『燃えプロ』のST CLUBの四番サードは、“ミスタG”だった。

 1987年6月26日発売のファミコンソフト『燃えろ!!プロ野球』(ジャレコ)は、1チームにひとりずつバントでホームランが可能なチートレベルの強打者がいる。CD CLUBはオチアイ、YS CLUBはホーナー、HT CLUBはバース。そしてOBチームのST CLUBはミスタGだ。もちろんモデルは長嶋茂雄である。

 1988年5月20日発売のPCエンジン『プロ野球ワールドスタジアム』(ナムコ)には、チーム本塁打403本という最強打者たちが集う「オールドスターズ」が収録されているが、やはり4番は打率.353・37本塁打の“みすたあ”だった。当時、スーパースター長嶋の現役時代をリアルタイムで知らない子どもたちは、最新の野球ゲームの打撃成績がなによりも説得力のある数字だった。

 そして、開発スタッフは長嶋直撃世代も多く、ゲームを通じて世代から世代へと昭和プロ野球が語り継がれることになる。1988年6月28日発売『究極ハリキリスタジアム』(タイトー)では、ゲーム中に長嶋茂雄風の解説者が登場する。同年に息子の一茂がドラフト1位でヤクルト入り。ジュニアが打席に入ると、球団の垣根を越え、球場全体から拍手と声援が送られるナガシマフィーバーで沸いていた。

 ハリスタでは、Sチーム(スラローム)の控え選手“なかしま”が出場すると、解説席のミスターは「・・・・・・」としばし沈黙。徳光和夫風の実況アナウンサーに「おきもちをひとつ・・・」とコメントを求められ、父・茂雄自ら「いわゆるジュニアですね。しょうぶはシビアです。きたいしましょう」なんてエールを送ってみせる。

 この頃、浪人中の長嶋復帰待望論が根強く、息子のいるヤクルト監督就任が週刊誌では騒がれていた。実際にヤクルト球団の使者が、夫人へのバラの花束を持って田園調布の長嶋邸を訪問している。だが、それが実現することなく、最終的に関根潤三の後任監督として、野村克也が就任するのだ。このとき仮にミスターがヤクルトのオファーを受けていたら、1990年代のあの長嶋巨人と野村ヤクルトの激闘はなかったし、松井秀喜もドラフトで運命が変わり阪神でプレーしていたかもしれない。……と思いきや、実はゲームの世界では長嶋ヤクルトが誕生していたのである。

 平成元年の1989年3月31日に世に出たファミコンソフト『ペナントリーグ ホームランナイター』(データイースト)では、スワローズ……じゃなくて“スワンローズ”監督イラストが、実際の関根監督ではなく、どう見ても長嶋茂雄なのである。ゲーム開発時期は、「これが長嶋ヤクルト次期監督の組閣名簿だ!」(週刊宝石1988年9月16日号)なんて妄想コーチ人事が報道されるレベルで活字メディアは盛り上がっていたが、現代なら大炎上しそうな勝手にゴリ押し人事。長嶋茂雄はファミコン界でも規格外のスーパースターだったのである。

 ちなみに平成初期の球界では、ゲーム好きの若手選手が増えていた。黄金時代の最強・西武ライオンズを率いた森祇晶監督は、移動中に選手がゲームボーイに熱中しているのを見て「いい大人が困ったものだ」と家で愚痴るが、名将の妻は意外な行動に出る。

「それを家に帰って女房に話したら、ある日家にあるんだよね、ゲームボーイが。『ちょっと試してみたら。時間潰しにもなるしストレスの解消にいいわよ。やっている間は夢中になって、いやなことも忘れられるから』と言って。初めは『こんなややこしいもの』と思っていたのに、しばらくやっていると面白くてやめられなくなっちゃうわけ。『選手たちを夢中にさせていたのはこれだったのか』とね」(週刊文春1992年4月9日号)

 そして森は、選手たちを頭ごなしに注意するのではなく、「確かにエキサイティングだが、長い時間やると目が疲れるから気を付けろよ」とやんわりたしなめてみせるのだ。

 そういう新世代が球界に台頭しても、なお長嶋茂雄というブランド力とスター性は絶大なものだった。巨人監督に復帰した1993年以降は、やはり長嶋監督がチームの顔として最新ゲームで起用されるようになる。1993年12月3日発売『スーパー究極ハリキリスタジアム』(タイトー)では、ルーキーの松井秀喜や一茂らとともにパッケージに登場。同年発売の『スーパーファミスタ2』(ナムコ)では、ドラフトモードでミスター自らくじを引くことができた。

 ゲーム機の進化とともに、やがて野球ゲームもリアル路線へと舵を切るが、プレイステーション2の『劇空間プロ野球 AT THE END OF THE CENTURY 1999』(スクウェア)では、もちろん巨人ベンチにリアルな長嶋監督が確認できる。本作の発売2000年9月7日から約1年後の2001年秋、第二次長嶋政権は惜しまれながらも終わりを告げた。

 30数年前の野球ファンはインターネットで打撃成績を調べることも、動画サイトで手軽に昔の映像を見ることもできなかった。それでも、川上巨人のV9やON砲に触れられなかった当時の少年たちが、選手・長嶋茂雄の功績を社会常識として知っていたのは、やはりファミコンやスーファミの影響が大きいのではないだろうか。

 確かにあの頃の野球ゲームは、我々「選手・長嶋に間に合わなかった世代」に、長嶋茂雄の偉大さを教えてくれたのである。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

この記事を書いたのは

中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2010年開始のブログ『プロ野球死亡遊戯』が話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人を担当し初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)『令和の巨人軍』(新潮社)ほか。新刊『巨人軍vs.落合博満』(文藝春秋)も絶賛発売中! 

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