ロッテ・藤原恭大 (C) Kyodo News

 「初めてのことだったので素直に良かったなというのもありましたけど、まだまだ物足りない数字なので、最低限の下地は作れたと思うので、来年はもっと飛躍できるようにしたいと思います」。

 ロッテの藤原恭大はプロ7年目の今季、プロ入り後初めて規定打席に到達した。

◆ 25年に向けて

 藤原は昨季故障で出遅れたものの、6月28日に昇格すると、「ずっと課題にしていたことなので、シーズン通しては戦えていないですけど、この2、3ヶ月上がってきて、3ヶ月通して好不調の波がなかったのは初めてなので成長した部分なのかなと思います」と、シーズン通して好不調の波が小さく、規定打席に届かなかったが打率.290でシーズンを終えた。

 シーズンオフは、自分自身と向き合い1人でトレーニングを行い、体づくりに重点を置いた。2月1日からの石垣島春季キャンプでは第1、2クールは別メニュー調整だったが、「練習量は落ちていないので、全然しんどさとか入ってのギャップはなかったですけど、シンプルに技術がついてきていないというところですね」と2月13日に全体練習に合流。

 この日の打撃行程ではマシン、打撃投手に対して、右足を上げて打つことがほとんどなく、ほぼノーステップ打法で打った。ノーステップ打法の時の打撃フォームも昨年に比べて変わっていたように見えた。「メカニック的にはノーステップの方がいいですけど、実戦が入ってくるとやっていないフォームですし、打ちにいけていないので全然。滑ってる打球とか、引っ掛けている打球が多かったので、足をあげたり考えながらやっていきたいと思います」と打ち明け、「シーズン中くらい小さくはないですけど、結構大きく変えているので、まだまだやっている途中という感じがあります」と続けた。

 それでも、2月15日の打撃練習では昨季に近いような打撃フォームで打っていた。藤原に確認すると、「そうです」と回答し、その理由について「去年の形に戻しているイメージはないですけど、結局、直していくと勝手に一番良いフォームに戻っちゃうという感じですね」と説明。「ノーステップの形で足を上げられたら一番良いので、その感覚を持ちながらという意識はしています」と話した。

 藤原は「バッティングがちょっとよくなってきて、手応えが出てきているので不安もありますけど、楽しみな部分も出てきました」と、手応えを掴み石垣島春季キャンプを打ち上げた。

 3月7日のソフトバンク戦でオープン戦初出場を果たすと、オープン戦の打率.261だったが、8試合中6試合で安打。3月12日の日本ハム戦から23日の巨人戦にかけて5試合連続安打を放った。オープン戦を終えた段階で、「何ていうんですかね、スイング軌道も変わってきて、ちょっとスイングも強くなってきているので、振らずに飛ぶ、ちょっと大人なバッティングになってきているのかなと思います」と好感触。

 3月28日のソフトバンクとの開幕戦、「チャンスだったので早めのカウントから変化球を狙って振りに行くことができました。ランナーを返すことができてよかったです」と、2-1の6回一死二、三塁の第3打席、有原航平が1ボールから投じた2球目のチェンジアップをライト前に2点適時打を放てば、続く7-1の8回無死走者なしの第4打席、津森宥紀が3ボール2ストライクから投じた8球目の外角のストレートを逆らわずに反対方向に二塁打。開幕戦で2安打2打点と最高のスタートを切った。

 開幕直後は“左投手”が先発の時はベンチスタートが多かったが、スタメン出場した試合は4月3日のオリックス戦が1安打、4月8日の西武戦が今季初の3安打、4月11日のソフトバンク戦は4安打の固め打ちで打率は驚異の.526を記録。

 昨季は「追い込まれてからは逆方向しか狙っていない」と話していたように、4月11日のソフトバンク戦は4安打中3安打が追い込まれてから逆方向に放った安打だ。「内容と結果が一致しているのでいいかなと思います」と手応えを口にした。

 4月13日の取材で藤原は「打ち方であったり、メカニック、引き出しは確実に良くなっているので、去年もある程度数字を残せたので、波は少なくなっているなというのは確実にありますね」と“引き出し”が増えたことが好不調の波が小さくなった要因のひとつに挙げていたが、“引き出し”を増やしたことでの打席内でどんなメリットが出てきたのか5月5日の試合前練習後の取材で訊くと、「悪いなりにヒット、四球が出ているので良いのかなと思います」と自己分析した。

