「一番成長できた年でしたし、一番野球を考えた年だったので、個人的には技術的にも体力的にもすごい成長したかなと思います」。
ロッテの種市篤暉は、オールスター明けの投球は“圧倒的”な存在感でパ・リーグの強打者たちをねじ伏せた。
◆ 前半戦は苦しむ
25年シーズンに向けて、「オフはデータを図りながら自分を知ることをまず勉強しながら、動作解析のところに2箇所行ったり、“何が良いのか”、“何が足りないのか”を自分で分かった上で悪いところを改善できるように取り組もうと思ってオフは過ごしました」と技術向上を図った。
悪かった部分について「フォーム的には三振を取りたいと思った中で、一番何が必要かと考えたときに真っ直ぐのスピードを求めることと、フォークボールをもっと精度高く落差を大きくすることが僕の中で出した結論なんですけど、その中で動作解析をしてそれをどうやったら球を速くなるのかを聞きながら、それをトレーニングに落とし込むみたいな感じでやっていました」と説明した。
石垣島春季キャンプでは2月2日にキャンプ初ブルペン入り。「今日はスプリットとフォークの落差が一緒だったので、できるだけフォークボールの方をもっと落差を出せるように。遅くてもいいから落差を出せるようにしていきたいと思っています」と、ストレート、フォーク、スプリット、スライダー、合計34球投げ込んだ。
14日に今季初のライブBPに登板。種市の球を受けた寺地隆成は「今年フォークとスプリットを扱っていくというところで、受けていてキレであったり、落ち幅、スプリットとフォークで少し球速差があるんですけど、落ち方も良かったと思いますし、自分的には良い球種だったと思います」と絶賛。
2月22日の中日とのオープン戦で今季初の実戦マウンドに上がり、2回を無失点に抑える。『ラグザス 侍ジャパンシリーズ 2025 日本 vs オランダ』の日本代表に選出され、3月6日の試合に先発し、「自己最速を出したいと思ってマウンドに上がっていたので、ちょっと力みがありましたけど、アベレージが上がっていたので良かったかなと思います」と、初回からストレートは自己最速タイの155キロを4球計測するなど、2回・23球を投げ、被安打0、2奪三振のパーフェクト。「自分のやりたいことは全部できたかなと思います」と種市篤暉の名を全国のプロ野球ファンに轟かせた。
オランダ戦の投球を見れば、開幕から先発の軸として1年間投げた時に素晴らしい成績を残すのではないかと期待感を抱かせた。レギュラーシーズンが開幕してからは、3月30日のソフトバンク戦で6回自責点1、4月8日の西武戦で7回1失点で今季初勝利を挙げ、2試合連続QS(6回以上3自責点以内)とまずまずのスタート。「気持ちは良くないですね。う〜ん、まず真っ直ぐで押せていないことと、やっぱり真っ直ぐで押せない分、変化球で空振りが取れていないという印象です」と納得のいく投球ができなかった。
満足していない原因のひとつがストレートだった。「メカニックが良くないので、前回も抑えましたけど、到底自分のピッチングではないなと思ってマウンドで投げていました」。これまで種市はストレートが良くない原因に“左肩の開きが早くなっている”ことを挙げることがあったが、納得のいくストレートが投げられていないひとつに左肩の開きが早くなっていると明かした。奪三振も2試合・13イニングを投げて、8とやや少ない。「真っ直ぐがいい形で投げられたらいいなと思っています。今はそこに集中すべき時じゃないかなと思っています」と分析した。
続く4月15日の日本ハム戦で、5回1/3を投げ7失点で今季初黒星を喫すると、4月23日の西武戦で7回2失点にまとめ2勝目を手にするも、4月30日のオリックス戦が5回5失点、5月14日の楽天戦が4回3失点とピリッとしなかった。
5月28日のオリックス戦で、らしさが戻ってきた。特に最大の武器であるフォークが素晴らしかった。「初回は全然だったんですけど、3回くらいから掴みましたね」と振り返る。その中でも、1-0の5回一死一、二塁で紅林弘太郎を1ボール1ストライクから空振りを奪った3球目の140キロフォーク、続く空振り三振を奪った141キロフォークはストライクゾーンからボールゾーンに良い落ち。本人も「ああ良かったですね!ちょっとシュートしながら、はい」と納得のいくフォークが投げられた。
