ロッテ・中森俊介[撮影=岩下雄太]

 ロッテの中森俊介は高卒5年目の今季、オールスター明けは腰痛により一軍登板がなかったが、前半戦は25試合・29回1/3を投げ、2勝2敗10ホールド5セーブ、防御率1.23と最下位に沈んだチームの中で、希望の光となった。

 中森は昨年の秋季練習で「毎年オフシーズンに空振りとれる変化球を磨きたいというところで、そこを一つの軸に考えてやっていたんですけど、変化球を生かすも殺すも真っ直ぐ。どれだけ良い変化球を投げても、真っ直ぐがきていなかったら、弾かれますし、そういう意味でも真っ直ぐの重要性を感じたこと。このオフシーズンに向けて、もう1度真っ直ぐを極めたい」と、“ストレート”を磨くことを誓っていた。一冬を越えて、2月の石垣島春季キャンプでは「いい感じで作れていると思います」と、土台作りをして力強いストレートに手応えを掴んだ。

 「普通にアベレージを最終的には150キロ前半ぐらいに持っていきたいと思っています。アベレージをそこに持っていくには最高値上げないといけないんで、マックス値を。まずは出力を上げることを。ブルペンでも多少、コントロールが荒れてもいいんで、出力出すことだけ今意識しています」と石垣島春季キャンプのブルペンではストレートの出力を上げることにこだわった。

 2月7日にはライブBPに登板し、「あんまり状態は良くなかったですけど、真っ直ぐで空振りだったりファウルを取れていたので、強さ的には良かったのかなと思います」と、髙部瑛斗、山口航輝、西川史礁、山本大斗の4人に対し、20球を投げ安打性のあたりを2本に抑えた。11日の紅白戦でも「真っ直ぐで押していくスタイルは変えずに。あとはイニングが増えていきますけど、1回を3人でまずは切ることが一番なので、どんな形であろうと無失点に抑えて、まずは結果にこだわってやっていこうと思います。出力は出せていましたし、ファウルも取れていたので良かったと思います」と、納得のいくストレートを投げられた。松川虎生を三振に仕留めたストレートについては「狙いに行って追い込んでからだったので、コース厳し目に。低め低めというよりかは、力で真ん中から高めに投げる意識で投げました」と振り返った。

 2月19日の広島戦で今季の対外試合初登板を果たすと3回無失点に抑え、続く2月27日の西武との2025球春みやざきベースボールゲームズでは4回・59球を投げ無失点に抑えた。3月9日の楽天との春季教育リーグで先発し、4回1/3・79球を投げ1失点、イースタン・リーグが開幕してからは3月20日のオイシックス戦で3回無失点に抑えセーブを挙げ、開幕直前に一軍合流。

 「状態は良いと思います。状態はすごく良いので、どれだけ出力というか、調子を維持できて、シーズン入っても同じクオリティのピッチングができるように頑張りたい」と意気込み、開幕一軍を掴み取った。

 開幕から任されたポジションは先発ではなく、リリーフだった。「中継ぎは以前も経験があるので、問題なくやっています」。3月28日のソフトバンクとの開幕戦に早速、登板の機会が訪れた。0-1の5回先発・小島和哉の後を受けて登板すると、1イニング目の5回を無失点に切り抜け、直後の6回に打線が6点を奪い逆転に成功。6-1となった6回も今宮健太を二ゴロ、続くダウンズを外角のフォークで見逃し三振、リチャードを遊飛と、ソフトバンクに流れを渡すことなく三者凡退で終えた。2回を無失点に抑えた中森は、勝利投手になった。

 「無失点で帰ってくることが一番ですし、開幕戦もそうですけど、相手に流れを持っていかないというか、こっちに流れを持っていきたいときにパターン的に起用されていると思うので、そういうピッチングができるようにしたいと思います」。

 昨年は3月に状態を落としたこともあり、石垣島春季キャンプでは「今年アメリカで西野さんと一緒にやらせてもらった時に言われたので、やるときやって、しっかり休む時は休んでっていう今年のテーマというか、肝に銘じてやっていきたい」と話していたが、「まだ始まったばかり。疲れとかはないので、臆することなく今まで通り試合に臨めたらなと思います」とキッパリ。