◆ 交流戦から1番の打順に固定

 6月4日の交流戦初戦となった巨人戦から打順がほぼ1番に固定された。1番打者として意識していることについて、「特にないですけど、出るか出ないかで変わるので、チームに勢いをつけられたらいいなと思います」と話す。

 『1番・ライト』で先発出場した6月13日のヤクルト戦、1-1の2回一死一、二塁の第2打席、奥川恭伸が3ボール1ストライクから投じた5球目の外角のストレートを見送り四球を選び、続く寺地隆成の2点適時打に繋げた。

 得点には繋がらなかったが、4-4の6回二死二塁の第4打席、田口麗斗が3ボール2ストライクから投じた6球目の外角のスライダーをしっかりと見極め、チャンスを広げた。

 そして、先頭で迎えた4-4の9回の第5打席、「後ろにいいバッターの寺地がいたので、塁に出たらなんとかしてくれるかなと思ったので、ヒットで出れて良かったです」と、バウマンが3ボール2ストライクから投じた6球目の155キロのストレートをセンター前に運びチャンスメイク。

 続く寺地の1ボールからの2球目に二塁盗塁を試み、一度はアウトと判定されるも、リクエストで判定が覆り二塁盗塁成功。山本大斗の打席中、1ボール2ストライクからの4球目が暴投となり二塁から三塁に進み、続く5球目も暴投でサヨナラのホームを踏んだ。

 6月20日のDeNA戦、0-0の初回無死走者なしの第1打席、ケイが投じた初球の149キロストレートをセンターフェンス直撃の二塁打、6月22日のDeNA戦、9-6の5回無死走者なしの第4打席、石田裕太郎が2ボール2ストライクから投じた5球目の129キロのスライダーをライトスタンドに放り込んだ本塁打は良かった。

 「バットの軌道が良くなってきているので、バッティングは成長していると思います」。

 藤原は取材のたびに“長打”について、「長打を打つというよりは自分のフォームで打てれば長打が出ると思う」と話してきたが、ケイからのフェンス直撃の二塁打、石田からノーステップ打法で放った本塁打は、「変化球がうまいこと引っかかってホームランになったので、いい打ち方ができているかなと思います」と分析した。

 リーグ戦再開後も、初戦となった6月27日のソフトバンク戦、『1番・センター』でスタメン出場し、0-0の3回一死一、二塁の第2打席、モイネロが2ストライクから投じた4球目の127キロカーブをライト前に運ぶと、1-1の7回二死一、二塁の第4打席、モイネロが1ボール2ストライクから投じた4球目の144キロストレートをセンター前に弾き返す安打で、今季15度目の複数安打を達成した。

 交流戦に入ってから1番で起用されるなど、開幕から試合に出続ける中で、「入りとか変化球を投げきているので、そう感じるところはありますね」と攻め方の違い、マークが厳しくなったと感じる場面が出てきたという。追い込まれてからのバッティングに関しては、「大きくは変わらないですけど、相手が投げてくるところを早めに潰せたらいいなと思います」とのことだ。

 7月5日のオリックス戦では、5-2の9回一死二塁の第5打席、権田琉成が2ボール2ストライクから投じた5球目のインコース136キロチェンジアップをライトオーバーの適時三塁打を放つなど、交流戦のDeNA戦を境に引っ張った長打が増えてきた。

 そこに関しては「意識的には変わっていないですけど、浮いた変化球、緩い変化球は勝手にタイミングが早くなって引っ張れているのかなと思います」と明かした。

◆ 初のオールスター

 7月18日に吉報が届く。「素晴らしい選手が沢山集まる舞台なので、自分自身がレベルアップできるように、色々な人に色々な話を聞いてみたいと思います」。補充選手として『マイナビオールスターゲーム2025』の初出場が決まった。

 「初めてなので楽しみながら、日程もハードなので、色々考えながらやっていけたらいいなと思います」と、後半戦の戦いを見据えた。

 オールスターでは7月23日の第1戦、ガラポンで1番を引き当て、『1番・ライト』でスタメン出場。1-0の3回無死一塁の第2打席、松葉貴大(中日)が2ストライクから投じた3球目の139キロストレートをセンター前に弾き返し、オールスター初安打を記録した。

