阪神・岩貞祐太 (C) Kyodo News

◆ 「ヨコの気持ちも背負って」

 いつもなら笑顔で胸を張って上がっている聖地のお立ち台で、タイガースの岩貞祐太は声を詰まらせていた。

 「いつもとは全く違う気持ちというか……。抑えられて良かったというか、ヨコの気持ちも背負って投げました」

 脳腫瘍で18日に逝去したOB・横田慎太郎さんの追悼試合として行われた25日のジャイアンツ戦は、喪章を付けたナインそれぞれが、故人へ思いをはせながらグラウンドで勝利のためにプレーした。

 なかでも2013年のドラフトで横田さんと同期入団の岩貞にとって、この一戦に懸ける思いは特別だった。

 「(天国で)横田が今どう思っていようが、僕らは勝手に背負ってというか、特に同期の僕らはそう思いながらやっていきたいと思います」

 志半ばでグラウンドを、そしてこの世を去った同僚の無念は言うまでもない。

 ユニフォームを着て野球ができる、勝利を仲間と分かち合える喜びにあらためて感謝しながらブルペンで肩を作っていた。

◆ 弔い星にしっかりと貢献

 1点を勝ち越した直後の7回に登板。だが、一死一・二塁といきなりピンチを招いた。

 マウンドは孤独。一人で戦わないといけないことは、これまでの野球人生で重々分かっている。ただ、この日だけは天国の横田さんに頼ったという。

 「ピンチになった時は抑えさせてくれるだろうな、と。横田に向けてそういう独り言を言って」

 迎えた秋広優人を150キロのストレートで二ゴロ併殺に仕留めた。

 「抑えられる球種を投げて抑えて、良かったです」

 バッテリーの勝利か、それとも同期の後輩が後押ししてくれたのか。いずれにしてもセットアッパーとして仕事を果たした背番号14は、横田さんに捧げる弔い星にしっかりと貢献して見せた。

◆ 悲しい別れを力に変えて

 「スマートフォンのフォルダの写真を見返したり……」

 訃報を耳にして数日は横田さんとの思い出を探し、懐かしむ時間がほとんどだったという。

 同期といえども、自身は大卒で横田さんは高卒。「どこに行くにも、ヨコがちゃんと付いてきているかなとか心配していました」と言い、“兄”としてその背中を優しく見守ってきた。

 横田さんが開幕スタメンを勝ち取るなど輝きを放った2016年シーズンは、少ない時間ではあったものの一軍でともにプレーした。

 4月16日のドラゴンズ戦では、岩貞は先発投手として梅野隆太郎とバッテリーを組み、横田に陽川尚将(現・西武)という同期4人が同時にスタメンに名を連ねた。

 「もっと一緒にやりたかったなって思います……」

 それが、横田さんとともに志高くプロの扉を叩いた“同期”としての本心だった。

 「今まで以上に、ユニフォームを着てプレーできる時間を濃いものにしていかないといけない」

 突然の別れで思い返し、思い出したものもたくさんある。背負うものが大きく、重くなってもいい。それを力に変えて、岩貞はマウンドに上がる。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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