話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、プロ野球前半戦を2位で終えた広島東洋カープを率いる新井貴浩監督にまつわるエピソードを紹介する。
前半戦が終了したプロ野球ペナントレース。結果的に4月、5月と好調だった阪神が1位の座をキープしたものの、3位までは3ゲーム差。優勝争いはまだまだどうなるかわからない混戦模様だ。
そのなかでも注目すべきは前半戦最後に5連勝を飾って一気に2位に浮上した広島カープ。勝利数47は1位阪神の46勝を抜き、セ・リーグで最も多い。
振り返れば、開幕前の順位予想ではBクラス予想をする評論家も少なくなかった。4年連続Bクラス、指導力が未知の新井新監督、大型補強はなし、外国人野手は不振続き……と、確かに上がり目の要素は少なかったかも知れない。
ただ、当の新井監督自身はこの“2位ターン”について、「驚きはない」とこんなコメントを残している。
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「うちの選手は、それくらいの力はある」という揺るぎない信頼。それをハッキリ口にするのが新井監督らしさだ。
好成績の数字を紐解くと、1つは昨季までの「苦手」「鬼門」を払拭したこと。カープにとって毎年の鬼門は交流戦で、2019年以降は連続最下位。昨季(2022年)交流戦も5勝13敗で借金「8」を記録していた。
ところが今季は9勝9敗で勝率5割をキープ。3連覇(2016~2018年)以降は毎年交流戦で大きく上位との差が開いていただけに、ここを踏ん張れたことは大きい。
また、昨季の鬼門といえば、対ヤクルト戦の8勝16敗1分け。ここでも借金「8」を計上し、村上宗隆には13本のホームランを献上していた。
だが、今季は対ヤクルト戦で12試合を終えて7勝5敗。早くも昨季の勝ち星に並びそうな勢い。また、懸案だった村上対策でも結果を出し、対戦打率は.167。今季のセ・リーグで村上を最も抑えているのがカープなのだ。
去年(2022年)までのマイナスをプラスに、という意味では、田中広輔の復活もカープ躍進にとって大きな要因ではないだろうか。一昨年は打率.206で本塁打2。昨年は打率.200で本塁打0。出場試合数もキャリアワーストの41試合に留まり、オフの契約更改では球団史上最大の1億2000万円ダウンでのサインと、まさに崖っぷちに立たされていた。
対して今季の田中広輔は既に64試合に出場し、打率.248。本塁打は5本を記録。当初は小園海斗との併用でのショート出場だったが、サードでのスタメン起用が増えるなど、その存在感は日増しに大きくなっている。
この復活劇を誰よりも信じていたのが新井監督だ。2月の春季キャンプではこんな言葉を残していた。
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まさにその期待に応えての復活劇であり、前半戦での躍進だったと言える。
今季のカープを見ていると、とにかく感じるのは新井監督の選手たちへの「期待」と「信頼」の大きさだ。そもそも、監督就任が決まった直後の昨年11月、日南秋季キャンプ。初めて選手の前に立ち、所信表明とも言うべき挨拶で語った言葉にも「期待」が込められていた。
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それだけ選手の能力を信じて起用し、その期待を意気に感じた選手たちが奮起する、という好循環が生まれているのが今季前半戦のカープなのだろう。
そして、選手に期待をかけるからこそ、その活躍を誰よりも喜ぶのは新井監督。例えば、上述の田中の活躍ぶりについて、今季初本塁打の試合では「彼もうれしいと思うけど、僕もうれしいです」とコメントを残し、その1週間後の満塁アーチを放った場面では、さらに興奮して喜ぶ新井監督の姿があった。
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前半戦、打率.327、8本塁打、40打点と打線を引っ張ってきた西川龍馬が故障離脱しても、むしろ若手が活躍するチャンスであると、新井監督はチームに対してこんな発破をかけている。
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この期待に応える次なる選手が誰になるのか? 後半戦もカープがセ・リーグの台風の目になり、優勝争いが激化すれば、ペナントレースはますます面白くなりそうだ。
前半戦が終了したプロ野球ペナントレース。結果的に4月、5月と好調だった阪神が1位の座をキープしたものの、3位までは3ゲーム差。優勝争いはまだまだどうなるかわからない混戦模様だ。
そのなかでも注目すべきは前半戦最後に5連勝を飾って一気に2位に浮上した広島カープ。勝利数47は1位阪神の46勝を抜き、セ・リーグで最も多い。
振り返れば、開幕前の順位予想ではBクラス予想をする評論家も少なくなかった。4年連続Bクラス、指導力が未知の新井新監督、大型補強はなし、外国人野手は不振続き……と、確かに上がり目の要素は少なかったかも知れない。
ただ、当の新井監督自身はこの“2位ターン”について、「驚きはない」とこんなコメントを残している。
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『今のこの位置っていうのは選手が本当に頑張ってくれていると思いますし、ただ、ここの位置にいることに驚きはない、です。うちの選手は、それくらいの力はあると思ってるから。みんなの頑張りはすごくうれしいけど、驚きはないです』
