話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、新外国人の加入でますます激戦となった、巨人の外野レギュラー争いにまつわるエピソードを紹介する。
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1月22日、球団から正式に獲得が発表された巨人の新外国人、ルーグネッド・オドーア選手(29歳、前パドレス)。メジャーでは通算178本塁打を記録し、シーズン30本塁打以上を3度もマーク。待望の大砲獲得で、2年連続Bクラスからの脱却と4年ぶりの優勝を目指す阿部慎之助新監督もさぞホッとしたことでしょう。
25日、ジャイアンツ球場を訪れた阿部監督はオドーアの起用法について、クリーンアップではなく6番か7番に置いて気楽に打たせる、という可能性も示しました。冒頭のコメントは「とにかく“助っ人”らしく、大きいのを狙ってくれ」という意図が見えます。気になるポジションについて、メジャーでは内野手登録で主にセカンドを守っていましたが、巨人は外野手として登録。おそらくライトを守ることになるでしょう。
これでますます激しくなったのが、外野のポジション争いです。昨年(2023年)11月、秋季キャンプ中の宮崎で、阿部監督はこう語っています。
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つまり「外野のポジション争いは横一線。誰がレギュラーを張るかは競争させて決める」という方針を明言しています。オドーアは余程のことがない限り開幕から使うでしょうから、残り2枠、レフトとセンターのレギュラーをめぐって、キャンプインからオープン戦終了まで熾烈な競争が演じられることになりそうです。現時点では誰が有力なのか、候補を見ていきましょう。
レフトは、ベテラン・丸佳浩(34歳)と、昨シーズン(2023年)ついにブレイクした秋広優人(21歳)の争いになりそうです。2018年オフに広島からFA移籍し、2019年・2020年のリーグ連覇に大きく貢献した丸。しかし移籍5年目の昨シーズンは、守備の負担を減らすためセンターからライトへコンバートされたにもかかわらず、121試合出場、打率.244、18本塁打、47打点と3部門とも移籍後ワーストの成績に。11年ぶりに規定打席に届かず、2013年以来10年連続で記録していた“シーズン100安打以上”も94安打で途切れてしまいました。
4月に35歳の誕生日を迎える今季はレギュラーが確約されていない厳しい状況ですが、“原点回帰”で打撃フォームを昔のスタイルに戻すことに決めました。広島時代の2016年に採り入れた、手を上下に動かしてタイミングを取る“ヒッチ打法”です。
2015年、丸は打率.249と低迷しましたが、2016年からヒッチ打法に変えたところ、打率は.291に向上。この年から始まった広島のリーグ3連覇に貢献しました。10日、ジャイアンツ球場で自主トレを報道陣に公開した丸は、ヒッチ打法への変更についてこう語っています。
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一方、こちらも負けてはいられないのが秋広です。高卒3年目の昨シーズンは自己最多の121試合に出場。規定打席にはわずか4打席足りませんでしたが、打率.273、10本塁打、41打点をマーク。5月下旬からは約3ヵ月にわたってクリーンアップに定着し、3番・5番を務めました。さすがにバテたのか、シーズン終盤にスタメンから外れましたが、チームに欠かせない戦力であることは間違いありません。
しかし今年(2024年)は、新年早々阿部監督から厳しい“お小言”をもらうことになりました。20日、春季キャンプのメンバー振り分けを発表した際、阿部監督は秋広についてこう語っています。
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野球以外の部分、しかも社会人としていちばん大切な「時間を守る」ということを2度も怠ってしまった秋広。さすがに阿部監督も3軍スタートにはしませんでしたが、報道陣の前で名指しでこういう話をしたのは「レギュラーを獲った気でいたら大間違いだぞ。浮かれてないでビシッとしろ!」という秋広への“警告”です。裏返すと、期待の表れでもありますが。
その秋広ですが、中日に移籍した中田翔と今年も一緒に自主トレを行いました。25日、ジャイアンツ球場に姿を見せた秋広は、自主トレ中、中田からこんな言葉を授かったと語っています。
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尊敬する中田からもらった「去年1年だけじゃ、活躍したうちには入らない。ブレイクした翌年こそ勝負の年だ」という言葉。もちろんそのことは秋広本人がいちばんよくわかっているでしょう。監督からの叱咤激励と、先輩からの金言を胸に、さらなる飛躍を目指します。
