いよいよ開幕!プロ野球2023シーズン
日本時間22日に閉幕した『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』。その興奮の余韻も醒めやらぬ中、3月30日からはプロ野球の新シーズンが幕を開ける。
熱狂を引き継ぎ、ペナントレースの戦いをより楽しむべく、ベースボールキングではプロ野球開幕特集としてレジェンドOBへのスペシャルインタビューを実施。セ・リーグ編となる今回は、元東京ヤクルトスワローズの監督であり、解説者の真中満氏にお話を伺った。
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取材・構成=尾崎直也
撮影=須田康暉
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「今年のセ・リーグは団子状態」
―― いよいよシーズン開幕が近づいていますが、今年は開幕直前までWBCが行われています。その点の難しさはやはりあるのでしょうか?
真中:開幕投手を託すとか、開幕カードの先発は難しくなってしまいますが、それ以外のところでは頭を悩ませる部分は少ないはず。どちらかと言うと疲労よりも、出場機会が少なかった選手たちの方がうまく調整ができていないという可能性があるので、日本での実戦を経て開幕に合わせる、という形になると思います。
―― 開幕前のところに照準を合わせて、例年より早い調整をしていたという点ではどうでしょうか?
真中:いずれにしても、シーズンの中で必ず調子の波はあります。WBCのおかげで開幕から全開で行けるという選手もいれば、状態が上がってこないまま開幕を迎えるという選手もいる。それは個人差なので、さほど違いはないのかなと思っています。もちろんケガとか、痛いところがあるとなると別ですが。
―― まずは健康な状態でチームに戻って来ること、あとは実戦から離れていた選手の調整という部分がポイントになりそうですね。
真中:さっきは投手の話だけでしたが、もちろん野手も出番が少なかった選手は少し調整が必要になります。スーパーサブ的な役割だった牧原大成選手や、セ・リーグだと第3の捕手だった巨人の大城卓三選手。彼らはもう少し打席の感覚を掴みたいところかと思います。
―― それでは、これからセ・リーグ各球団のお話を伺いますが、その前に真中さんは今季のセ・リーグについてどんな印象を持っていますか?
真中:今年のセ・リーグは、とにかく“団子状態”だと思っています。1位から6位まで本当に差がない。どのチームが何位になってもあり得る。
―― とくに気になっているチームはありますか?
真中:どのチームが、というよりも、チームカラーが分かれているなという印象です。阪神と中日は投手力が強くて、ヤクルトとDeNAは打力が強いチーム。巨人と広島はバランス寄りかなと思いますが、その中でも巨人は打力で、広島は投手力かなと。その辺がどう絡んでいくのかという部分が、おもしろいなと思って見ています。
セ・リーグ各球団が「挑み続ける」…優勝へのカギは?
東京ヤクルトスワローズ
―― それでは、リーグ連覇中のヤクルトからお話を伺います。3連覇、そして日本一奪還のカギはどこでしょうか。
真中:追われる立場にはなりますが、3連覇の可能性も含めて上位進出の可能性は高いチームだと思います。その中で、課題となるのはやっぱり投手力。髙津臣吾監督とコーチ陣が今ある戦力をうまく駆使していますが、やはり軸となる投手が不在。2ケタ勝利の投手がいなかったり、投球回数の部分だったりも含めて、新たな柱となる先発投手が出て来てほしいところです。
―― 投手陣で言えば、守護神のスコット・マクガフ投手も退団しました。リリーフ陣はどうでしょうか。
真中:クローザーがいなくなったというのは当然大きいです。新外国人選手としてキオーニ・ケラ投手が入ってきていますが、やはり来日1年目ということで読めない部分もある。清水昇投手や木澤尚文投手が回る可能性も出て来ていますが、そこが誰になるかで大きく変わってきます。先発と抑えを含めた投手力の部分がカギで、ここがうまくハマれば3連覇というのも見えてくるのかなと。
―― 先発陣の新たな柱という点では高橋奎二投手にも期待がかかりますが、先ほどお話しいただいた「侍ジャパン組」で「登板機会が少ない」選手に当てはまりますね。
真中:そうですね。あまり投げられていないので、やはり開幕カードはちょっと難しいのかなと思います。ファームや教育リーグの試合で5イニング・100球くらいを投げてみて、どうかな?という。投げているボールは素晴らしかったので、期待はしています。
横浜DeNAベイスターズ
―― つづいて、昨季2位のDeNAはいかがでしょうか。
真中:こちらも「先発投手」はひとつポイントになりそう。柱には今永昇太投手がいますが、ここに来て大物助っ人(トレバー・バウアー)を獲得していますよね。大貫晋一投手が少し遅れていたり、濱口遥大投手と東克樹投手がちょっとオープン戦で苦しんでいたりということもある。石田健大投手が開幕投手ということでしたが、やや不安な状態で開幕を迎えることになると思います。後ろには強力な投手が控えているので、先発陣がどれだけ頑張って試合を作っていけるか、が大事だと思います。
―― 先ほど“打力のチーム”というお話もありましたが、打線に不安はないでしょうか。
