伝統の「巨人の四番」という宿命
5年連続30本塁打を記録しても、評論家やファンから「物足りない」と言われてしまう底知れぬ男。
それが今の岡本和真という選手の立ち位置である。昨季は140試合で打率.252、30本塁打、82打点、OPS805。5年連続30発は巨人では王貞治、松井秀喜に次いで3人目の快挙だ。守っては2年連続のゴールデン・グラブ賞も獲得した。それでも、打撃不振で夏場から四番の座を中田翔に譲り、チームが5年ぶりのBクラスに沈むと、「岡本が打てないから負けた」と真っ先に批判されてしまう。
大黒柱の宿命———。岡本が下を向けば、ベンチが沈み、球場も沈黙する。26歳にして、背番号25はすでにチームを背負いグラウンドに立っているわけだ。球界のあらゆる価値観は変わりつつあるが、いまだに伝統の「巨人の四番」というポジションと日々戦っている数少ない選手とも言えるだろう。
このまま負けっぱなしではいられない。21年にホームラン王のタイトルを分け合い、同じ四番サードのライバルとして度々語られてきたヤクルトの村上宗隆は、昨季は史上最年少の三冠王を獲得して、チームの連覇にも貢献した。感情を前面に出してナインを引っ張る村上の姿は、新時代のリーダーそのものだった。岡本の背中とダブらせ、そこに巨人ファンは、歯がゆさを感じなかったと言えば嘘になる。
原辰徳監督も、感情を表に出さず、ときに淡々とプレーしているように見える主砲に思うところがあったのだろう。今季から、岡本は坂本勇人に代わり、ジャイアンツの新主将を任されることになった。それは「坂本に頼らないチーム作り」と同時に、「おまえさんが責任を持ってチームを引っ張れ」という意図もあるはずだ。
なお、坂本と岡本は学年的には8歳差で、その岡本と22年ドラフト1位の浅野翔吾もまた8歳差である。まさに組織において、96年生まれの岡本は上と下の世代に挟まれ、現場をまとめることを求められる中間管理職的な立場でもある。
岡本和真が打てば勝てるし、打たなければ負ける
確かに今の巨人は過渡期だ。原政権も通算17年目に突入。坂本勇人、丸佳浩、中田翔ら主力陣がそれぞれ30代中盤を迎え、投手陣では功労者の菅野智之から、22歳の戸郷翔征へのエース継承が現実味を帯びてきた。世代交代の真っ只中で、新シーズンでは勝つことだけでなく、次世代の新しいチームへの土台も作らなければならない。そういう状況で新キャプテンを託された。もちろん、その中心を担うのが「四番サード岡本」なのは言うまでもないだろう。
思えば、岡本が一軍定着した5年ほど前、まだ阿部慎之助や亀井善行が現役で、坂本のキャリアはピークを迎えつつあり、背番号25は巨人の末っ子的なポジションでノビノビとプレーしていた。あれから長い時間が経ったのだ。いまや岡本和真が打てば勝てるし、打たなければ負ける。シンプルだが、それが令和の巨人軍のリアルである。
6年連続30本塁打のその先へ———。超えていけ、過去も、自分も。その挑戦すべきハードルは、年間50本塁打なのか、チーム11年ぶりの日本一なのか……。
20年から21年にかけての2年連続の本塁打王と打点王の同時獲得は、巨人では王貞治以来44年ぶりの快挙だった。通算200本塁打には、早くもあと35本と迫っている。だが、これだけの実績を残してもなお、多くのファンが「岡本はこんなもんじゃない」と思ってしまう。球場で誰もが打ってほしいと願う場面で、勝負強さを発揮してチームを牽引する岡本の姿を見たいのだ。
そう、WBC決勝のアメリカ戦で1点リードの4回に左翼席へ貴重なソロアーチを叩き込んだ直後、自軍ベンチ前で侍ジャパンのチームメイトとハイタッチを交わし、喜びを分かち合ったあの勇姿のようにである。
やっぱり、岡本和真には、殊勲の一打とお立ち台での「最高です」が誰よりもよく似合う。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)