話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、WBCベスト4進出を決めた侍ジャパンで攻守に渡って活躍する読売ジャイアンツ・岡本和真にまつわるエピソードを取り上げる。
5大会連続のベスト4進出を決め、いざ、マイアミへ。
イタリアとの準々決勝を9対3で勝利した日本代表「侍ジャパン」。投げては最速164キロ、バットでは意表をつくセーフティバントと、見事な二刀流ぶりを見せた大谷翔平。ついにタイムリーの出た村上宗隆。今大会10打点目を記録した吉田正尚。そして13年ぶりに救援投手を務めたダルビッシュ有……まさに千両役者がしっかり活躍を見せての完勝だった。
なかでも、イタリア戦最大のヒーローと言えば、3回裏に豪快なスリーラン、5回裏にも2点タイムリーツーベース、2打数2安打2四球5打点と見事な活躍を見せた岡本和真だ。お立ち台での「最高です!」6連発では、まず大歓声を誘い、その後に爆笑を誘うという、これだけの大舞台では珍しい光景を生んだ。
そんな「打のヒーロー」岡本だが、好結果を導いたのは2回表の守備で見せたファインプレーではないだろうか。一、二塁間を抜けそうな打球を逆シングルでつかむと、ベースカバーに入った大谷への送球まで軽快な動きをみせた。
今回のWBCで久しぶりに野球を見た人、普段あまりプロ野球を見ない人は、この一連のプレーで「岡本って守備のうまいファーストなんだな」と感想を抱いた人も少なくないはず。2018、2019年の2年間はファーストを守ることも多かった岡本だが、それ以降はずっとサードが本職。今大会では久しぶりすぎて慣れないファースト守備に奮闘していることをアピールしたい巨人ファンはきっと多いだろう。
今回の侍ジャパンは、サードで村上宗隆が固定されているため、岡本はここまですべて一塁手として出場。また、強化試合ではレフトを守ったように、「サード以外」での役割が求められている。ここまでの合宿や試合での様子を見ると、そんな立ち位置を率先してやっている点が実に素晴らしい。
『ポジショニングとか細かいですし、景色が違う。ただ、ここではそういうこともあると思って来ているので』
~『中日スポーツ』2023年3月2日配信記事 より(岡本和真の言葉)
そんな「岡本のファースト守備」を紐解くと、あるWBCレジェンドの存在に行き着く。2013年大会で打率5割5分6厘と大活躍を見せ、2次ラウンドMVP&大会ベストナイン(指名打者部門)に輝いた井端弘和氏だ。
台湾戦での球史に残る同点タイムリーなど、「打」での活躍が目立った井端氏だが、大会当初は代打や守備固めでの出番が想定される立場だった。また、この2013年大会では鳥谷敬、坂本勇人、松井稼頭央とショートが本職の選手が多かったため、井端氏はファーストの守備に就くことも想定されていた(実際、2試合でファースト守備に就いている)。
そこで井端氏は、この大会のためだけにファーストミットを発注し、有事に備えていたのだ。
そしてそのファーストミットは、いま、岡本和真のもとへ。井端氏が巨人で1軍内野守備走塁コーチを務めた際、師弟関係だった縁で岡本に譲ったという。だからこそ、今大会で岡本がそのファーストミットをつけてプレーする姿を、井端氏は微笑ましく見守っている。
『僕にとっても懐かしいミット。ファーストもあるぞって話を聞いて、作って、使いましたから。それを和真が使ってくれているのはうれしいですね』
~『中日スポーツ』2023年3月2日配信記事 より(井端弘和の言葉)
そもそも、2021・2022年と三塁手部門で2年連続ゴールデン・グラブ賞に輝き、いまや「守備のうまい選手」というイメージもできつつある岡本。だが、高校やプロ入り当初の守備力は決して誉められたものではなかった。
そんな岡本に守備のイロハを教えたのもまた井端氏だった。井端氏の自著『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』にこんな一節がある。
『岡本和真選手は、高校時代に守備を教わったことがないそうだ。本人から直接聞いたことなので事実だろう。私が巨人のコーチに就任した時、彼はまだ入団2年目。「高校で、守備はどんな練習をやっていたの?」と聞くと、「とくにないです」と言う。「じゃあ、何も知らないのか?」と確認すると、「はい」と屈託なく頷く。「わかった。これから教えるから」と言ったら嬉しそうにしていた』
~井端弘和・著『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)より
果たして、井端塾のもとで守備を磨き、ついには日本代表でも複数ポジションを任され、ファインプレーを見せるまでの選手に成長を遂げた岡本。その姿は、2013年WBCで代打、指名打者、ショート、セカンド、ファーストといくつものポジションで結果を残した井端師匠と重なる。
