◆ 白球つれづれ2025・第28回
「藤浪晋太郎 日本復帰」。衝撃的な見出しがスポーツ紙を飾ったのは7月上旬のことだった。
今季は米大リーグ、マリナーズとマイナー契約を結び、メジャー昇格のチャンスを狙ったが、思うような成績を残せず自由契約に。その後もメキシコリーグや米独立リーグで再起を模索したがいずれも不調に終わり、日本で新天地を求める事が濃厚になった。
すでに藤浪のもとにはNPBの複数球団から獲得に向けた調査の意向を見せているが、中でも熱心なのはDeNAと言われる。
大谷翔平のライバルと称された大阪桐蔭高時代は、春夏の甲子園大会優勝投手として、2013年に阪神のドラフト1位指名を受けて入団。160キロ超の快速球を武器に、入団から3年連続で2ケタ勝利。しかし、その後に制球難から投球バランスを崩して剛腕は影を潜めた。
23年ポスティングでメジャー挑戦を決意。初年度こそアスレチックスとオリオールズで7勝を記録するが、ここでも投げてみなければわからない不安定さで、昨年以降はメッツ、マリナーズと渡り歩くが、メジャーの登板機会すらもらえず未勝利に終わっている。
DeNAとは、近日中に入団交渉が始まると予想されている。他球団の動向次第で予断は許されないものの、ベイスターズ有力の図式は変わらないようだ。
そのDeNA、藤浪に限らず、ここへ来てチーム再強化へ激しい動きを見せている。今月上旬には昨年途中在籍したマイク・フォード選手を再獲得。さらにかつて中日で首位打者も獲得したダヤン・ビシエド選手にも触手を伸ばしている。
昨年はリーグ3位から“下剋上”の日本一を達成したが、今季は14日現在(以下同じ)首位の阪神から10.5ゲーム差離された3位。打線では主砲のタイラー・オースティン選手右膝痛で欠き、投手では新守護神の入江大生が右上腕の神経障害で戦線離脱。投打の主軸不在を埋めるべく、緊急補強に動いているのだ。
この夏の“ストーブリーグ”は例年以上の活況を呈している。
巨人は元DeNAで昨年からメキシカンリーグなどでプレーした乙坂智選手をテスト入団で獲得。中日はマイケル・チェイビス選手(前ドジャース3A)西武はJ.D.デービス選手(前エンゼルス)を獲得。中日と西武はクリーンアップを任せられる大砲の役割を期待している。
シーズンを戦う中でウィークポイントが露呈すれば、それを補うのが真夏のストーブだが、セ・リーグ首位を独走する阪神だって補強は怠らない。
中継ぎ強化にグラント・ハートウィグ投手をメッツ3Aから獲得。さらに阪神に在籍して96セーブを記録したラファエル・ドリス投手を四国IL高知から再獲得すると報じられており、投手王国に更なる厚みを加えて逃げ切りを図る。
近年、日米間の駆け込みトレードが増えている。2年前にはDeNAが元サイ・ヤング賞受賞のトレバー・バウアーをシーズン途中で獲得すると、その年に19試合登板で10勝4敗の圧倒的な成績を残している。
バウアーには個人的な特殊事情で来日した事情もあったが、日米間の選手情報は、個人的なデータも含めて昔より格段に精度が上がっている。メジャーでもオールスター前は、優勝を狙えるチームが下位球団から選手獲得に動く時期。こうした中でメジャーに手の届かなかった選手が、代理人を通じて日本に売り込みをかけて来るケースも多い。
当たるも八卦当たらぬも八卦の新外国人だが、過去を調べてみると思わぬ「掘り出し物」にたどり着くケースもある。
代表例は2014年西武に途中入団したエルネスト・メヒア選手。持ち前の長打力を存分に発揮して何とこの年の本塁打王に輝いている。同じく同年にロッテに途中入団したアルフレッド・デスパイネ選手も打棒が認められ、その後ソフトバンクに移籍して長く活躍した。
一方で、即効性は期待できても、長い目でチームの育成を考えた場合、中途半端な選手の獲得ならマイナスに作用するデメリットもあるはずだ。
一人の選手枠を埋めることは、伸び盛りの選手の枠を明け渡すことになりかねない。それが果たして、チームにとってプラスになるのか。
DeNAを例にとれば現在、阪神とは大差がついているが、2位・巨人とは1ゲーム差。今年もリーグ戦終了時で3位以内にいれば、ポストシーズンで再び“下剋上”も計算上は成り立つ。
今季のペナント模様はセで阪神、パで日本ハムの強さが際立っている。共に投打のバランスが良く、すぐに崩れるような要素は見当たらない。
それだけに「中途採用組」を補強した各球団が球宴明けからどんな戦いを見せてくれるのか? フロントも含めたチーム力が今こそ問われる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)