◆ 白球つれづれ2025・第46回
本年6月に亡くなった長嶋茂雄前巨人軍終身名誉監督の功績を称えた「長嶋茂雄賞」の創設が今月10日のNPB理事会で決まった。
来季から実施され、対象はNPB選手。趣旨は「公式戦およびポストシーズンで走攻守において顕著な活躍を見せ、ファンの心を動かすプレーで日本プロ野球の価値向上に貢献した者」となる。
これまで日本球界には個人名を記した賞として「沢村栄治賞」と「正力松太郎賞」があるが、打者を対象とした賞は初めて。受賞者には副賞として300万円が贈られる。
“ミスタープロ野球”長嶋さんの功績は今さら言うまでもないが、おさらいの意味も込めて記す。
1958年に立教大から巨人に入団すると、華々しい活躍でスターダムを駆け上りチームのV9などに貢献。王貞治選手との「ON砲」は史上最強のコンビと称された。
17年間の現役生活でMVPは5回受賞、首位打者6回、本塁打王2回、打点王にも5回選出されている。
「記録の王」に対して「記憶の長嶋」とも呼ばれた。華麗な三塁の守備に、積極果敢な走塁。さらにチャンスには滅法強いクラッチヒッターでファンの心を鷲掴みにした。
加えて時代は日本の復興期。ミスターの一打に家族で酔いしれ、プロ野球そのものが娯楽の王様にのし上がる。「栄光の背番号3」は雑誌の表紙を飾り、映画化された。
現役引退後も巨人の監督として活躍するが、選手・長嶋の輝きは半世紀近くたった今でも色褪せることはない。
もっとも、日本球界では唯一無二と言っていい長嶋さんの名前を冠した賞だから選考は難しいと思われる。
何せ選考の基準となる数値がない。おまけに冒頭で記した通り「走攻守で顕著な活躍」や、「ファンの心を動かすプレー」と言った文言が並ぶ。これを現代の野球に置き換えた時、果たしてどれほどの候補者がいるのだろうか?「第二の長嶋」は存在するのだろうか?
個人的には「走攻守三拍子揃った選手」と言えば、大谷翔平選手やイチロー選手を思い浮かべる。「ファンの心を動かす」という観点でも十分な有資格者だ。国内に限れば30本塁打、30盗塁の「30-30」で高い評価を受けた元西武の秋山幸二や現ヤクルトの山田哲人選手らがイメージに近い。
しかし、現役世代を見てみると「長嶋賞」対象者は容易に見当たらない。
16日にTBS系列で放送された『サンデーモーニング』の中でも、落合博満、中畑清両OBが、この問題に触れて「イメージがわかない」と頭を抱えてしまった。
ちなみに同賞の創設を報じた今月11日付の日刊スポーツではセ・リーグ打撃二冠の佐藤輝明(阪神)や清宮幸太郎(日本ハム)の勝負強さ、そして日本シリーズMVP山川穂高(ソフトバンク)の3選手を、今季に当てはめた場合の候補者としていた。だが、佐藤ならシーズンMVPと何ら変わらず、清宮ならリーグワーストの14失策で論外。山川はシーズン中の成績がひどすぎる。
本塁打も打てて走れる。打率も残せてここぞ、の場面で勝負強い。守備でも魅せる。このあたりが「長嶋賞」のポイントだとする。
ここから勝手に夢を膨らませると2人のスター候補が浮かんできた。
セで阪神の森下翔太。パで日本ハムの万波中正の両選手だ。いずれもパンチ力のある打棒が魅力的で森下の場合はすべてのプレーがアグレッシブ。万波の場合はまだ好不調の波は激しいが、一発の長打力と強肩を含めたスケールの大きいプレーに、長嶋さんの香りを感じる。
現代の野球はアメリカ志向が強まるばかり。このオフにも村上宗隆(ヤクルト)や岡本和真(巨人)選手らがメジャー挑戦を決断した。気がつけば日本代表でも国内の強打者や絶対エースの数が減っている。
単なる打撃タイトル獲得者を選ぶのではなく、長嶋さんらしい魅力のある、スター性を併せ持った男の出現を期待したい。
1年後の選考ではどんな“長嶋二世”が選出されるのだろうか。要注目だ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)