そんな岡本が次に挑むのは、恩師・井端氏が越えられなかったWBC準決勝の壁。その先に見据える世界一奪還までは残り2試合。まさに「攻守のキーマン」としての活躍を期待したい。
5大会連続のベスト4進出を決め、いざ、マイアミへ。
イタリアとの準々決勝を9対3で勝利した日本代表「侍ジャパン」。投げては最速164キロ、バットでは意表をつくセーフティバントと、見事な二刀流ぶりを見せた大谷翔平。ついにタイムリーの出た村上宗隆。今大会10打点目を記録した吉田正尚。そして13年ぶりに救援投手を務めたダルビッシュ有……まさに千両役者がしっかり活躍を見せての完勝だった。
なかでも、イタリア戦最大のヒーローと言えば、3回裏に豪快なスリーラン、5回裏にも2点タイムリーツーベース、2打数2安打2四球5打点と見事な活躍を見せた岡本和真だ。お立ち台での「最高です!」6連発では、まず大歓声を誘い、その後に爆笑を誘うという、これだけの大舞台では珍しい光景を生んだ。
そんな「打のヒーロー」岡本だが、好結果を導いたのは2回表の守備で見せたファインプレーではないだろうか。一、二塁間を抜けそうな打球を逆シングルでつかむと、ベースカバーに入った大谷への送球まで軽快な動きをみせた。
今回のWBCで久しぶりに野球を見た人、普段あまりプロ野球を見ない人は、この一連のプレーで「岡本って守備のうまいファーストなんだな」と感想を抱いた人も少なくないはず。2018、2019年の2年間はファーストを守ることも多かった岡本だが、それ以降はずっとサードが本職。今大会では久しぶりすぎて慣れないファースト守備に奮闘していることをアピールしたい巨人ファンはきっと多いだろう。
今回の侍ジャパンは、サードで村上宗隆が固定されているため、岡本はここまですべて一塁手として出場。また、強化試合ではレフトを守ったように、「サード以外」での役割が求められている。ここまでの合宿や試合での様子を見ると、そんな立ち位置を率先してやっている点が実に素晴らしい。
『ポジショニングとか細かいですし、景色が違う。ただ、ここではそういうこともあると思って来ているので』
~『中日スポーツ』2023年3月2日配信記事 より(岡本和真の言葉)
そんな「岡本のファースト守備」を紐解くと、あるWBCレジェンドの存在に行き着く。2013年大会で打率5割5分6厘と大活躍を見せ、2次ラウンドMVP&大会ベストナイン(指名打者部門)に輝いた井端弘和氏だ。
台湾戦での球史に残る同点タイムリーなど、「打」での活躍が目立った井端氏だが、大会当初は代打や守備固めでの出番が想定される立場だった。また、この2013年大会では鳥谷敬、坂本勇人、松井稼頭央とショートが本職の選手が多かったため、井端氏はファーストの守備に就くことも想定されていた(実際、2試合でファースト守備に就いている)。
そこで井端氏は、この大会のためだけにファーストミットを発注し、有事に備えていたのだ。
そしてそのファーストミットは、いま、岡本和真のもとへ。井端氏が巨人で1軍内野守備走塁コーチを務めた際、師弟関係だった縁で岡本に譲ったという。だからこそ、今大会で岡本がそのファーストミットをつけてプレーする姿を、井端氏は微笑ましく見守っている。
『僕にとっても懐かしいミット。ファーストもあるぞって話を聞いて、作って、使いましたから。それを和真が使ってくれているのはうれしいですね』
~『中日スポーツ』2023年3月2日配信記事 より(井端弘和の言葉)
そもそも、2021・2022年と三塁手部門で2年連続ゴールデン・グラブ賞に輝き、いまや「守備のうまい選手」というイメージもできつつある岡本。だが、高校やプロ入り当初の守備力は決して誉められたものではなかった。
そんな岡本に守備のイロハを教えたのもまた井端氏だった。井端氏の自著『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』にこんな一節がある。
『岡本和真選手は、高校時代に守備を教わったことがないそうだ。本人から直接聞いたことなので事実だろう。私が巨人のコーチに就任した時、彼はまだ入団2年目。「高校で、守備はどんな練習をやっていたの?」と聞くと、「とくにないです」と言う。「じゃあ、何も知らないのか?」と確認すると、「はい」と屈託なく頷く。「わかった。これから教えるから」と言ったら嬉しそうにしていた』
~井端弘和・著『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)より
果たして、井端塾のもとで守備を磨き、ついには日本代表でも複数ポジションを任され、ファインプレーを見せるまでの選手に成長を遂げた岡本。その姿は、2013年WBCで代打、指名打者、ショート、セカンド、ファーストといくつものポジションで結果を残した井端師匠と重なる。
そんな岡本が次に挑むのは、恩師・井端氏が越えられなかったWBC準決勝の壁。その先に見据える世界一奪還までは残り2試合。まさに「攻守のキーマン」としての活躍を期待したい。