 石垣島春季キャンプから変わらずストレートが良い。4月6日の楽天戦、0-3の6回先頭の太田光を3ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた153キロのストレートが良かった。

 「真っ直ぐは状態が良いですし、真っ直ぐを見せるために真っ直ぐ張りのところで、実際にホームランも打たれていますし、それまでですね。追い込むまでというか、初球、もしくは2球目までに1ストライク1ボール、2ストライクと追い込めるように、カウントを整えられる変化球を課題に取り組んでいる。そこをクリアできたらもう一段階上のレベルに上がるかなと思います」。

 変化球も4月2日のオリックス戦、1-1の7回に先頭の太田椋を2ストライクから空振り三振に仕留めた3球目の139キロのフォークはストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちだった。

 フォークに関して「良い球もありますし、軌道、高さ、そこが大切になってくると思うので、数値的には悪くないです。むしろもっと空振りを取れてもいいボールなんですけど、まだもう一つ取れていないというのは、投げる高さ、コースやアナリストの人とも話しましたが、物足りないところがある。そこを意識しつつ、真っ直ぐの出力を落とさないようにやっていきたいと思います」と説明した。

 4月29日のオリックス戦、0-1の6回一死二塁で廣岡大志を1ストライクから空振りを奪った2球目の135キロフォーク、続く空振り三振を仕留めた3球目の135キロフォークがストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちだった。

 「いい高さ、いい軌道に落ちていけば、フォークを投げるまでの真っ直ぐの軌道も大事なんですけど、全体的に再現性よく投げられていたのかなと思います」。

 フォークで空振りが奪えていることで、奪三振数も増えた。

 「ショートイニング、短いイニングで投げているので、バッターも絞りにくいと思いますけど、空振りは2ストライク追い込んだ時には狙っているので、狙いにいって取れるようにしたいなと思っています」。

 開幕から先発降板後の2番手としてロングリリーフを中心に投げたが、「どのポジションでも仕事なので、任されたところで自分の仕事を全うすることを心がけてやっていきたいと思います」と、5月7日の楽天戦では7-3と点差が開いていたとはいえ、7回・ゲレーロの後の8回の1イニングを投げ無失点に抑えた。

 5月に入ってからは勝ち試合で登板する機会が増え、5月13日の楽天戦で3-3の同点の8回に登板すると、5月31日の日本ハム戦では3-1の8回と“勝ち試合の8回”を任された。2番・浅間大基から始まる打順も浅間を135キロのフォークで空振り三振、レイエスを外角の132キロスライダーで三ゴロ、万波中正を151キロのストレートで二ゴロと危なげなく3人で片付けた。

 6月7日の中日戦も3-1の8回にマウンドに上がると、先頭の代打・川越誠司に二塁打を浴びたが、代打・高橋周平を二ゴロ、岡林勇希をフォークで空振り三振に仕留め、2アウトとする。田中幹也に死球で一、三塁としてしまうも、この日先発・田中晴也から本塁打を放った上林誠知を2ボール2ストライクからフォークで空振り三振に抑え、無失点で切り抜けた。

 勝ち試合の8回での登板が増えたが、投げるポジションがある程度予想できるようになったことで準備のしやすさ、マウンドに上がるまでの心持ちなどの変化はあるのだろうかーー。

 「そこまで大きく変わらないですね。複数投げる時は先発ピッチャーが球数かさんだり失点を重ねている時に、ある程度の準備をしていますし、8回、今の状況でもだいたいこれくらいの時に投げるだろうなと前段階で準備ができていので、そこまで大きく変わっていないかなと思います」。

 今季に向けて先発ローテーション入りを目指し自主トレからトレーニングを積み、規定投球回達成を目標に掲げていた。開幕からリリーフで投げている中で、新しい目標を立てたりしているのだろうかーー。

 「特にないですね、僕自身毎日でも投げられるので、どんどん試合で投げて、経験を積みたいと思います」。

 リリーフ陣が不安定な中で、中森の存在感が高まり、6月12日の広島戦では5-4の9回、セーブシチュエーションで登板し、1回・9球を投げ、0被安打、1奪三振、無失点に抑えプロ初セーブをマーク。「すごいやりがいのあるポジションではあるので、意気に感じて投げています」とこの試合から勝ち試合の9回を任された。