フォークが良くなったところについて、「力感が良くなったのかなと思います。ずっと力んで投げていたので、その分いい指の抜け感というか、そういう感じですね」と明かした。
ストレートも力強かった。シーズン序盤は150キロを超えるストレートが1試合を通して10球届かなかったこともあったが、オリックス戦では最速153キロ、150キロ超えは25球あった。
「それまでずっとブルペンもキャッチボールも良くなくて、投手コーチ、吉井監督とも技術の話をいろいろしました。今井に教えてもらったのが、感覚が良くなったので、試合の日のキャッチボール、ブルペンも、投球内容は良くなかったですけど、去年の感覚に近いものが出てきた。自信を持って次の登板に臨めるんじゃないかなと思います」。
オリックス戦は5回を投げ、球数96球とやや多かったが、5被安打、5奪三振、3与四球、無失点にまとめた。無失点に抑えられた理由のひとつに、0-0の2回無死一、二塁で中川圭太、若月を連続三振で2アウトにすれば、1-0の3回一死二、三塁で頓宮裕真を空振り三振、1-0の5回一死一、二塁で紅林、頓宮を連続三振と、得点圏に走者を置いた場面で三振を奪えたことが挙げられる。
種市本人も「ピンチになって三振を狙おうと思って入った試合だったので、そこをしっかり自分で取れたのが状態がちょっとずつ上がっている要因かなと思います」と話し、「犠牲フライも許せない状況もあったので、そこはやっぱり三振狙いながら配球できたのも良かったと思います」と続けた。
開幕から奪三振が少なく、追い込んでから狙って三振が取れなかったのも苦しんだ原因のひとつだったのだろうかーー。
「そうですね、そもそも三振数が僕のバロメーターでもあるので、そこはやっぱり上げていけたら支配的なピッチングができるんじゃないかなと思います」。
手応えを掴みつつあった中で5月の戦いを終え、交流戦が始まる6月に突入した。
◆ 交流戦
同学年山﨑伊織との投げ合いになった6月5日の巨人戦、「今季これまで登板した中では1番自分の中では納得のいくピッチングだったかなと思います」と8回、トミー・ジョン手術後最多の128球を投げ、3被安打、8奪三振、1失点にまとめた。特にこの日は、8奪三振中7奪三振が5球以内で三振を奪えており、追い込んでからも少ない球数で三振が取れていた。
6月12日の広島戦は、「感覚的にもオリックス戦から良かったので、ジャイアンツ戦の前の1週間は逆に投げたいくらいの気持ちで入れていましたけど、前回の広島戦はもうちょっとかなと思います」と納得のいくストレートが投げられず、6回・108球を投げ4失点。
その中で、4-1の5回二死一、二塁で秋山翔吾を2ボール2ストライクから見逃し三振に仕留めた5球目の151キロストレートを始め、巨人戦、広島戦では、左打者のインコースにストレートをしっかり投げ込めていた。
「あそこに投げきれている時は一番僕の中では良い指標というか、バローメーターになっているので、ちゃんと右の外、左のインコースに投げ切れるように。ちゃんと身につけられるようにしたいなと思います」。
6月3日に取材した時にはストレートに関して、「去年の感覚に近いものが出てきた」と話していたが、5日の巨人戦、12日の広島戦の登板を経て、現在のストレートは「巨人戦が良かったぶん、それ以上を求めてしまって、(広島戦)ちょっと力んでいたなと思います」と反省。
フォークは、4-1の6回二死二、三塁で坂倉将吾から空振りを奪った初球の143キロ、空振りを奪った2球目の142キロはストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちだった。
「フォークに関しては前回に関してはあまり良くなかったですね。力んでいた分、ちょっと落ちが悪かったなという印象もありますし、何より広島打線がフォークをケアしていたなと。フォークを捨てて、真っ直ぐぐらいの気持ちで来ていた感じが僕の中で受けたので、そこは試合中に気付けるように。フォークをケアしているなと思ったら、インコース真っ直ぐ、スライダーを使っていけるような。もうちょっと感度高く取り組んでいきたいと思います」。
1-1の3回は先頭の矢野雅哉(左飛)、続く秋山翔吾(三ゴロ)をストレートで2球で追い込み、打ち取った3球目はいずれも縦に落ちるスライダーだったのも、そういったことが関係しているのだろうかーー。
