阪神・髙橋遥人 (C) Kyodo News

◆ コメントに滲む感謝と落胆

 もう何度も経験している“長い旅”が、また始まろうとしている。

 タイガースの髙橋遥人が、3年連続となる手術を受けて今季中の復帰は絶望的となった。

 16日に球団が発表したのは「左尺骨短縮術」および「左肩関節鏡視下クリーニング術」。左肩と左手首付近にメスを入れた形だ。

 今季は昨年4月18日に行った左肘内側側副靱帯再建術(トミー・ジョン手術)からのリハビリ過程。2月の春季キャンプ中にはブルペンで捕手を座らせるまで進展していたが、4月の時点ではノースロー調整に後退していた。

 「もう一度マウンドに立つチャンスをいただいたことに対して、球団の方々に本当に感謝しています。チームが戦っている中で戦力になることができず、ファンの皆さまの期待に応えることができずに申し訳ない気持ちでいっぱいです。必ずマウンドに戻ってくることができるように、あと少しリハビリを頑張ります」

 球団を通じて発表したコメントには、近年で3度目になる手術にGOサインを出してくれた球団への感謝、そして優勝を目指すチームの戦力になれていないことへの落胆が同時ににじんでいた。

◆ 一歩一歩が甲子園のマウンドに繋がっていると信じて

 フルシーズンで投げればどんな成績を残すのか──。これほどまでに“幻想”を抱かせる投手も少ない。

 普段、会話や取材をしていても「僕なんて……」「全然すごくないですよ」が口癖の少し頼りないキャラに見えるが、ひとたびマウンドに上がると、投げているボールとのギャップにいつも驚かされる。

 何より、同僚のプロ野球選手が「遥人のボールはエグい」と声を揃える。そんな底知れぬポテンシャルを感じさせるパフォーマンスを筆者も見てきた。

 今でも“エグい”記憶として残るのが、2021年9月25日の敵地でのジャイアンツ戦。東京ドームのマウンドに、背番号29は仁王立ちしていた。

 6者連続を含むキャリア最多の13奪三振を記録してのプロ初完封。坂本勇人が内角スライダーに尻餅をついて空振り三振するなど、圧倒的な内容だった。

 9回も一死満塁のピンチを背負いながら「遥人に託すしかない」と降板させなかった当時の矢野燿大監督の信頼にも応えて零封。

 「なんで最後こうなるのかなと思って投げていたんですけど。1点もあげないで完封したかった」と弱気と強気が同居したような“らしい”コメントが快投を際立たせた。

 あの「シャットアウト」から2年が経とうとしており、次代のエースと期待されてきた左腕も今年で28歳。今回の手術はキャリアの大きな分岐点になることは間違いない。

 投げられない辛さや苦しみは、この3年で誰よりも味わってきた。だからこそ、あの場所への渇望も誰よりも強い。

 リハビリで記していく一歩一歩が甲子園のマウンドに繋がっていると信じて、髙橋遥人は覚悟を決めて歩き出した。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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