中日・井上一樹監督

◆ 白球つれづれ2026・第5回

 沖縄・北谷(ちゃたん)で行われる中日のキャンプにあの“元気印”がやって来た。ダイエー、ソフトバンクやメジャーでも活躍した川﨑宗則氏だ。

 44歳になる今も、BCリーグ栃木でプレー、昨年秋には中東のドバイリーグにも参戦している。衰え知らずのレジェンドを今度は中日がキャンプの臨時コーチ兼選手として招請したものである。

「いるだけでプラス。チームに欠かせない人間になるにはどうしたらいいか、学んで欲しい」と語る井上一樹監督とは、鹿児島の同郷。グラウンドにいても、ベンチを温めていても常に声を張り上げ、アグレッシブに野球と取り組む。主力で、ムードメーカー。そんな存在自体が、おとなしいと言われる今の昇竜ナインには最も必要な生きた教科書だ。加えて、二遊間を中心とした内野陣の強化は今季の大きなテーマでもある。

 指揮官の期待通りに臨時コーチ初日の2日から「ムネリン」は精力的に動き回った。早出のシートノックから、選手として参加。遊撃のレギュラーを目指す村松開人、福永裕基や二塁定着が期待される田中幹也選手らとコミュニケーションを取りながら、指導も行っていく。

 今季の中日は、川﨑臨時コーチだけでなく見どころが満載である。

 球団は創設90周年のメモリアルイヤー。チームは昨年ようやく万年最下位の座から脱して今季はAクラス入りも望めそう。それどころか、この時点では打倒阪神の一番手に推す評論家も多い。

 現時点では、阪神が「一強」としたら、DeNAと巨人、中日が「三中」で、広島とヤクルトが「二弱」の見方が多い。その中でDeNAは選手が激しく動き、巨人は主砲・岡本の抜けた穴があまりに大きい。それに比べて中日は戦力が整い出しているのが高評価の因だろう。

 加えて、本拠地のバンテリンドームは新たに「ホームランウイング」が誕生して、左中間と右中間のふくらみが6メートル狭くなるので貧打解消にも一役買いそうだ。

 フロントには、かつての名二塁手である荒木雅博氏が球団本部長補佐に就任、一軍のベンチには前ヤクルトの嶋基宏氏がヘッドコーチとして入閣。このあたりにもチーム改革への本気度が覗える。

 もう一つの大きな起爆剤になりそうなのが新外国人、ミゲル・サノ-選手(元エンゼルス)の加入だ。

 メジャー通算164本塁打を誇る長距離砲。196センチ、126キロの巨体から放たれる一発は大谷翔平以上の飛距離を計測し、メジャーでの本塁打率でも、日本ハムのフランミル・レイエスを上回る数字を残している。

 早速、キャンプ初日から12本の柵越えを記録。井上監督は現在6キロオーバーと言う体重が故障につながらないかと「減量ウイーク」を命じているが、故障なくシーズンを完走すれば30~40本塁打も夢ではない。

 昨季はチーム打率(.232)同得点(403)がリーグワーストでチーム本塁打83本もリーグ5位。それがサノーの加入で細川成也、ジェイソン・ボスラーと強力クリーンアップが出来上がる。

 投手陣にも髙橋宏斗に次ぐ若きエース候補として、金丸夢斗にドラフト1位ルーキーの中西聖輝(青学大)ら楽しみな人材が多い。

 12球団の指揮官の中で井上監督は一番地味な存在かも知れない。現役時代に輝かしい打撃タイトルを獲得したわけではない。それでも二軍監督として地道に若手と汗を流して来た。親分肌で面倒見のいい54歳の「おじさん」。この手の指揮官は自分から動き回る策士タイプではないがチームをまとめるのは巧い。

 リーグ優勝は落合博満監督時代の2011年から遠ざかっている。直近の10年を見ても4度の最下位に、4度の5位で最高位が6年前の3位と低迷が続いた。

 昨年は王者・阪神から23ゲーム差をつけられた。その差を一気にひっくり返すのは至難の技だが、反撃の材料は確かに整いつつある。こんな上げ潮ムードを井上監督の「おじさん力」でどこまでまとめ上げることが出来るか。

 今季セ・リーグの「台風」は東海地方から吹く、と見た。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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