センターのポジション争いについては、本当に横一線です。阿部監督が「楽しみにしている」というドラフト3位ルーキー・佐々木俊輔(24歳)は、174cm、80kgと体格こそ小柄ですが、50m走は6秒フラット、遠投110mという俊足強肩が売り。バッティングもミートが巧く、パンチ力もあるという走攻守3拍子そろった選手です。帝京高校→東洋大学→日立製作所とアマの名門チームを渡り歩いてきただけあって、物怖じしないところも阿部監督好みかも知れません。
キャンプは1軍スタート。もし佐々木が開幕戦でスタメンに抜擢されると、巨人の“新人開幕スタメンセンター”は1938年(戦前)の三田(さんた)政夫以来、実に86年ぶり。外野手全体に広げても、1998年の高橋由伸以来26年ぶりの快挙となります。
また明るいキャラクターも魅力の1つ。11月23日に開催された「ジャイアンツファンフェスタ2023」で、今季のルーキーたちがユニフォーム姿をお披露目した際、佐々木はこんな挨拶をしました。
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レギュラー獲りに関しても、名前が挙がっているなら狙いたいと意欲満々。その意気やよしです。ベンチを活気づかせてくれる存在になるかも知れません。
一方、対抗として期待されているのは、今年で高卒2年目、2022年のドラフト1位・浅野翔吾(19歳)です。プロ1年目の昨シーズンは7月に1軍デビューを飾り、8月には初のスタメン出場。プロ初アーチも放ってみせました。まだまだ覚えるべきことは多いですし、プロの体づくりもこれからですが、こちらも物怖じしない、雰囲気のある選手です。
残念ながら、昨年は腰のヘルニアが悪化し秋季キャンプを途中離脱。順調に回復しつつありますが、キャンプは大事を取って3軍スタートとなりました。本人としては悔しいでしょうが、誰もがポテンシャルを認める選手。焦らず体調を万全に戻せば、チャンスがめぐってくるかも知れません。
浅野は14日、イチロー氏が兵庫県内で行った自主トレに参加。高松商2年のときにイチロー氏の指導を受けていますが、それ以来、約3年ぶりにアドバイスをもらったそうです。
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浅野が目指すのは、イチロー氏のように「1番打者」としてヒットを量産し、チャンスメイクをすることです。イチロー氏からどんなアドバイスをもらったかはわかりませんが、大きなヒントをもらったはず。昨年末には、こんな抱負も語っています。
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思えば、この浅野のようにレギュラー獲りへの意欲をむき出しにする若手が、昨シーズンは少なかったかも知れません。センターでは2022年のドラフト2位で慶應大時代、東京六大学リーグで三冠王に輝いた萩尾匡也もキャンプ1軍に抜擢。彼も阿部監督が期待する1人です。
選手たちがさらなる高みを目指し、ハイレベルな競争を繰り広げていくことで、チームは強くなっていきます。ベテラン・若手野手・ルーキーによる激烈な外野のポジション争いは、王者・巨人復活のカギを握っているのです。
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「助っ人で取ったわけだからね。『小細工はいらない』とは言うし、『ホームランか三振でいいよ』と言ってあげたほうがいいかな」
~『東スポWEB』2024年1月25日配信記事 より(巨人・阿部慎之助監督のコメント)
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1月22日、球団から正式に獲得が発表された巨人の新外国人、ルーグネッド・オドーア選手(29歳、前パドレス)。メジャーでは通算178本塁打を記録し、シーズン30本塁打以上を3度もマーク。待望の大砲獲得で、2年連続Bクラスからの脱却と4年ぶりの優勝を目指す阿部慎之助新監督もさぞホッとしたことでしょう。
25日、ジャイアンツ球場を訪れた阿部監督はオドーアの起用法について、クリーンアップではなく6番か7番に置いて気楽に打たせる、という可能性も示しました。冒頭のコメントは「とにかく“助っ人”らしく、大きいのを狙ってくれ」という意図が見えます。気になるポジションについて、メジャーでは内野手登録で主にセカンドを守っていましたが、巨人は外野手として登録。おそらくライトを守ることになるでしょう。
これでますます激しくなったのが、外野のポジション争いです。昨年(2023年)11月、秋季キャンプ中の宮崎で、阿部監督はこう語っています。