「そうですね、フォークをケアしていたのもわかっていましたし、スライダーの変化量を変えたので、それを試したかった。3回2ストライクから首振って、縦スラを選んだという感じです」。
6月19日の阪神戦は6回2/3・122球を投げ、6被安打、8奪三振、5与四死球、2失点という投球内容だった。「指にかかっていたと思います」と、0-0の初回二死二、三塁で大山悠輔を2ボール2ストライクから見逃し三振に仕留めた151キロ外角ストレートはキャッチャー・寺地隆成の構えたところにズバリと決まるなど、力強いストレートを投げ込んだ。
6月12日の広島戦で「あまり良くなかったですね」と自身の納得のいく球が投げられなかったフォークは、「(阪神戦は)良かったですね。膨らまないように、ストレートと同じ発射角度で投げられたかなと思います」と好感触。阪神戦は8奪三振をマークしたが、そのうち4つがフォークで奪ったもの。種市本人も「良かったと思います」と納得の表情を見せた。
◆ 交流戦明け
「まずは長いイニングを投げないといけないと思いますし、エース級がどんどんくるので、そこに負けずにエース級に勝てるように頑張っていきたいです」。
交流戦明け、チーム最初の試合となる6月27日のソフトバンク戦の先発マウンドを託された。「7回を投げれたことは良かったと思いますが、(ホームランを打たれた)先頭バッターへ不用意な1球だったのでもうちょっと丁寧に行くべきだったと思いますし、そこだけが1番の後悔かなと思います」と7回・105球を投げ、4被安打、6奪三振、1与四球、1失点も満足せず。この試合は、7イニング中6イニングが先頭打者を打ち取り、0-0の初回二死走者なしで柳町に3ボール2ストライクから151キロストレートで見逃し三振、0-0の2回先頭の中村晃を1ボール2ストライクから150キロストレートで見逃し三振と、追い込んでからフォークと見せかけてストレートで見逃し三振を奪っていた。
7月4日のオリックス戦が5回6失点、7月12日の西武戦が7回1/3を投げ5失点で、4月30日のオリックス戦から自身5連敗となった。
収穫もあった。「西武戦でタムさん(田村龍弘)が大事なカウントの時に使ってくれて、カウントが取れましたし、ああいう使い方をしたら見逃してくれるんだなと分かったので、オリックス戦もカーブを試合の力感でどうやってカウントが取れるのかというのを勉強しながら投げたいと寺地と話をしました」と同試合は7回1/3を投げ5失点も、寺地とバッテリーを組んだ7月19日のオリックス戦は序盤からカウント球でカーブを有効的に使い7回無失点で4月23日の西武戦以来となる3勝目を手にした。
前半戦最後の登板を終えて種市は、ストレートについて、「ストレートが一番イマイチですね」とバッサリ。7月12日の西武戦では150キロ超えのストレートが20球あったが、7月19日のオリックス戦は、150キロを超えたストレートはわずかに3球だった。ストレートのスピードについて、「風が強い日はあまりスピードが出ない。僕のイメージはそうなので、そこまで気にせずに投げていました」と話した。
ストレートは納得いっていないが、「変化球がすごく良くなってきています」と手応え。「西武の時は打たれて、結果は良くなかったですけど、そこまで悲観することなく1週間データを見て配球を考えて前回良かったので、しっかりコミュニケーションをとって次に繋げたいと思います」。
オリックス戦では、0-0の初回二死一塁で杉本裕太郎を2ストライクから空振り三振に仕留めたインコースのシンカー系のフォーク、3-0の6回二死走者なしで来田涼斗を3ボール2ストライクから空振り三振に仕留めたインコースのスライダー系フォークが非常に良かった。
種市本人も「どちらの三振もデータ的にすごく良かったですし、軌道も浮かずにそのまままっすぐ軌道で落ちていたので、あれを続けられるようにしたいと思います」と納得のいくフォークが投げられた。その一方で、「毎回打たれる時は、(7回)若月さんとか初回の廣岡さんのボールも浮いているなと思いながら、センターからの映像を見ていたので、それはやらないように気をつけたいと思います」と反省した。
スライダーは、初回先頭の廣岡大志に1ボールから投じた2球目の131キロのスライダーの軌道がいつもと違うように見えた。「そうですね、初回に関しては変化球を確かめながら投げる部分が多いので、軌道が変わったりしますけど、スライダーも左バッターに使うように意識できたのが良かったかなと思います」。
