箱・説完品は4万4500円、やや傷みありの並品は3万9800円。
秋葉原トレーダーの店頭ショーケースに並ぶのは、スーパーファミコンソフトの『プロ野球 熱闘ぱずるスタジアム』(ココナッツジャパン)である。これでも相場より良心的な価格で、某有名レトロゲームショップでは5万8100円の高値がついていた。スーファミの野球ゲームはそのほとんどが数百円のジャンクコーナーの常連だが、この『ぱずるスタジアム』はレベルが違う。発売時期はすでにNINTENDO64登場後のスーファミ末期の1997年4月25日で、当時ほとんど話題になることもなく(流通数が少なく)、令和7年現在のスーファミ野球ゲームで最も高いプレミア価格がついているソフトなのである。

というか、これは野球ゲームと言えるのか?と冷静に突っ込みたくなる気持ちは分かる。ぷよぷよ風の実在プロ野球12球団をベースにした落ちものパズルゲーム。9イニング制で攻守が替わりアウトやヒットは連鎖数で決まる…って説明だけではいまいち意味が分からない。というわけで予算の関係でスーファミ版の約1年後(1998年5月7日)に発売された、比較的手に入りやすいプレイステーション版の『プロ野球 熱闘ぱずるスタジアム』を購入してゲーム内容を見てみよう。説明書の「はじめに」には、こんな一文が掲載されている。
「ぱずスタ」って知ってるかな? それは、パズルと野球が一緒になった新感覚の『落ちもの野球ゲー』のこと!! パズルと野球はすごく相性が良いんだ。知らなかったでしょ!?
すいません、全然知らないです…と涙する暇もなく、ルールを確認しつつゲームを進めていく。上から落ちてくるヘルメットやグローブを同じ色で上下左右いずれかを4つ以上つなげて消す。一度に連鎖でまとめて消したり、連続して消すと「お邪魔ぼーる」が相手のグラウンドに落ちて試合を有利にすすめられる。

このあたりは、ぷよぷよをやったことがある人ならスムーズにゲームに入れるはずだが、多くのユーザーが戸惑うのは「攻撃側と守備側は連鎖の数によって、それぞれにヒットやアウト等のスコアになる」というアウト・ヒット・ホームランすべてが連鎖で決まる本作の特殊ルールだ。
例えば、難易度かんたんの場合、攻撃側は2連鎖が二塁打、3連鎖が三塁打、4連鎖以上がホームラン。守備側は2連鎖がアウト、3連鎖がダブルプレイ、4連鎖以上がトリプルプレイといった設定だ。スリーアウトになると攻守交代し、9回まで繰り返し、得点が多い方が勝ち。打者は打率や本塁打数により連鎖後のスコアが微妙に異なるので、イチローや松井秀喜といった強打者が好調ならば少ない連鎖でも長打になりやすい。投手は勝敗やセーブ数、防御率によって球の色数、お邪魔ぼーるの落下パターンが異なる。エース級の投手ほど球の色数が多く、連鎖がしにくい仕様である。攻撃側は投手別の配球…というか落下パターンを事前に読んで、ヘルメットやボールを積み重ねておく駆け引きが勝負を分ける。
プレステ版はスーファミ版にあった、実際のペナントレースの名場面をパズルで再現するという無謀なコンセプトの「熱闘しーん」がなくなっている一方で、当時のNPB公式ルールにのっとり、セ・リーグは延長15回までで決着がつかなかったら試合終了となり再試合という妙にリアルな面は残している。近鉄でローズ、クラーク、中村紀洋のいてまえ打線を堪能するもよし、巨人の松井秀喜、清原和博、高橋由伸らの強力クリーンナップを再現して当時を懐かしむのもいいだろう。

プレイ当初は画面の選手表示やアウトカウントを確認する余裕がなく、唐突に攻守のチェンジが繰り返され、「こ、これはクソゲーなんじゃ…」と絶望しかけるも、1時間ほど遊んでシステムを覚えてくると、連鎖を駆使した効率のいい攻撃や大ピンチを回避するトリプルプレイ狙いが楽しくなってくる。クローザーも連投するとスタミナが落ち、例え5点リードしていてもあっさりと大逆転を食らったりするので、試合終了まで気が抜けず意外に対戦時のゲーム性も高い。ただ、9イニング制は長く、135試合のペナントモードは修行のような忍耐力を問われるので、まずは3イニング制のCPU超かんたん設定のオープン戦から慣れていくのがオススメだ。スーファミ版ソフトは高騰しすぎて手が出ないという方にも、プレステ版ぱずスタは根気強く探せば6000円ほどで購入できるはずだ。
発売から四半世紀以上が経過したが、いまだに類似品の存在しない「野球とパズルの二刀流」に挑戦した意欲作。その勇気に拍手を送りつつ、通常の野球ゲームでは決して体験できない華麗な連鎖でホームランをかっ飛ばしたいものである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)