ロッテ・西野勇士 (C)Kyodo News

 ロッテの西野勇士は先発再転向となった23年が8勝、そして昨季はシーズン自己最多タイの9勝をマークしたが、今季は故障で離脱した時期もあり、9試合・49回2/3を投げ、0勝4敗、防御率3.08と未勝利に終わった。

 25年シーズンに向けたオフは「感覚的にいうと、去年は調子が悪くて一昨年がすごく良かったので、一昨年のシーズン前みたいな過ごし方をしようかなという感じでやっていました」と、自主トレ期間の過ごし方を見直した。

 2月の春季キャンプは今年から初めて行われた都城でトレーニングを積んだ。「めちゃくちゃ寒かったですけど、(石垣島春季キャンプだと)体がちょっとずつ動かないところに行くので、そういう意味ではすんなりオープン戦に入っていけたかなと思っています」と石垣島に比べて寒かったが、シーズンに向けて準備する上で、全く問題がなかったようだ。

 昨季は交流戦前の取材から何度もストレートを課題にしていると話していたが、ストレートに関しては「今年は結構いい感じに来ているのかなと思います」と開幕前から手応えを掴んでいた。

 「とにかく投げたいです。自分自身、ここ2年の数字は必ず超えていきたいし、とにかくイニングをたくさん投げたい。毎年言っていますけど、そんな感じです」。オープン戦では3試合・12回を投げ、2勝0敗、防御率0.75、今季初登板前最後の調整登板となった3月26日の楽天二軍戦も4回1失点にまとめ、今季初登板を迎えた。

 今季初登板となった4月2日のオリックス戦、「良かったです。感覚も良かったです」と立ち上がりから力強いストレートで6回1失点にまとめた。オープン戦期間中、「調子が悪いというか、練習中です。握りを変えてしっかり落ち幅を出そうとしていて、今はその練習中です」と話していたフォークは、0-0の初回二死走者なしで西川龍馬を2ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた6球目の140キロフォークがストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちだった。

 「良いと思います。何球かありましたけど、全体的にミスも少なかったし、しっかりと落ちも出ているので腕も振れているし、良い結果も出ているし本当に良いんじゃないかなと思います」と充実の表情。

 気になったのがシュート。1-0の4回先頭の中川圭太に2ボール2ストライクから投じた5球目のシュートをライト前に運ばれるなど、インコースに投げきれていなかったように感じた。「この間は、甘めに入っていましたね、正直。難しいのは際、際にいった時にボール先行になるのが僕は嫌だったので、少し甘めに行こうと思ってちゃんと甘めにいってるなという感じでした」と分析した。

 では、ライト前に安打を打たれたのはある程度、仕方がないものと思っているのだろうかーー。

 「しょうがないです。自分で甘く投げているので、わざとというか。もう1個厳しくというか、もう1個球1個分くらい厳しく投げられたらいいなと思います」。

 走者を出しても、「バッターが何を絞っているかにもよりますけど、しっかりそこにバッターとの意識の差を作って打ち取れているところはあると思うので、いいんじゃないかなと思います」と0-0の2回一死一塁で頓宮裕真を1ボール2ストライクから投じた5球目の139キロフォークで三併に仕留めたり、6回1失点と西野の真骨頂である“ゲームを作る”ことはできた。

 中6日で先発した4月9日の西武戦も6回2失点と2試合連続でQS(6回以上3自責点以内)を達成したが今季初黒星。登板間隔を空けて先発した4月20日の楽天戦は5回4失点で2敗目を喫した。

 この3試合を投げ終えた段階で、奪三振が6つと少なかった。4月9日の西武戦では初回だけで23球を投げ、2回以降はスライダー、カーブを中心に打たせて取る投球をしており、西野が常に口にする“ゲームを作る”ということも奪三振の少なさに関係しているのだろうかーー。

 「三振を取れる時は取りたいし、もちろん取りに行こうと思っていますけど、そこまで三振に強いこだわりはないので。それよりはコース投げて、相手の意識と違う球を投げて、こっち有利にカウントを作って、打ち取っていけたらいいなといつも思っています」

 4月20日の楽天戦でいえば、1-3の5回無死三塁で小深田大翔から三振を奪った場面のようなところでは、三振を狙っていきたい考えなのだろうかーー。

 「そうです、あそこもそうです。次の浅村はあたっちゃいましたけど、浅村の時もそうですし、西武の時の中村さんのところもそうですし、狙って行ける時は狙っていきたいなと思います」。

 4月29日のオリックス戦は、初回31球を要しながらも無失点で切り抜けると、2回に廣岡大志に一発を浴びたが、3回以降はスコアボードに0を入れた。同日のオリックス戦は5回・91球を投げ、5被安打、5奪三振、2与四球、1失点、序盤球数を投げながらもしっかりとゲームメイクするあたりは、百戦錬磨のベテランがなせる技だ。

 西野は「全体的に悪くはなかったです」と振り返り、「いいコースにいった球をカットされたりとか色々あって、球数が増えちゃった感じです。全体的に調子も悪くなかったですし、という感じでした」と自己評価した。

 5月10日の西武戦は6回4失点で3敗目、5月21日のオリックス戦は5回2/3を投げ3失点で4敗目を喫したが、5月31日の日本ハム戦では5回1/3を投げ1失点とゲームを作った。