その中でも、0-0の5回二死走者なしで太田椋に2ボールから空振りを奪った3球目の逆曲がりの133キロスライダーが良かった。「そうですね、そもそもスライダーを曲げようと思って投げていないので、理想的にはああいう曲がり方が一番良いんですけど僕的には。縦スラみたいなイメージで投げられるように。(5回)廣岡選手の三振も三振を取りましたけど、もうちょっと縦に落とせれば良いかなと思います」。
スライダーでいうと、西武戦はスライダーの割合が少なかったが、オリックス戦では割合が多かった。
「あれぐらいの割合で良いかなと思います。いつもまっすぐが50%くらい投げるので、今回は40%切っていた。基本バッターはまっすぐを待っていると僕は思っているので、ああいうカウントの取り方がベストかなと。カーブで入ったり、カーブで取れたら大体手を出してくるイメージはないので、僕の球種的に。まっすぐ、フォークというふうになるので。1回軌道的に1回外れるようなボールを投げられるようにしたいなと思います」。
前半戦、14試合・86回1/3を投げ、3勝6敗、67奪三振、防御率3.65。「正直前半戦は情けないピッチング、自分が納得のいくピッチングがほぼほぼできなかったので、その中で後半戦はやっぱりちゃんとローテーションに回らないといけないと思いますし、長いイニングを投げないといけない責任があるので、歳も歳ですし。勝ちの確率が上がるようなピッチングができるように頑張りたいと思います」と振り返り、後半戦に向けて意気込んだ。
◆ 後半戦
強い覚悟で挑んだ後半戦は、“支配的な投球”でパ・リーグの各球団に強烈なインパクトを与えた。
種市といえば、“奪三振”。オールスター明け最初の登板となった7月29日の楽天戦は5奪三振だったが、8月5日のソフトバンク戦で12奪三振、13日の日本ハム戦で11奪三振、20日の楽天戦と27日のオリックス戦で9奪三振と、8月は月間リーグトップの41奪三振を記録した。
8月5日のソフトバンク戦、6-1の7回二死一、二塁で周東佑京に対し1ボール2ストライクから、それまでタイミングの合っていなかったフォークで三振を仕留めてくるかと見せかけて6球目の148キロストレートで見逃し三振、8月20日の楽天戦、0-1の3回一死走者なしで村林一輝を2ボール2ストライクからインコースストレートで見逃し三振などは、フォークを意識させた中でストレートで三振に仕留めた。
奪三振が増えている要因として、フォークを待っている打者にストレートで見逃し三振、空振り三振を奪えていることが奪三振数アップに繋がっているのではないかと質問すると、種市も「僕もそう思います」と即答。
オールスター明けのストレートについて種市は「良いと思います。まっすぐが良くなっているので、まっすぐの比率を増やしている感じです」と自己分析。
最大の武器であるフォークについても「フォークが一番安定してきたのが一番かなと思います」と話し、スライダーについては「試しながら投げている感じです」とのことだった。
6月5日の巨人戦から再び投げるようになったカーブは、1試合に2、3球の割合だったが、オールスター明けはカウント球で投げることが増え、8月20日の楽天戦、0-0の初回一死一塁でボイトに2ストライクから初めて決め球で投げた。そのカーブは「感覚は良いんですけど、映像とデータを見ても空振りを取れるようなボールじゃないので、本当にカウントが煮詰まってきた段階で、手詰まりな状況で投げようと思います」と明かした。
9月に入ってからも、3日の日本ハム戦、今季初完投勝利で6勝目。6月5日の巨人戦から100球以上を投げていたが、7、8回で120球近く投げるのと、9回・116球を投げるので、疲労度が違うのか訊くと、「正直、疲れ度的にはそこまで変わらなかったですね」と涼しい顔。
「風が強い日は低めが伸びるので、低めしか意識していなかったですね」と、立ち上がりからストレートを低めに制球した。2-1の6回一死走者なしでレイエスを2ボール2ストライクから見逃し三振に仕留めた5球目の外角150キロストレート、2-1の8回一死走者なしで水谷瞬を1ストライクから見逃しを奪った外角148キロのストレートとなど、右打者のアウトコースのストレートも良かった。本人も「良かったと思います」と振り返った。