真中:安定した打者が揃っている印象です。ただ、課題と言うといわゆる“各駅停車”なところがあって、足が使えずに走者がなかなか進んで行かない。打率が良くてもなかなか得点につながっていかないのは、そういった部分もあるのかなと見ています。
―― 外国人選手が2人不在だったこともあり、オープン戦では若い森敬斗選手やルーキーの林琢真選手がスピードという面も含めて良いアピールを見せていますね。
真中:ネフタリ・ソト選手とタイラー・オースティン選手という2人の大砲は強力ですが、ちょっとこのところ元気がないシーンも見える。オースティン選手は手術明けでもありますから、破壊力が失われる分を機動力で補っていけるか。そして2人の大砲がなるべく長い時間、万全のコンディションで力を発揮することができるか。“優勝”となるとこういった部分での得点力アップもカギになりそうです。
阪神タイガース
―― つづいて、昨季3位の阪神です。
真中:投手力に関しては、先発・リリーフ含めて上位の力があると思います。ということで、その投手陣をいかに援護していくのか。中でも主軸となるべき2人、大山悠輔選手と佐藤輝明選手の安定感がカギになってくると見ています。
―― 今年は岡田彰布新監督が就任。2人の守備位置も固定して起用していく方針を打ち出していますね。
真中:それも大きいですね。優勝を目指していくうえで、昨年まではこの2人の主軸に好不調の波があった。持ち場が決まることによって、その波が小さくなってくれば。また、波があったとしても、大山選手が良くない時は佐藤選手が頑張る、その逆もしかりで、2人でバランスを取りながら機能していくとチームの戦いぶりも安定感が増していくのかなと思います。
―― その他で言うと、中野拓夢選手の二塁コンバートや、ルーキーの森下翔太選手が開幕スタメンに向けてアピールを見せています。
真中:やっぱり“選手を固定して安定した戦い方を”というのがよく見えます。ただ、うまく回っている時はそのままで良いのですが、どうしても長いシーズンになるとうまく行かない時期と言うのもある。そうなった時にどう考えるかというのは注目です。森下選手も当然楽しみですが、ルーキーなので苦しむ時期もきっとあると思う。その時にどこまで我慢していくのか、それとも早めに手を打ってくるのか。経験のある監督なので、その時の対応というのも楽しみに見たいなと思っています。
読売ジャイアンツ
―― つづいて、昨季は4位だった巨人です。
真中:巨人も「先発投手」がカギになりそうです。打線には経験のある選手が多くいて、今年もある程度の得点力というところは期待ができそう。一方で先発陣を見ると、昨季は8人がプロ初勝利を挙げたということがありました。喜ばしいことではある一方、裏を返せばなかなかローテーションに固定できる投手もいなかったということ。その点、昨年良い経験を積んだ若い投手が1人でも2人でもローテに入って回れるようになれば、一気に逆襲の体制は整って来るかなと見ています。
―― 今年は新外国人選手を5人も獲得しているんですよね。オープン戦でも様々なタイプの選手、特に投手が良いアピールを見せています。
真中:先発もそうですが、昨季は最後の大勢につなぐまでの7回・8回で苦しんだ部分がありましたよね。原辰徳監督がたくさんの投手を使って、なんとかやりくりしていた。その点ではヨアン・ロペス投手が良い投球を続けているので、大勢投手とともに勝ちパターンを固められたら安定感は出てきそうです。
―― 野手ではベテラン選手の壁が高いですが、現役ドラフトで加入したオコエ瑠偉選手の奮闘というのも目立っています。
真中:1番で頑張っていますよね。チームが変わって、本人も気持ちを新たにプレーしているなと思います。ただ、外野陣も丸佳浩選手がいて、新外国人のルイス・ブリンソン選手がセンター。レフトがオコエ選手になるか、昨年もいたアダム・ウォーカー選手になるか、若い選手が出てくるかというところ。外国人選手は枠の問題もあるので、オコエ選手がハマってくれると助かる部分もありそうです。
広島東洋カープ
―― つづいて、昨季5位の広島です。こちらは新井貴浩新監督に注目が集まっていますね。
真中:まだ新井監督がどんな野球をするのか分からない部分も多いので、ファンの方々と同じで楽しみではあります。ただ、全体的なバランスは悪くないと思いますが、他球団と比べて見ると投打とも戦力はやや落ちるのかなという印象もあります。
―― あまり顔ぶれが変わらない中で、野手ではマット・デビッドソン選手に長打力不足解消のキーマンとして期待がかかっています。
真中:オープン戦を見ても全体的に打線が苦しんでいますが、やっぱり新助っ人と2年目のライアン・マクブルーム選手にかかる期待は大きいですよね。西川龍馬選手や坂倉将吾選手といった良い打者は出て来ているので、彼らが作ったチャンスを一発で還すという役割ができるかどうかですね。
―― 投手陣も、昨季は抑えの栗林良吏投手にどうやってつなぐかという部分が課題になりました。
真中:先発は大瀬良大地投手がいて、森下暢仁投手も開幕は不透明ながら序盤で帰って来られそうなのは大きい。床田寛樹投手も戻ってきましたし、やっぱりリリーフ陣がカギ。栗林投手は侍ジャパンを離脱したということもありますから、点と取るところとそれを守り切るところ、この2つを新井監督がいかにして解消していくかがポイントです。
中日ドラゴンズ
―― そして最後は中日です。昨季は最下位でしたが、真中さんは期待をかけていらっしゃるんですよね?
