“C”マークを胸に挑む“頂”への道
「僕の夢と一緒に飛び続けてください!」
ベイスターズの守護神・山﨑康晃が、昨年ファンの前で残留宣言したときの言葉。それはMLBへの航海へ向かいかけていた船の錨を、自らの意思で横浜の港町に下ろした事を意味した。
「小さな大魔神になります!」2015年のルーキー時代、初セーブを挙げたヒーローインタビューで初々しく宣言してから8年、CSも日本シリーズの舞台もクローザーとして君臨。TBSからDeNAに親会社が代わり、長い暗黒期から抜け出していく過程において、象徴的な存在となった右腕。
実際、16年は33セーブでチームを初のCSに導くと、翌年には26セーブながらも防御率1.64と安定し、日本シリーズまで進出。30セーブ、防御率1.95の19年と、37セーブ、防御率1.33の昨年は、ともに2位まで押し上げる原動力となった。反面、不振を極めた20年は6セーブ、防御率5.68で4位に終わり、21年の1セーブ、防御率3.27のシーズンは最下位に沈んだ。様々な要因があるとはいえ、結果的にはチームの浮沈のキーマンとなっている点は見逃せない。
復活を経てキャプテンへ就任
20、21年と苦しんだ2年間「あのもどかしさがなくては今はないと思っているんで、自分に必要な時間だったのかなと捉えています。実力も含め力不足の部分も多少なりともあったと思うし、気持ちで慢心的な、マウンドに立てて当たり前じゃないですけど、そういう部分もあったと思うんです」と回想。悔しさを胸に、一昨年のオフからは「低酸素のメニューやったり、減量のロングディスタンスのジョブに出たり。例年になくシーズンオフに頑張った」ともう一度自分を追い込んだ。
結果は形となって現れ、自己タイのセーブ数をマークするなどクローザーとして躍動。「去年のシーズンは怪我もなく全うできた」と華麗なる復活を遂げた。昨年のオフも同様のトレーニングを継続し「今年もいい準備が出来ているので、僕自身どこまでできるのかという可能性も含めて、楽しみではありますね。順調です」と笑顔の奥には自信も宿る。
さらに今シーズンからは投手キャプテンに就任。昨年オフに6年の長期契約を締結したことも含め、プレー面以外の働きににも期待されている。
昨年の2位の結果に「手の届く場所まで行きましたし、首位との攻防戦もありましたよね。そこでプレッシャーがかかりました。正直チームの雰囲気が違ったこともありましたし、動きが違ったときもあったと思うんです。それで大事な試合をブルペンで壊してしまった」と村上宗隆を止められず、事実上優勝の灯火が消えたヤクルトとの3連戦を後悔。
それを踏まえた上で「投手陣の横の繋がり」をさらに重要視し「ピッチャーが試合の中で唯一攻められる存在だと僕は思っていますし、アグレッシブな継投を増やして行ければ」と理想を口にする。
また国指定の難病「黄色靭帯骨化症」を乗り越えての復活を目指し、ここまで順調に階段を登っている三嶋一輝に「苦しい時期を乗り越えて戻ってきてくれましたし、僕も苦しい時間を支えてもらったいいライバルでもあり戦友でもある。お互いに切磋琢磨しながら、これからの苦しい時期があってもタッグを組んでいきたい」と“大好きな先輩”と公言する存在と「ここに伊勢(大夢)、入江(大生)、(エドウィン)エスコバーも含めてスクラム組んで、一つになって戦いたい」とチームのストロングポイントである勝利の方程式のブラッシュアップをも目論む。
さらにオフの期間に球団に働きかけていたブルペン整備などのハード面も改善され「モニターも大きくなって、ブルペンも投げやすくなりました。環境も良くなって、恵まれているなと思います。昔の横浜スタジアムとはかけ離れてますから」と目を細める。
ベッドも5つに増設された睡眠室も完備され「ナイターの後のデーゲームなど、アドレナリンが出ていて眠れないことがほとんど。今まで1つしかなかったので、先輩が寝ていると若手は使えなかった」点もクリア。「ここで寝泊まりできるような」と充実した施設の完成にも感謝した。
リーダーとして「若手が刺激しながら出てこられるようなブルペン陣を、年間通して成長して行きながら作り上げていきたい。昨年コーチが一掃されて、いろんな刺激もありましたけど、結局やるのは選手だと昨年のシーズンで気づきましたし、ブルペンでも引っ張っていかなくてはならない存在だと自負しています」とキッパリ。
加入が決まった超大物トレバー・バウアーにも「彼が実力を発揮できるような環境作りは引き続きやっていきたい」と語り、責任感とともにチーム投手陣全体にも目を光らせていく。
愛するファンの後押し
もうひとつ、大切な味方も帰ってきた。「お客さんあってのプロ野球ですし、僕自身“ヤスアキジャンプ”で育てて頂いたと本当に思っています」と感謝するファンの後押しだ。コロナによる制限も解除となった今季、プロ入り以来グローブプレゼントや広報役も買って出るなどファンとの接点を持ち続けた男のバックには、心強い存在が再び戻る。
先日行われた決起集会にも飛び入りで参加し「応援団と皆さまに『ありがとう』とどこかで伝えたいなと思っていました。感極まっちゃってああいう風になってしまいましたけど」と声援を受けて思わず涙が溢れた。
「歓声がなくなった頃から僕も調子を落として。どれだけの応援のエネルギーが大きいのかわかっているんで。痛いほど痛感しているので。ほんとにハマスタに声が戻ってきてよかったなと思いますし。また皆んなと一緒に戦えるのは楽しみですね」と満面の笑みを浮かべた。
今後も「調子いいときも結果出ないときも、皆んなのためにサインだって写真だって応じます。僕はファンサービスにスランプはないと思っているので!」とかけがえのない存在に誓う背番号19。
キャプテンとしての自覚、ハード面の強化、そして大切なファン。「戦う環境は整った。僕らが今度はやる番だなと思っている」と闘志を燃やす。絶対的守護神として、1998年以来四半世紀ぶりの“頂”へ。熱を帯びた雄叫びとともに、2位の壁を“BEYOND(超えて)”行く。
取材・文=萩原孝弘