鹿児島から決戦の地・東京へ
3月8日に開幕する『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』に向けて、各国代表が着々と調整を進めている。
侍ジャパンと同組のプールBに入った中国代表は、鹿児島で行われているプロ・アマ合同の野球大会『おいどんカップ』に参戦。これまではクラブチームや社会人企業チームとオープン戦を実施してきたが、2月28日はキャンプ地・湯之元市で独立リーグ球団・大分B-リングスと対戦した。
このチームには昨年までヤクルトでプレーしていた内川聖一も在籍しており、この日は“大物”の登場とあって球場は平日のデーゲームにも関わらず賑わいを見せていた。
これまで元NPB選手を抱えていた社会人チーム・エイジェックに大敗を喫するなど、初戦の侍ジャパン戦に向けてその状態を不安視する声もあった。
それでも、自身3度のWBC出場経験を持つ内川は「調整はあくまで調整。本番に入るとスイッチが入るので、あんまり関係ないですよ」と、チーム形成しつつある中国代表チームを冷静な目で見ていた。
過去には2009年の大会で中国との対戦もあるが、やはり「決して楽な相手ではなかった」という。
昨季までソフトバンクに所属した真砂の姿も
今大会の中国代表チームは、これまでと同様に国内リーグの選手主体の編成。変わったことといえば、それまであくまでアマチュアリーグとして運営されていたトップリーグが、2019年シーズンから本格的にプロ化に舵を切ったことだ。
残念ながらこの「プロ化」もコロナ禍により、その後はリーグ戦が休止ということになったが、選手たちの意識は多少なりとも変わっているようだ。
現在ではネットの整備により、MLBや日本のNPBの試合を中国の選手たちもライブで見ることができるという。選手たちの視線はより高みへと向かっている。
現在の代表選手のほとんどは、2003年の秋に開催されたアテネ五輪予選のアジア選手権や、北京五輪を見て育った世代。国際試合に対する意識は非常に高い。
試合前のフリーバッティングで相手の内川が打席に立つと、野手一同がベンチ前に集合。その打撃を穴の開くほど見ていた。
そんな若い選手に混じって、経験豊富な2人の選手も代表チームに馳せ参じている。昨年までソフトバンクでプレーしていた“ミギータ”こと真砂勇介(日立製作所)と、第2回大会から4大会連続出場となる元マイナーリーガーのレイモンド・チャンだ。
中国籍の父をもつ真砂は、「自分が代表選手の対象になることも知らなかった」と言いながらも参戦を決意。決して経験豊富とは言えない代表チームの面々に自らの経験を伝えている。
メジャーまであと一歩の3Aまで上り詰めたチャンは、前回大会を最後に現役を引退。MLBの中国オフィスで働いていたところ、今回も声がかかり“現役復帰”となった。
「ピッチャーのスピードには慣れてきたけど、試合の次の日の体がしんどいよ」と言う彼だが、代打で登場するといきなりの二塁打。2打席目も鋭い打球のファウルをレフト線に引っ張り持っていくなど、実力の片鱗をみせていた。
内川「我々も見習うべき点がある」
午後2時にプレーボールとなった試合は、中国が初回に簡単に先制点を許したが、その後はきちっと大分打線を抑え、チャンスをものにして得点するなど、一進一退の好ゲームとなった。
7回裏に敵の失策で同点に追いついた後は、今季よりエンゼルスに加入するアラン・カーターが登板。自慢の速球を披露した。
最終的には、9回二死二塁まで大分を追い詰めたものの、最後のバッターの大飛球はセンターのグラブに収まった。
独立リーグのチーム相手ではあるが、初のプロ相手の試合は4-5の惜敗。スコアそのものよりも、侍ジャパン戦に向けて順調な仕上がりを見せていることをうかがわせた。
チームの面々は、自分たちが日本や韓国、オーストラリアより“格下”であることは自覚しつつも、「全試合勝つ」つもりで本番に望むという。
彼らのひたむきな姿勢には、取材陣や対戦相手問わず、その姿を目にしたもの皆が舌をまく。この日の試合でも、対戦相手の大分ベンチからは中国代表のはつらつとしたプレーに称賛の声が上がっており、その姿勢には大ベテランの内川も「我々も見習うべき点がある」と感心していた。
中国代表は鹿児島での調整を続け、3日までにあと2試合をこなした後、決戦の地・東京へと向かう予定だ。
文=阿佐智(あさ・さとし)