 6月は月間8試合・8イニングを投げ、イニングを上回る12奪三振、1勝3ホールド4セーブ、防御率0.00だった。

 中森本人が「良かったと思います」と振り返った6月11日の広島戦の投球は素晴らしかった。先頭の秋山翔吾に初球の外角153キロストレートで見逃し、2球目の外角153キロストレートで見逃し、2球で追い込み、最後は138キロのフォークで3球三振。続く小園海斗に1ストライクから投じた2球目のインコース140キロフォークの空振りもストライクゾーンからボールゾーンに良い落ち。この日はストレートが力強く全て150キロ超え、当時の自己最速となる154キロを2球計測した。

 6月15日のヤクルト戦、4-4の9回一死走者なしで並木秀尊を見逃し三振に仕留めた外角154キロストレート、6月17日の阪神戦、3-1の9回二死走者なしで大山に1ストライクから投じた2球目の外角150キロ見逃しストレートと、“右打者のアウトコースのストレート”が非常に良かった。

 中森は「(並木を抑えたストレート)あの日は状態自体は良くなかったんですけど、引っ掛け気味でしたし、サンタナに打たれたスライダーは2球とも浮いていたので、状態自体はいいとは言えないですけど、結果的に抑えられたと思います」と反省した。

 ストレートで追い込み、フォークで空振り三振を奪う場面が多く、6月は12個の三振を奪ったが、そのうちフォークでの三振は7個。

 「フォークは空振りが取れてきているので、そこを決め球に使いたいというので逆算して2ストライク、早めに追い込むことと、追い込むまでの配球ですよね。そこを意識してやっています」。

 1イニングで投げるようになってから投球スタイルもストレート、フォーク、時々スライダーとほぼストレートとフォークが中心。先発の時に投げていたカーブ、チェンジアップといった球種はほとんど投げていないように見える。

 「カーブ、スライダーも投げたりしていますけど、あくまで真っ直ぐがいちばんの軸として考えていますし、1イニング投げるとなった時に選択肢が増えすぎると自分の中で迷いが出てしまう。先発の時に投げていたスイーパー、チェンジアップもキャッチボールでは投げてはいるんですけど、あえて試合で使わないようにというか、選択肢を増やさないようにしています」とその意図を説明した。

 7月に入ってからも2日の楽天戦で、6-3の9回二死一、二塁で浅村を2ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた5球目のストレートは自己最速の155キロを計測。7日には「小さい頃からテレビで見たりと憧れの舞台なのでそれに出れることは素直に嬉しいです」と監督選抜でのオールスター出場を決めた。

 オールスター出場を決めた後も、8日の日本ハム戦、11日の西武戦と三者凡退に抑え、連続無失点を12に伸ばし、“守護神”としての貫禄が出てきた中、13日に一軍登録を抹消。吉井理人監督は同日の西武戦後、「オールスターは出られる見込みです。明日病院に行くと言っていたので、詳しいことはわからないです」と話していた。

 18日のオリックス戦の試合前練習から合流し、24日のオールスター第2戦に登板。シーズン中は150キロを超える球速を投げ込んでいたが、この日は150キロ超えは1球もなく、吉川尚輝(巨人)、佐藤輝明(阪神)に一発を浴びるなど、1回2失点とらしくない投球だった。結局、この登板を最後に今季は一軍登板がなかった。

 前半戦の成績だけを見れば、今季大きく飛躍を遂げた若手選手の1人。オールスター明けは故障により、1試合も一軍登板がなかったが、自身の中で取り組んできた形が“結果”として現れた。1年間一軍で戦い抜けなかったが、自信となったところはあるのだろうかーー。

 「自信になるところもありますし、怪我してしまっているので、改善していかないといけないところもたくさんありますね」。

 「ウエイトトレーニング、フィジカル面はすごく向上したと思うんですけど、怪我してしまったら、何もならないというかチームに貢献できない。自分自身が後悔してしまう」と厳しい言葉を並べた。

 腰痛は現在完治しトレーニングを始めている。今季は先発にこだわっていた中でリリーフで投げていたが、球団との話し合いの中で、来季は先発、リリーフでもどこのポジションでもいいと伝えた。先発、リリーフどちらのポジションになっても、怪我なくプレーできれば、間違いなく来季は大きな戦力になる。

取材・文=岩下雄太

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