真中:なにしろ投手力はリーグでもNo.1だと思っています。先発も駒が揃っていますし、後ろにはジャリエル・ロドリゲス投手(※)とライデル・マルティネス投手がいます。ドラゴンズが強かった時代って、やっぱりディフェンスを中心に守って勝ってきた。立浪和義監督もその意識はあるんじゃないかなと思います。
(※取材後に亡命報道/記事公開時点での公式発表はなし)
―― その一方で得点力、とくに長打力不足は長年課題として挙がっていますね。
真中:やっぱりそこはカギになってきます。その中で注目したいのが、まずダヤン・ビシエド選手。もう8年目になるということですが、このところやや良い時の力を発揮しきれていない。そんな中でアリスティデス・アキーノ選手を筆頭に外国人の野手が結構入ってきましたから、相当刺激になっている部分があるはず。成績が良くなければ外されてしまうぞと、今年は勝負の年として全盛期のような働きに期待したいです。
―― 京田陽太選手や阿部寿樹選手といった中堅どころのトレードもありました。
真中:そこで期待したいもう一人が高橋周平選手ですね。京田選手や阿部選手がチームを離れて、生え抜きでチームを引っ張って行く立場だと思いますが、彼の持っているものはまだまだこんなものではない。若返りの流れの中で尻に火がついている部分や、そういう想いはあると思うので、新たなプレッシャーや緊張感の中、ビシエド選手と高橋周平選手の2人の奮起に期待をしています。
ヤクルトに「黄金期」到来の予感…?
―― セ・リーグの各球団を振り返っていただきましたが、やはり今年は混戦という見立てですね。
真中:一体どのチームが抜け出すのか、本当に分からない。ひとつはスタートダッシュというのがポイントになると思いますし、あとは新戦力や新監督。新たな力がペナントレースに影響を与えるのかなと思っています。
―― ちなみに、その中で優勝を予想するとなるとどのチームを推しますか?
真中:優勝候補はヤクルト。投手力の課題は挙げましたが、打力では抜けている印象で、タイプの違う打者が揃っているというのは強み。山田選手がダメなら村上選手が打つ、それでもダメならホセ・オスナ選手やドミンゴ・サンタナ選手がいる。一人の投手にハマる恐れが少ないのは大きいです。
―― その山田哲人選手や村上宗隆選手がWBCで不在の間にも、長岡秀樹選手や内山壮真選手、濱田太貴選手に武岡龍世選手といった若手が猛アピールを見せていました。
真中:長岡選手は昨年ブレイクしましたけど、それに続けと新たな新星が出てくる可能性も大いにあります。また、その長岡選手も危機感を持ってやっている。まだまだ安泰じゃないぞと。競争が激しいというのも良いポイントで、黄金期を作っていく可能性もあるのかなと。忖度はないです!
―― ありがとうございます、しっかり書いておきます(笑)では最後に、開幕を楽しみに待っているファンの皆様へメッセージをお願いします。
真中:今年はお客さんが入って声も出せるようになって、オープン戦も盛り上がっていますし、WBCなんか見ていてもすごかったですよね。球場はストレス発散の場所にしてもらって良いと思います。もちろん、周りに迷惑をかけない範囲で、ですけども。ここ数年は球場から離れていたファンの方も多かったと思いますから、これを機にぜひ現地にも足を運んで、プロ野球を楽しんでいただけたらなと思います。