 オールスター明け、最初のゲームとなった7月26日の日本ハム戦(エスコンフィールド)で4打数0安打に終わったが、翌27日の日本ハム戦、「死ぬ気で打ちました。もうそれだけです」と、3-4の8回一死三塁の第4打席、田中正義が1ストライクから投じた2球目の155キロストレートをレフト前に弾き返す同点打。さらに、4-4の11回二死満塁の第6打席、宮西尚生が3ボール1ストライクから投じた5球目の139キロのストレートを見送り決勝の押し出し四球を選んだ。

 7月31日の楽天戦では3打数0安打も2四球、5打席で30球も楽天投手陣に投げさせた。8月に入ってからは2日の西武戦で2安打、3日の西武戦で1安打と、ハードな日程、移動もものともしなかった。

◆ ドーム球場で打った8月

 8月はドーム球場で打った。8月は23試合に出場して、月間打率.278だったが、ドーム球場に限ると、打率.405。16日のソフトバンク(みずほPayPayドーム)で3安打、17日のソフトバンク戦(みずほPayPayドーム)で2安打、そして、26日のオリックス戦(京セラD大阪)で3安打とドーム球場では3試合連続複数安打を放った。「もちろんドームというのは一番打ちやすいですし、成績も出ると思います。マリンは風も強いですし、1試合1試合違うので成績を残すのは難しいですけど、なんとか粘ってヒットを毎日1本打てるようにというところを意識しています」。

 そのZOZOマリンスタジアムでも、8月20日の楽天戦、0-1の初回無死走者なしの第1打席、古謝樹が3ボール2ストライクから投じた146キロの外角ストレートをレフト前に弾き返す安打で、自身初となるシーズン100安打を達成した。藤原は「意識していたので、正直嬉しいです」と喜んだ。

 同日の楽天戦では、2-2の7回無死二塁での第4打席、「最低進塁打しようと思ったんですけど、思ったよりも真っ直ぐが速くて、変化もしていた。ヒットを打ちたかったですけど、ピッチャーの方が上回っていたので、結果的に進塁打になって良かったと思います」と、西垣雅矢が1ボール2ストライクから投じた7球目の外角139キロ空振りを奪いにきたフォークをバットに当てて二塁走者・友杉を三塁に進める遊ゴロ。その後、山口が決勝3ランを放った。

 アウトのなり方について藤原は「意識はもちろんしていますし、率以上にも貢献できることはいっぱいあると思います。そういうところプラス、(西川)史礁が復帰後ずっと打っているので、なるべく史礁にランナーをたまった場面で渡せるようにしたいと思います」と話した。

 藤原は8月30日のソフトバンク戦の第3打席で、プロ入り後初の規定打席に到達。しかし、翌31日のソフトバンク戦にベンチ外になると、9月3日に一軍登録を抹消。9月30日に一軍復帰すると、最終的には107試合に出場して、打率.271、4本塁打、24打点、15盗塁の成績で終えた。

 シーズン終盤に離脱はあったものの、大きな好不調なく戦えたことは収穫。「自分が想定していたくらいのペースというか、打率もそうですけど、これくらいやらないといけない目標の最低限のところはクリアできたので、もっと高い目標を持ってやっていきたいと思います」。

 打率.271。藤原恭大であれば、もう少し高いところを求めたい。そのために、打てる波を増やす必要がある。

 「シーズン中は疲れるので、疲労をとるのと、後半はランニングを増やして成績が良くなったので、足を動かせられないとバッティングは良くならない。そこはうまい具合の調整の仕方かなと思います」。

 今季に向けて規定打席到達、打率3割、二桁本塁打を掲げたが、打率3割と二桁本塁打を達成できなかった。この2つを達成するために「1年間戦ったことなかったので、はじめて戦えて、こうしたらできる、そこを取り除けたらいけたなというのもあるので、今シーズン終わって、3割、2桁は絶対にできると思います」と自信を見せた。

 サブロー監督が就任する来季は、不動のレギュラーとして、中心選手として活躍が求められる。「僕より若い選手が多いので、中堅という立ち位置かわからないですけど、それくらいの気持ちを持って背中でもそうですけど、引っ張っていけるようにやっていきたいと思います」。藤原恭大の時代がやってくる。

取材・文=岩下雄太

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