 5月31日の日本ハム戦は、2回に二死走者なしから連打で1点を失うが、0-1の4回に先頭の伏見虎威を二ゴロ、続く奈良間大己を三ゴロ、五十幡亮汰を空振り三振で、この回をわずか9球で三者凡退に片付けると、直後の5回表に打線が奮起し逆転に成功する。3-1となったその裏も、郡司裕也をインコースのシュートで空振り三振、続く浅間大基を一ゴロ、レイエスを遊ゴロと流れを渡さなかった。西野は続く6回先頭の万波を左飛に打ち取ったところで、マウンドを降りた。サヨナラ負けを喫したため、西野の今季初勝利はお預けとなったが、逆転劇につなげた4回、逆転した後の5回の投球は流石だった。「そうやっていかないといけないというのは絶対だと思うんですけど、久しぶりにそういう状況だったので怖さもありましたけど、ちゃんと抑えられて良かったかなと思います」と振り返った。

 オープン戦から状態が良いと話したストレートも「悪くないと思います」と強さは変わらなかった。

 この時期、白星に恵まれていないが、開幕の頃に比べて、さらに調子が上がっているようにも見えた。

 「ストレートの割合は増えたと思いますが、結果がうまく出ていないので、それを維持していても意味がないと思う。自分の中の投球スタイル、いきなり球速が上がったりとか、そういうのは無理だと思うので、投球割合を見直して、配球的な部分で立て直していくというところが大事なのかなと思います、今は」。

 西野は6回を2失点、3失点に抑え、ゲームを作っていくことを武器にしている投手ではあるが、開幕から打線の援護に恵まれず、なるべくゼロで抑えていかなければならないという難しさはあったりするのだろうかーー。

 「それはありますけど、気負いすぎるのも良くないと思うし、難しいんですけど、そこらへんの塩梅というところは。(ゲームを)作ってるレベルじゃ、今のチーム状況的には苦しいと思うので、今のボスみたいな役割を本当は自分がやらないといけないと思っています。ああいうピッチングを続いていけるようにしていけたらなと思います」。

 6月11日の広島戦、5回2/3を投げ1失点に抑えたが、翌6月12日に一軍登録抹消。登板間隔を空けて先発かと思われたが、6月13日に球団から『右前腕屈筋群の筋損傷』と診断されたと発表。

 離脱期間中のチームについて「苦しんでいるなと思っていましたけど、自分のことで精一杯だったというのはありますね」とポツリ。こういうチーム状況だと、来季に向けて、ベテランよりも若手が優先的に起用されることが多い。西野本人も「こうなったらこうなりますよね」と自覚した。

 ただ、“働き盛り”の34歳にもプロ野球界で長く生きてきた意地がある。「変わらず自分のことをやるというところで、大事なのはパフォーマンスが若い選手たちよりも優っている、レベルが上にあるということを見せていけないと思うので、そうすることで場所もつかみ取れるモノだと思う。本当にそこだけ、自分のパフォーマンスとそういう能力というか、そういうのをしっかり出していくというか、はい」。

 一軍復帰に向け、ファームでは7月27日のDeNA二軍戦で実戦復帰を果たすと、8月3日の巨人二軍戦、8月10日のDeNA二軍戦と3試合に先発してきた。

 8月3日の巨人二軍戦では3回以降変化球主体のピッチングで、3回は10球中ストレートが4球、8月10日のDeNA二軍戦でも2回以降はカーブが多めと変化球主体のピッチング。ファームでは一軍復帰に向けて、試しながら投げていたのだろうかーー。

 「そんなことはないです。自分がどういう感覚で、いろんな球の精度を上げていこうという感じでした」。

 一軍復帰後初登板となった8月17日のソフトバンク戦では、ストレートがファームで先発した3試合よりも強く、「本当に良かったです。全体的にすごく良いレベルで投げられたのかなと思います」とフォーク、スライダー、カーブ、シュートと満遍なく投げ込んだ。

 ストレートに手応えを感じていた中で、故障で離脱。復帰後のストレートについて「ソフトバンク戦は良かったし、ファームの時もある程度強い球を投げられている感じだなと思いました」と好感触。

 ソフトバンク戦では、0-0の2回二死走者なしで野村勇を1ボール2ストライクから142キロのフォークで空振り三振に仕留めるなど、140キロを超えるフォークを投げ込み、かつ落差も大きかった。

 「良かったですね。感覚的にも良かった。次どうなるかわからないですけど、あの変化量とあのコントロール、精度を維持していきたいと思います」。

 右打者のインコースのシュートも、「結構良かったです。何球か投げましたけど、それほど球数は多くないと思いますけど」と、0-0の初回二死二塁で山川穂高を2ボールから遊飛に打ち取った146キロインコースシュートも良かった。

 結局、今季はこのソフトバンク戦を最後に一軍登板がなく、シーズンが終了した。今季も先発ローテーションの一角として期待された中で、まさかの未勝利に終わった。“たられば”は良くないが、開幕直後に安定した投球を見せていた時に白星を挙げられていれば、また違ったシーズンになったのではないだろうかーー。期待の若手は多いが、長年培ってきた経験を武器に、来季はまだまだ若手に負けていないことをマウンドで証明したい。

取材・文=岩下雄太

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