~『日刊スポーツ』2023年7月17日配信記事 より
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「うちの選手は、それくらいの力はある」という揺るぎない信頼。それをハッキリ口にするのが新井監督らしさだ。
好成績の数字を紐解くと、1つは昨季までの「苦手」「鬼門」を払拭したこと。カープにとって毎年の鬼門は交流戦で、2019年以降は連続最下位。昨季(2022年)交流戦も5勝13敗で借金「8」を記録していた。
ところが今季は9勝9敗で勝率5割をキープ。3連覇(2016~2018年)以降は毎年交流戦で大きく上位との差が開いていただけに、ここを踏ん張れたことは大きい。
また、昨季の鬼門といえば、対ヤクルト戦の8勝16敗1分け。ここでも借金「8」を計上し、村上宗隆には13本のホームランを献上していた。
だが、今季は対ヤクルト戦で12試合を終えて7勝5敗。早くも昨季の勝ち星に並びそうな勢い。また、懸案だった村上対策でも結果を出し、対戦打率は.167。今季のセ・リーグで村上を最も抑えているのがカープなのだ。
去年(2022年)までのマイナスをプラスに、という意味では、田中広輔の復活もカープ躍進にとって大きな要因ではないだろうか。一昨年は打率.206で本塁打2。昨年は打率.200で本塁打0。出場試合数もキャリアワーストの41試合に留まり、オフの契約更改では球団史上最大の1億2000万円ダウンでのサインと、まさに崖っぷちに立たされていた。
対して今季の田中広輔は既に64試合に出場し、打率.248。本塁打は5本を記録。当初は小園海斗との併用でのショート出場だったが、サードでのスタメン起用が増えるなど、その存在感は日増しに大きくなっている。
この復活劇を誰よりも信じていたのが新井監督だ。2月の春季キャンプではこんな言葉を残していた。
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『もちろん、期待している。まだ34(歳のシーズン)でしょ。トリもまだバリバリでできる年だって言っていた。ここ数年思うようにいかないシーズンが続いているけど、僕もまだ全然できると思うし、彼にも期待している。ノックの動きを見ても、スイングの強さを見ても、しっかりとやってきたなと分かるので、今年にかける思いが伝わってくる。』
~『日刊スポーツ』2023年2月2日配信記事 より
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まさにその期待に応えての復活劇であり、前半戦での躍進だったと言える。
今季のカープを見ていると、とにかく感じるのは新井監督の選手たちへの「期待」と「信頼」の大きさだ。そもそも、監督就任が決まった直後の昨年11月、日南秋季キャンプ。初めて選手の前に立ち、所信表明とも言うべき挨拶で語った言葉にも「期待」が込められていた。
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『言いたいことは2つある。まず1つ目は、お前たちが思っているより、俺はお前たちみんなに期待している』
『2つ目は、好き嫌いでの起用を絶対にしない』
~『BASEBALL KING』2022年11月25日配信記事 より
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それだけ選手の能力を信じて起用し、その期待を意気に感じた選手たちが奮起する、という好循環が生まれているのが今季前半戦のカープなのだろう。
そして、選手に期待をかけるからこそ、その活躍を誰よりも喜ぶのは新井監督。例えば、上述の田中の活躍ぶりについて、今季初本塁打の試合では「彼もうれしいと思うけど、僕もうれしいです」とコメントを残し、その1週間後の満塁アーチを放った場面では、さらに興奮して喜ぶ新井監督の姿があった。
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『すごかったですね。私もベンチで見て、血が沸騰するような、そんなホームランでしたね。彼が今年かける気持ちというのは私一番よく分かっていますので、本当にうれしかったです』
~『スポーツ報知』2023年4月16日配信記事 より
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前半戦、打率.327、8本塁打、40打点と打線を引っ張ってきた西川龍馬が故障離脱しても、むしろ若手が活躍するチャンスであると、新井監督はチームに対してこんな発破をかけている。
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『龍馬は替えがきかない選手ですけど、そこにまた若い選手にチャンスがあると思いますし、力をつけてもらいたい。“若いの出てこいや!”という気持ちです』
~『日刊スポーツ』2023年7月12日配信記事 より
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この期待に応える次なる選手が誰になるのか? 後半戦もカープがセ・リーグの台風の目になり、優勝争いが激化すれば、ペナントレースはますます面白くなりそうだ。