フォークも1-0の3回二死走者なしで水谷を2ボール2ストライクから空振り三振を奪ったフォークをはじめ、ストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちの球が多かった。
「フォークに関してはそうですね、比較的に良くなかったと言ったらあれですけど、カウント球のフォークはよくなかったです」。
2-1の6回先頭のマルティネスを1ストライクから2球目に空振りを奪ったインコース137キロシンカー系フォークが良かったことを伝えると、種市は「それは良かったと思うんですけど、3、4、5回くらいの時のカウント球のフォークはよくなかったですね」と反省。
種市本人はフォークに納得いっていなかったが、4月15日の日本ハム戦以来のバッテリーを組んだ佐藤都志也はどう見ていたのだろうかーー。
「ちょっと種市も不安そうだったんですけど話し合いで、“大丈夫、フォークもマークしているから差さるから”と声かけしながら、押すところは押して、引くところはひく、それができたのかなと思います」(佐藤都志也)
8月27日のオリックス戦ではカーブを10球投げたが、3日の日本ハム戦は3球とここ最近の登板では少なめだった。マスクを被っていたのが佐藤だったことが関係しているのか訊くと、「単純に(佐藤)都志也さんの配球ですね」とのことだった。
ストライク先行で理想的なピッチングでの完投勝利だったが、「う〜ん、良かったとは思いますけど、反省点は多々ありますし、序盤も投球フォームを試しながら投げていた。しっくりこなかったので、完投できて良かったですけど、納得はできなかった1つの点かなと思います」と、“種市らしく”全く満足していなかった。
“種市はいいぞ!”という投球が続いていく。9月11日のソフトバンク戦、3回までパーフェクトピッチングで4回に2安打されたが、許した安打はこの2安打のみ。8回・109球、2被安打、9奪三振、1失点。序盤は150キロを超えるストレート主体の投球も、6回以降は、6回は9球中8球が変化球、7回は11球中8球が変化球、8回は11球中7球が変化球というピッチングだった。
9月18日の楽天戦は、7回・83球を投げ、4被安打、6奪三振、0失点。この日は初回から省エネ投球で、15球以上投げたイニングは初回の17球と3回の15球のみで、4回と5回はいずれも8球ずつで終えた。また、7-0の4回無死一塁で宗山を1ストライクから投じた2球目の146キロのストレートで左飛に打ち取り、2年連続規定投球回に到達した。
そして、9月27日の日本ハム戦はアメイジングな投球だった。初回からストレートは唸りをあげ、三振を積み重ねた。0-0の初回一死走者なしで五十幡亮汰を空振り三振に仕留めた1ボール2ストライクから4球目の外角154キロストレート、0-0の2回先頭の郡司裕也を空振り三振に仕留めた1ボール2ストライクから投じた5球目の外角155キロストレート、0-2の5回先頭の進藤勇也を2ストライクから見逃し三振に仕留めた外角148キロストレートは素晴らしかった。
ストレートで空振りを奪えている要因について「メカニックを変えたことが一番かなと思います」と話し、左打者の外角のストレート、右打者のインコースに佐藤都志也捕手の構えたミットにストレートがバシバシ決まったが、「ボールが叩けていた感覚がありましたね」とのことだった。
ストレートは7月21日の取材で「ストレートが一番イマイチ」と話していたが、「データというか投げ方、アングルを変えたのでそこが良いのかなと思います」と、力強さを取り戻した。
ストレートを立て直すために「一人でメカニックのことを考えてやれていたのが一番かなと。個別を長くしました。全体練習を早めに上がって、30分、1時間考える時間を作るようにしました」と、考える時間を増やした。
ストレートも良いが、フォークもストライクゾーンからボールゾーンによく落ちる。ただ本人は「ちょっと前の方が良かったのかなと思います。ソフトバンク戦の2つとか、エスコンで投げた試合とかも良かったと思います」とポツリ。
