◆ 白球つれづれ2026・第6回
スポーツファンにとって今年の2月はいつも以上に忙しい。
プロ野球がキャンプインすると6日にはイタリア・ミラノ、コルティナ冬季五輪が開幕。熱戦の最中に14日からはWBC侍ジャパンの宮崎合宿が始まる。
さらにサッカーのJリーグが開幕して、バレー、バスケット、ラグビーら各種競技も佳境を迎えている。
冬季五輪の日本勢は快調なスタートを切った。
スキージャンプ女子で丸山希選手がノーマルヒルで銅メダルを獲得すれば、スノーボード男子ビッグエアでは木村葵来(きら)選手が金、木俣椋真選手が銀メダルの快挙。日本時間9日に行われたフィギュアスケート団体では日本チームが銀メダルを獲得。この先もメダルラッシュが期待されている。
そんなミラノ組にあって、別の角度から注目を集める男がいる。
元日本ハムのコーチで、23年のWBC(ワールドベースボールクラシック、(以下同じ)で侍ジャパンのヘッドコーチを務めた白井一幸氏だ。
この冬はカーリング日本代表・フォルティウスのメンタルコーチとして参戦している。教え子の大谷翔平選手とは、また一味違う“二刀流”ぶりである。
現役時代は日本ハムの二塁手として巧打堅守を誇った白井氏が現役引退したのは1996年のこと。翌年から同球団の職員となったが、同時にニューヨーク・ヤンキースへのコーチ研修が実現する。ここで興味を持ったのがメンタルトレーニングだ。
今でこそ、日本の各球団でもメンタルヘルスへの関心が高まっているが、当時はまだ根性論や経験則が幅を効かせている時代。
白井氏はその後、日本ハムの監督に就任したトレイ・ヒルマンの下でコーチの研鑽を積むが、そのヒルマン監督が退団後、カンザスシティー・ロイヤルズに移ると、特別コーチ兼スカウトアドバイザーとして招請されて再び渡米。こうした貴重な体験が、メンタルコーチへの道を切り開く。
「本当のライバルは自分自身だ」
「人は目指したところへしか行けない。富士山を目指したトレーニングでエベレストには登れない」(白井氏の公式ホームページより抜粋)
勝負の世界で生き抜くには、ちょっとした心のあり方ややる気を引き出すメンタルコーチングによって戦う集団は出来上がる。
カーリングチームのフォルティウスのメンタルコーチに就任したのは2020年のこと。国内でも屈指の強豪チームだったが、ライバルのロコ・ソラ-レの後塵を拝して五輪への道を閉ざされて来た。メインスポンサーであった北海道銀行との契約も打ち切られ、チーム存続はクラウドファンディングでやりくりする時期もあった。
「どうして勝てないのか?」ではなく「どうしたら勝てるのか?」とマインドセットすることでチームは光明を見出していった。
長年のライバルであるロコ・ソラ-レの藤沢五月選手はフォルティウスの司令塔である吉村紗也香選手を「すごく冷静で強気な選手」と評している。これもまたメンタル強化の「白井教室」が功を奏したのかも知れない。
メンタルトレーナーの第一人者となった白井氏は、これまでフォルティウスだけでなく、バスケット・レバンガ北海道やサッカー・V・ファーレン長崎らのメンタルコーチも務めている。
フォルティウスは長いトンネルを脱して、初の五輪出場を勝ち取った。スポーツに取り組む姿勢で「心・技・体」と言う言葉がよく使われる。頂点を掴むためには技も体力も必要だが、心のあり方も極めて重要だ。こうした観点からフォルティウスの挑戦を見てみるのも面白い。
初陣は12日のスウェーデン戦。世界一を目指す彼女たちと共にメンタルコーチ・白井一幸の戦いも始まる。WBCで金、カーリングで金となるか。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)