今オフFAとなったカイル・シュワーバー(写真=GettyImages)

 今季のナ・リーグMVPを大谷翔平と争ったカイル・シュワーバー。オフにFAとなり、今オフ最大の目玉としてその動向に注目が集まっている。

 シュワーバーは今季、自己ベストを大きく更新する56本塁打&132打点をマーク。二冠王に輝くとともに、フィリーズを地区優勝に導く充実の1年を送った。

 今季まで所属していたフィリーズのほか、メッツやレッズなどが左の大砲に関心を示しているが、二冠王の争奪戦に意外な球団が参戦してきそうだ。

 それが、ナ・リーグ中地区所属のパイレーツ。現地報道によると、4年総額1億ドル(約150億円)を超える大型契約をシュワーバー側にオファーしたという。

 もしパイレーツがシュワーバーの獲得に乗り出したとなると、投手有利な本拠地がネックとなる可能性もある。球場の特性を評価する『パークファクター』で、シュワーバーが今季本拠地としたフィリーズのシチズンズ・バンク・パークは4番目に本塁打が出易い球場だった。その一方で、パイレーツの本拠地PNCパークは今季最も本塁打が出難かった。シュワーバーとしては試案のしどころとなるかもしれない。

 打者にとって決して理想的とはいえない環境もあってか、今季のパイレーツは貧打に苦しんだ。得点数、本塁打数、OPSなど主要打撃成績はメジャーワーストを記録。チームが浮上するためには、強打者の存在が必要不可欠となるだろう。シュワーバーの存在が、パイレーツ打線の起爆剤となるのはまず間違いない。

 また、パイレーツといえば、地区3連覇を果たした1990年代前半に黄金時代を築いたが、その後はビッグマーケットの球団との格差が広がり低迷。1993年から2012年までメジャーの歴代ワーストとなる20年連続負け越しという屈辱を味わった。

 しかし、2013年に21年ぶりのポストシーズン進出を果たし、不名誉な記録にピリオドを打つと、15年まで3年連続ポストシーズンに進出。ただ、いずれも地区2位からワイルドカードでの出場だった。つまり、地区優勝は1993年から今年まで33年連続で逃していることになる。

 2016年以降の過去10年間を見ても、勝ち越したのは18年の1度だけ。ファンには見慣れた暗黒期を過ごしているといえるだろう。

 それでもパイレーツファンに小さくない期待を抱かせているのが、ポール・スキーンズの存在だ。昨季メジャーデビューを飾った怪物右腕は、文句なしの新人王に輝くと、2年目の今季にサイヤング賞を受賞。チームとしては、スキーンズがFAで流出する前に、優勝争いに絡めるチーム作りをしたいのが本音だろう。

 シュワーバーの争奪戦において、パイレーツはあくまでもダークホース的存在。それでも獲得に成功すれば、サイヤング賞投手とMVP級打者の2人がチームの顔を務めることになる。ブルワーズが3連覇中の地区において、パイレーツは来季の台風の目となり得るか。弱小球団の本気度が試される。

文=八木遊(やぎ・ゆう)

この記事を書いたのは

八木遊

1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。

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