9月に入ってから目立ったのが、カウント3ボール2ストライクから落差の大きいフォークで三振を奪えていること。9月11日のソフトバンク戦、1-0の2回先頭の栗原陵矢を3ボール2ストライクから四球が許されない中、11球目の142キロストライクゾーンからボールゾーンに落ちる142キロフォークで空振り三振に仕留めれば、9月27日の日本ハム戦、0-2の3回一死一、三塁で水野達稀を3ボール2ストライクから7球目のフォークで空振り三振に打ち取っていた。
3ボール2ストライクからフォークを選択するというのは、空振りを取れる自信があるからだろうかーー。
「そうですね、腕を振った中じゃないと、エスコンの(本塁打を打たれた)レイエス選手の時みたいになってしまうので、(カウント)32からでも腕を振ることを意識しています」。
レギュラーシーズン最後の登板となった10月4日の日本ハム戦。シーズン最後の登板で5回・78球を投げ、1被安打、7奪三振、2与四球、無失点に抑え、9勝目を手にした。
この日は追い込んでからのフォークを見送られる場面もあったが、0-0の2回は先頭の石井一成を3ボール2ストライクから6球目の152キロストレートで空振り三振、0-0の2回二死走者なしで奈良間大己を3ボール2ストライクから153キロのストレートで空振り三振、0-0の3回も先頭の田宮裕涼を2ボール2ストライクから152キロのストレートで空振り三振に仕留めた。
種市は「最近フォークの状態があまり良くないので、今日もそうですけど、その中でフォークボールのイメージがついている中で真っ直ぐを選択して三振を取れていたのは、そこが良かったかなと思います」と振り返った。
種市は今季24試合・160回2/3を投げ、9勝8敗、160回2/3、161奪三振、防御率2.63。投球回数、奪三振はシーズン自己最多で、防御率も規定投球回に到達したシーズンは最も良い数字だった。
特にストレートの威力が戻ったオールスター明けは、10試合・74回1/3を投げ、6勝2敗、94奪三振、防御率は驚異の1.45。9・10月度はリーグトップの4勝、48奪三振をマークし、10月21日に、自身初となる9・10月度の『大樹生命月間MVP賞』パ・リーグ投手部門を受賞した。
種市はプロ入りから常々、“一番になりたい”と話してきた中で、モイネロ(ソフトバンク)、伊藤大海(日本ハム)、今井達也(西武)といったパ・リーグを代表する投手たちを抑えての月間MVP獲得。
9・10月度のパ・リーグNo.1投手に輝いたが、「そこは本当に嬉しい気持ちですけど、年間通してこそだと思うので、そこにこだわりたいなと思います」と、シーズン通して活躍してこそということを強調した。
「月間は1ヶ月、2ヶ月の活躍なので、1年間通してこそ一流のピッチャーだと思っているので、そこはなんとしてでも1年間同じパフォーマンスをできるように、オフも色々考えながらやっていきたいと思います」。
11月15日と16日に開催された『ラグザス侍ジャパンシリーズ2025 日本vs韓国』の日本代表に選出されたが、腰痛により11月3日に出場を辞退発表。11月14日に東京ドームで行われた『ラグザス 侍ジャパンシリーズ 2025 日本 vs 韓国』の前日練習に参加し、ピッチクロック、ピッチコムを確認。
ピッチコムは実際に「付けました。すごく面白いなと思ったのと、サインだけかなと思ったんですけど、サインプレーもできるみたいなので、ちょっと使ってみたいなと思いました」と話した。
ピッチクロックについては「リズムが狂うので、投げ急いでしまうので、一番難しいかなと思います。配球のこととか考えられなくなってしまうので、そこが難しいかなと思います」とのこと。
種市といえば、マリーンズでは投球テンポが早く、ピッチクロックも問題なく対応できそうな気はするが、「時間があるのと、テンポがいいのはちょっと違うのかなと思います」と話すも、「僕、もともとテンポが早いのでそこまで気にしなくていいかなと思います」と自信を見せた。
12月26日には嬉しい知らせが届く。「今回、自分のピッチングを評価していただき、こうやって選んでいただき大変光栄に思います」と来年3月に開催されるワールドベースボールクラシック(WBC)の日本代表に選出された。世界にTANEICHIを見せつけ、レギュラーシーズンに入ってからは“完全無双の種市”を披露することをマリーンズファンは楽しみにしている。来季は最多奪三振、最多勝、最優秀防御率といったタイトルを獲得し、球団初の沢村賞受賞し、マリーンズだけではなく、日本を代表する投手と呼ばれる1年にしてほしい。
取材・文=岩下雄太