ヤクルトキャンプ地の「つば九郎」 (C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第8回

 先日、東京の神宮外苑周辺を散策した。つば九郎に会いたかった。

 神宮球場に隣接するヤクルトの公式グッズ売り場「つば九郎ハウ巣」には、入場制限がかけられ、外にまでファンが並んでいた。大好物のビールや焼酎が供えられていた。

 球場近くのJR信濃町駅前には、等身大のパネルが飾られ、道行く人はスマートフォンで写真を撮って行く。「つば九郎神社」にも手を合わせる人がいた。

 ヤクルトの球団マスコット「つば九郎」の担当スタッフが急死したのは、今月16日のこと。同月4日に沖縄・浦添で行われる一軍キャンプから帰京予定の那覇空港で倒れ、県内の病院に入院したが、16日に帰らぬ人となった。死因は肺高血圧症とされる。

 球団発表があった19日からまもなく1週間近く経つのに、ファンの悲しみは続き、SNSなどでは新たな情報が発信されている。球団では当面の間「つば九郎」の活動停止としているが、悲しみの輪は広がるばかりだ。

 1994年4月にデビューしたマスコットは、実に30年あまり球場内外を駆け回り、今や当代随一の人気者に駆け上がった。球団グッズの売り上げは常に村上宗隆選手とトップの座を争うほど。毎年恒例の契約更改では、多くの報道陣が詰めかけ、今年も1月下旬に「年俸6万円、ヤクルト1000飲み放題」の条件で更新したばかりだった。

 今では12球団に存在するマスコットだが、「つば九郎」の存在はマスコットの枠を飛び越えて図抜けていた。

 神宮球場のマイクパフォーマンスで「つば九郎」と長年、仕事を共にしてきたDJパトリック・ユウさんは「マスコットを超えた超エンターテイナー」と語り、日刊スポーツの元担当記者である浜本卓也氏は「オンリーワンの国民的マスコット」(2月21日付)と評している。

 試合中に行う「空中クルリンパ」。ヘルメットをクルクル回して放り投げ、頭にかぶせようとするが、ついに最後まで成功はなし。それでも愛嬌のある動きでファンの目を釘付けにする。

 相手チームの選手にもちょっかいを出すかと思えば、代名詞となった「フリップ芸」では画用紙に時事ネタからギャグを交えたコメントまで平仮名の筆談で笑わせる。

 かつて最強助っ人と呼ばれたアレックス・ラミレス(後に巨人、DeNA監督など)とは「ゲッツ」のパフォーマンスで人気を二分。そのラミレスさんは「ファンをどうやって楽しませるか教えてくれた。良き先生」と偲ぶ。

「つば九郎」を唯一無二のマスコットに仕立て上げたのは、亡くなった担当スタッフの努力なくしてはあり得ない。

 自由奔放な動きの中にあるチーム愛、ユーモアと毒、かわいらしさと優しさに笑いと共感。ある時は人気芸人をもしのぐパフォーマンスはもはや一流以上の「芸」の域に達していた。

 ある時、真夏のベンチ裏で人気マスコットを目撃してことがある。分厚い張りぼてを脱ぐと、玉のような汗が噴き出ている。10キロ近いマスコットの中にいると一日で2~3キロ痩せることもあると言う。好きなだけでやれる商売ではない。

「誰がホームランを打った時にいち早く出迎えるんだ?(試合後に整列する時)誰がオレの横で挨拶するんだ?」と高津臣吾監督は長年の盟友の死を悲しんだ。

 チームは今月7日にも球団会長兼オーナー代行だった衣笠剛氏死去の悲報に接している。シーズンをにらんでも、5位に沈んだ昨季からの巻き返しを誓う中でキーマンと期待する奥川恭伸投手がキャンプ途中で下半身のコンディション不良のため一時別メニュー調整となるなど前途は厳しい。

 「つば九郎」のいない春。22日に沖縄で行われた対日本ハムのオープン戦では妹の「つばみ」が代役を務めた。山田哲人主将の胸マークには「つば九郎」が縫い付けてある。シーズンも共に戦うと言う選手たちの意思表示である。

「いつのひか あしあとのさきに つばくろうがいなくなったら そらをとんだとおもってください」これは昨年3月に自身のブログに書き記された一文だ。おそらくこの頃には体調が良くなかったのかも知れない。

 3年ぶりのリーグ制覇へ。神宮の空には「つば九郎」が戦いを見守っている。衣笠前会長の分も含めて“弔い合戦”が待っている。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

この記事を書いたのは

荒川和夫

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