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『外野はほぼ空いているようなもんだからさ。みんなで競争してもらいたい』
~『スポニチアネックス』2023年11月14日配信記事 より
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つまり「外野のポジション争いは横一線。誰がレギュラーを張るかは競争させて決める」という方針を明言しています。オドーアは余程のことがない限り開幕から使うでしょうから、残り2枠、レフトとセンターのレギュラーをめぐって、キャンプインからオープン戦終了まで熾烈な競争が演じられることになりそうです。現時点では誰が有力なのか、候補を見ていきましょう。
レフトは、ベテラン・丸佳浩(34歳)と、昨シーズン(2023年)ついにブレイクした秋広優人(21歳)の争いになりそうです。2018年オフに広島からFA移籍し、2019年・2020年のリーグ連覇に大きく貢献した丸。しかし移籍5年目の昨シーズンは、守備の負担を減らすためセンターからライトへコンバートされたにもかかわらず、121試合出場、打率.244、18本塁打、47打点と3部門とも移籍後ワーストの成績に。11年ぶりに規定打席に届かず、2013年以来10年連続で記録していた“シーズン100安打以上”も94安打で途切れてしまいました。
4月に35歳の誕生日を迎える今季はレギュラーが確約されていない厳しい状況ですが、“原点回帰”で打撃フォームを昔のスタイルに戻すことに決めました。広島時代の2016年に採り入れた、手を上下に動かしてタイミングを取る“ヒッチ打法”です。
2015年、丸は打率.249と低迷しましたが、2016年からヒッチ打法に変えたところ、打率は.291に向上。この年から始まった広島のリーグ3連覇に貢献しました。10日、ジャイアンツ球場で自主トレを報道陣に公開した丸は、ヒッチ打法への変更についてこう語っています。
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『この打ち方にしてから試行錯誤はありましたけど、16年に変えた時はどうだったかなと思い出しながらやっていきたい』
『日本一になった時にレギュラーとして喜べるようにしたい。今は非常にワクワクしています』
~『スポーツ報知』2024年1月11日配信記事 より
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一方、こちらも負けてはいられないのが秋広です。高卒3年目の昨シーズンは自己最多の121試合に出場。規定打席にはわずか4打席足りませんでしたが、打率.273、10本塁打、41打点をマーク。5月下旬からは約3ヵ月にわたってクリーンアップに定着し、3番・5番を務めました。さすがにバテたのか、シーズン終盤にスタメンから外れましたが、チームに欠かせない戦力であることは間違いありません。
しかし今年(2024年)は、新年早々阿部監督から厳しい“お小言”をもらうことになりました。20日、春季キャンプのメンバー振り分けを発表した際、阿部監督は秋広についてこう語っています。
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『最初は3軍にしようかなと思ったんだけど。ちょっと遅刻が2回くらいあったみたいなので。(11月のNPB)アワードの時も遅刻して球団行事も遅刻してるんで。誰か特大目覚まし時計でも買ってあげて。遅刻するって一番信頼失うからね』
~『スポーツ報知』2024年1月20日配信記事 より
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野球以外の部分、しかも社会人としていちばん大切な「時間を守る」ということを2度も怠ってしまった秋広。さすがに阿部監督も3軍スタートにはしませんでしたが、報道陣の前で名指しでこういう話をしたのは「レギュラーを獲った気でいたら大間違いだぞ。浮かれてないでビシッとしろ!」という秋広への“警告”です。裏返すと、期待の表れでもありますが。
その秋広ですが、中日に移籍した中田翔と今年も一緒に自主トレを行いました。25日、ジャイアンツ球場に姿を見せた秋広は、自主トレ中、中田からこんな言葉を授かったと語っています。
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『去年1年やって自信も出てくるけど、1年で終わる選手はたくさんいる。ここからどんどん去年より大事なシーズンになると話してもらった』
~『中日スポーツ』2024年1月25日配信記事 より
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尊敬する中田からもらった「去年1年だけじゃ、活躍したうちには入らない。ブレイクした翌年こそ勝負の年だ」という言葉。もちろんそのことは秋広本人がいちばんよくわかっているでしょう。監督からの叱咤激励と、先輩からの金言を胸に、さらなる飛躍を目指します。
