの場面で東京ドームのライトスタンドに突き刺さったサヨナラ弾。打ったのは、これまでのプロ通算ホームラン3本、守備固めや代走での出番が多い立岡宗一郎だ。
この日も8回にポランコの代走として途中出場。延長戦にならなければ打席に立つことはなかった。それがめぐりめぐって打席に立ち、今季4打席目にして初ヒット&初ホームラン、しかもプロ初のサヨナラ打という劇的な一発となった。
お立ち台ではその「意外すぎる一打」について、こんな言葉とともに振り返っていたのが実に印象的だ。
『毎年、競争が激しいなかで、どうやって自分の価値を出すかっていうのを一生懸命、毎年考えていて。正直、苦しいことばっかりで、いつかこういう日がくると思って練習頑張ってこれたので。きょうは良かったです』
~『スポニチアネックス』2022年4月9日配信記事 より(立岡宗一郎の言葉)
■阪神タイガース
阪神タイガースの今季サヨナラゲームは、勝敗数を調べると2勝9敗と大きく負け越し。その2度の勝利のうち、打った本人も驚く意外性で話題を集めたのが6月26日、甲子園球場での中日戦だ。
『多分ここにいる人たちは、まさか僕が打つとは思っていなかったと思うので…いい意味で期待を裏切ったかな』
~『デイリースポーツonline』2022年6月27日配信記事 より(熊谷敬宥の言葉)
試合後、こんなコメントを残したのは8回に「代走」として出場した熊谷敬宥。この日の試合前時点で打率.125。あくまでも「守備と走塁のスペシャリスト」として期待されていた熊谷だったが、延長になったため「打者」としても出番がやってきたのだ。
迎えた11回裏、2死一、三塁で打席に立った熊谷が右中間へのサヨナラタイムリー。4時間16分の熱戦に終止符を打った。
プロ初のサヨナラ打を放った熊谷だが、実は「甲子園でのサヨナラヒット」は今回が2度目。仙台育英時代の2013年、夏の甲子園1回戦・浦和学院戦で9回2死一塁からレフトオーバーの2ベースを放ち、11対10という死闘に決着をつけている。小島和哉(現ロッテ)の足が痙攣を起こし、涙ながらに降板した伝説の一戦以来のサヨナラヒットだったわけだ。
あのときも試合時間2時間59分の大熱闘。今後も、試合がもつれたときには熊谷のバットに期待してもいいかも知れない。
■横浜DeNAベイスターズ
今年、DeNAがとくに沸いたエピソードといえば、夏の横浜で繰り広げた「ハマスタ17連勝」。この勢いで、史上最速でマジックが点灯するなど独走状態だったヤクルトを猛追し、セ・リーグを大いに盛り上げてくれた。
そんな17連勝のちょうど真ん中、8月9日の阪神戦で生まれたサヨナラ勝利をここではピックアップしたい。今季からDeNAの一員となった大田泰示が移籍後初のサヨナラヒットを放った一戦だ。
同点の9回裏、2死ながら走者を2人置き、「代打大田」をコールされると、2球目のカットボールをレフト前にはじき返し、歓喜の瞬間の立役者に。その試合後、「横浜サイコー」のおなじみの掛け声でファンを沸かせた大田は、横浜スタジアムの声援が力になっていると、こんな言葉も残している。
『球場が一体となって、仲間が応援してくれて、みんなで一つの勝ちに対してこれだけ一体になれる瞬間は、やっていて気持ちのいい瞬間ですし、野球の醍醐味です!』
~『BASEBALL KING』2022年8月9日配信記事 より(大田泰示の言葉)
■東京ヤクルトスワローズ
『自分でも、打つとは思っていなかった。記録にも、チームの優勝にも貢献できたので本当に良かった』
~『サンスポ』2022年9月26日配信記事 より(丸山和郁の言葉)
球界初の快挙が生まれたのは9月25日、神宮球場で行われたヤクルト対DeNA戦。0対0で迎えた9回裏、1死二塁の場面で打席に立ったのは、明治大学からドラフト2位で入団したルーキー、丸山和郁だ。
その2球目、外角低めのストレートにバットをうまく合わせると、打球は左中間を破る「優勝決定サヨナラタイムリー」に。新人選手によるサヨナラヒットでの優勝決定は史上初の快挙だった。
もっとも、丸山自身はこのころ、バッティングについて不安を抱いていたという。幸運だったのは、試合開始前の神宮球場で母校の明治大学が東京六大学野球のリーグ戦に出場していたこと。そこで丸山は恩師である明治大学、田中武宏監督に「最近、バッティングがわからなくなった」と相談を持ちかけたという。そこで田中監督は丸山に対して、こんなアドバイスを送ってくれた。
『テレビを見ていても、私は打てませんと顔に書いてあるぞ。ハッタリでもいいから俺は打てます!という顔をして打席に立てよ』
~『スポニチアネックス』2022年9月26日配信記事 より(明治大学・田中武宏監督の言葉)
恩師の言葉をエネルギーにバットを振り抜き、結果を出した丸山。神宮で育ったからこそ生まれた新たな神宮伝説でもあったのだ。
◇ ◇ ◇
結果的に、意外なバッターの活躍でサヨナラシーンが生まれたケースが並ぶ形となった。その多様性こそがプロ野球の魅力。来季も意外性あふれる激アツなサヨナラ名場面を数多く堪能したい。