阪神が歴代最速Vを決めたのは今月7日。その20日後の27日に、ようやくパ・リーグの王者が決まった。
2年連続23度目のリーグ制覇を達成したのは、小久保裕紀監督率いるソフトバンク。開幕後に故障者が続出し、4月を最下位で終える、まさにどん底からの逆転劇だった。
一方で、新庄剛志監督率いる日本ハムは2位に落ち着いた。開幕から8月上旬まで4連敗が一度もない安定した戦いぶりを披露していたが、最後は地力で勝るソフトバンクに万事休した。
シーズン終盤まで優勝を争ったソフトバンクと日本ハム。両者の明暗を分けたのは、あの投手の存在だったのではないだろうか。
それが31歳の右腕、ソフトバンクの上沢直之だ。
同投手は昨季オフにソフトバンクに移籍。その前年オフに同投手は日本ハムからポスティングシステムを使ってメジャー挑戦を果たしていたため、同リーグのライバル球団への加入は大きな物議を醸した。
特に新庄監督の「悲しい」発言なども相まって、上沢の決断には批判が殺到する事態に。選手会の森忠仁事務局長が「制度上、違反して戻ってきているわけではない」「影響力のある人の発言が誹謗中傷につながっている」「球界としてこのような発言はやめましょう」など異例の声明を発表するに至った。
そして上沢のこの決断が結果的に、ソフトバンクの逆転Vの大きな要因の一つとなった。
公式戦で日本ハムと上沢の直接対決は1試合のみで、その試合は上沢が好投するも実らず、日本ハムが制した。そして、上沢自身は開幕から本来のパフォーマンスを披露できず、7月までの成績は6勝6敗。防御率も3.39と「投高打低」が顕著なシーズンとしては、決して褒められた数字ではなかった。
ところが、オールスター休みを挟み、約3週間ぶりの登板となった8月1日の楽天戦で7回1失点の好投を見せ、シーズン7勝目をマークすると、8月以降は8試合に投げて6勝0敗、防御率1.80。勝負どころで一気に調子を上げて、チームの2連覇に大きく貢献した。
結局、今季の上沢は1人で6つの貯金(12勝6敗)をつくることに成功。もし上沢がいなければ、日本ハムとの優勝争いはもう少しもつれていただろう。もっと言えば、上沢が昨季オフに古巣に復帰し、同等の成績を残していたとすれば、ソフトバンクと日本ハムの立場が入れ替わっていた可能性すらある。それだけ8月以降の上沢の存在は大きかった。
レギュラーシーズンが終わると次はクライマックスシリーズ(CS)。日本ハムが昨季に続きファーストステージを勝ち上がれば、CSファイナルで上沢と対決する可能性が高いだろう。そのとき、上沢はかつてのボスに自ら引導を渡し、いまだ踏んだことがない日本シリーズのマウンドに立つことができるか。ポストシーズンでも右腕の活躍に期待がかかる。
文=八木遊(やぎ・ゆう)