『eBASEBALLプロ野球スピリッツ2021 グランドスラム』

 日本代表チームで国際大会を戦えるゲームをやってみたい―――。

 大谷翔平や鈴木誠也の侍ジャパン合流のニュースを見て、ふと思った。『プロ野球スピリッツ6』や『実況パワフルメジャーリーグ2009』には第2回WBCモードを実装しているが、17年後の今も現役選手はダルビッシュ有、涌井秀章、田中将大、さらには栃木の選手兼テクニカルアドバイザー川崎宗則ら当時20代前半の選手数人である。

 最近のゲームでは(と言っても5年前の発売だが)、ニンテンドースイッチの『eBASEBALLプロ野球スピリッツ2021 グランドスラム』(コナミデジタルエンタテインメント)に「東京2020オリンピックモード」が収録されている。久々に遊んでみると、これが絶妙に懐かしく、時代の変わり目を追体験できる代表モードでは神ゲー仕様となっている。ちなみにスイッチ版唯一のプロスピとして本作の人気は高く、2026年2月現在の中古ゲーム市場でも定価に近い高価格で流通している。

 まだ世の中で、黙食やマスク飲食といった新たな食事マナーが推進されていたコロナ禍で、開催が1年延期された2021年夏の東京五輪の野球代表メンバーは、ベテラン・中堅・若手からバランス良く選出されている。1988年組の柳田悠岐、坂本勇人、田中将大、大野雄大らが最年長グループで、柳田はこの21年シーズンに36本塁打を放ち、現時点で自身最後の30本台クリア。坂本は巨人でも代表でもまだ不動のショートで、21年はセ・リーグのベストナインとゴールデングラブ賞(遊撃部門では最後の受賞)に輝いた。いわば、長く球界を牽引した88年組が、年齢的にここから徐々にピークアウトしていくという時期でもあった。

 中堅組では、現メジャーリーガーの鈴木誠也や吉田正尚が選出され、当時27歳の鈴木はこの21年シーズンに打率.317で二度目の首位打者を獲得する。オフにはポスティングシステムを利用して広島からシカゴ・カブスへ移籍。母国開催のオリンピック金メダルで日本球界の有終の美を飾った形となった。吉田は打率.339で2年連続の首位打者を獲得。翌22年シーズンまでオリックスでプレーしたのち、ボストン・レッドソックスへ。さらに29歳の山田哲人も21年は34本塁打を放ち、こちらも現時点では自身最後の30本台となっている。東京五輪の山田は打率.350、1本塁打、7打点、3盗塁でリードオフマンとして侍ジャパンを牽引、大会MVPにも選出された。これなら大谷いなくても金メダル獲るよね…と納得してしまう国内組豪華メンバーだ。 

 若手では最年少の21歳・村上宗隆が全試合スタメンで5安打を記録。投手陣では23歳の山本由伸がドミニカ共和国との開幕戦や準決勝の韓国戦に先発する「新日本のエース」を託された。千賀滉大は右足首の故障明けで追加招集となったが凄まじい落差の「ゴーストフォーク」はプロスピでも健在だ。千賀は23年からニューヨーク・メッツへ活躍の舞台を移し、移籍直後のため2023年のWBCには出場していない。

 福島県営あづま球場が舞台となり、海外の選手は偽名だが、このゲームの日本代表モードは自分好みに選手登録が可能だ。高年俸スタープレイヤーの保険問題など気にせず、現在メジャーリーグに移籍した、当時のNPB所属選手たちを片っ端から追加招集することもできてしまう。菅野智之、今永昇太、今井達也、松井裕樹らを集結させた豪華投手陣。現ブルージェイズの岡本和真を加えた、鈴木・吉田・岡本・村上が並ぶ野手陣は2026年WBCでも主軸を張っている。5年前は彼らが皆、NPB球団に所属していた事実に驚かされる。

 東京五輪が開催された2021年に、ア・リーグMVPを獲得した大谷翔平の投打に渡る大活躍で日本人選手や日本市場の評価も再び高まり、それ以降多くのNPBの選手が海を渡った。今後もその流れはさらに加速するだろう。近い将来、全盛期の柳田や山田のようなスケールの選手が出現したら、当然のように20代の早い時期にメジャーリーグでのプレーを志すはずだ。

 88年組が第一線で活躍した最後の国際舞台であり、のちにMLBで躍動する若手選手たちも日本球界でトップレベルへと駆け上がった東京五輪。あの夏、無観客のスタジアムで彼らは金メダルを獲得した。『eBASEBALLプロ野球スピリッツ2021 グランドスラム』は、まだ国内のプロ野球に多くのスター選手が共存していた歴史の生き証人とも言える野球ゲームなのである。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

この記事を書いたのは

中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2010年開始のブログ『プロ野球死亡遊戯』が話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人を担当し初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)『令和の巨人軍』(新潮社)ほか。新刊『巨人軍vs.落合博満』(文藝春秋)も絶賛発売中! 

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