センターのポジション争いについては、本当に横一線です。阿部監督が「楽しみにしている」というドラフト3位ルーキー・佐々木俊輔(24歳)は、174cm、80kgと体格こそ小柄ですが、50m走は6秒フラット、遠投110mという俊足強肩が売り。バッティングもミートが巧く、パンチ力もあるという走攻守3拍子そろった選手です。帝京高校→東洋大学→日立製作所とアマの名門チームを渡り歩いてきただけあって、物怖じしないところも阿部監督好みかも知れません。
キャンプは1軍スタート。もし佐々木が開幕戦でスタメンに抜擢されると、巨人の“新人開幕スタメンセンター”は1938年(戦前)の三田(さんた)政夫以来、実に86年ぶり。外野手全体に広げても、1998年の高橋由伸以来26年ぶりの快挙となります。
また明るいキャラクターも魅力の1つ。11月23日に開催された「ジャイアンツファンフェスタ2023」で、今季のルーキーたちがユニフォーム姿をお披露目した際、佐々木はこんな挨拶をしました。
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『愛称はおさるのジョージでやらせていただいています。これからジョージと呼んでください。よろしくお願いします』
~『週刊ベースボールONLINE』2023年11月29日配信記事 より
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レギュラー獲りに関しても、名前が挙がっているなら狙いたいと意欲満々。その意気やよしです。ベンチを活気づかせてくれる存在になるかも知れません。
一方、対抗として期待されているのは、今年で高卒2年目、2022年のドラフト1位・浅野翔吾(19歳)です。プロ1年目の昨シーズンは7月に1軍デビューを飾り、8月には初のスタメン出場。プロ初アーチも放ってみせました。まだまだ覚えるべきことは多いですし、プロの体づくりもこれからですが、こちらも物怖じしない、雰囲気のある選手です。
残念ながら、昨年は腰のヘルニアが悪化し秋季キャンプを途中離脱。順調に回復しつつありますが、キャンプは大事を取って3軍スタートとなりました。本人としては悔しいでしょうが、誰もがポテンシャルを認める選手。焦らず体調を万全に戻せば、チャンスがめぐってくるかも知れません。
浅野は14日、イチロー氏が兵庫県内で行った自主トレに参加。高松商2年のときにイチロー氏の指導を受けていますが、それ以来、約3年ぶりにアドバイスをもらったそうです。
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『同じ背番号51を背負い“師匠”の「常に全力」を座右の銘としている浅野は「どの球を待って打つか?」「追い込まれてどういう対応するか?」などを具体的に質問。イチロー氏の答えは秘密とした浅野は「イチローさんの期待に応えられるように頑張っていきたい」と前を向いた』
~『東スポWEB』2024年1月17日配信記事 より
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浅野が目指すのは、イチロー氏のように「1番打者」としてヒットを量産し、チャンスメイクをすることです。イチロー氏からどんなアドバイスをもらったかはわかりませんが、大きなヒントをもらったはず。昨年末には、こんな抱負も語っています。
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『入団時は3年後、5年後にレギュラーを取りたいと考えていましたが、今は2年目の来年から、もちろん1軍に同行して試合に出場したいです。心がけたいのはいい意味で、がめつくやっていくことです。試合中は先輩についていくという気持ちではなく、自分のプレースタイルを前面に出して、自分が打って活躍する、点を奪う。そういう強い気持ちを一層持って来年はやっていきたいです』
~『スポーツ報知』2023年12月20日配信記事 より
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思えば、この浅野のようにレギュラー獲りへの意欲をむき出しにする若手が、昨シーズンは少なかったかも知れません。センターでは2022年のドラフト2位で慶應大時代、東京六大学リーグで三冠王に輝いた萩尾匡也もキャンプ1軍に抜擢。彼も阿部監督が期待する1人です。
選手たちがさらなる高みを目指し、ハイレベルな競争を繰り広げていくことで、チームは強くなっていきます。ベテラン・若手野手・ルーキーによる激烈な外野のポジション争いは、王者・巨人復活のカギを握っているのです。