◆ 白球つれづれ2026・第9回
いよいよWBC(ワールドベースボールクラシック、以下同じ)が3月6日に開幕する。2大会連続世界一を目指す侍ジャパンはメジャー組も合流した2、3日の対オリックス、阪神との強化試合を経て、初戦(6日)の台湾戦に臨む。
先月末に行われた中日との強化試合は連勝。佐藤輝明、森下翔太ら阪神勢の打棒が爆発した初戦。牧秀悟と森下の「中大パワー」が目立った第2戦など、打撃陣の元気の良さが頼もしかった半面、投手陣にはいくつかの不安要素も露呈した。
中でも気になるのは“守護神候補”と目される大勢投手の緊急降板である。
初戦の9回に満を持してマウンドに登ったが、本来の球威を欠き、2本の安打を許す。さらに三塁へのベースカバーに入った際に右脚ふくらはぎがつって途中降板となった。幸い翌日には練習に復帰するなど重症でなかったようだが、このまま本番を迎えるようだと、首脳陣も投手陣の再編成を余儀なくされそうだ。
今回の侍ジャパンは戦う前から誤算が続いている。
特に「抑え役」を任そうとした平良海馬(西武)、石井大智(阪神)、松井裕樹(パドレス)の3投手が相次いで故障のため出場を辞退。その分を藤平尚真(楽天)、隅田知一郎(西武)、金丸夢斗(中日)でカバーするが、現時点で確実な計算が立つわけではない。
WBCは球数制限があり、短期間で連戦が続くため、先発と抑えの間に「第2先発」を置くのが日本流の必勝パターン。ここには伊藤大海や宮城大弥らNPBのエースたちが起用されると見られている。
しかし、“勝利の方程式”と呼ばれる7~9回を任せられる布陣が定かでなければ世界一もおぼつかない。そこで急遽、大役を任せられるのでは?と目されているのが種市篤暉投手である。
先月27日の中日戦。二番手で登板するとわずか11球で完全料理。ストレートは自己最速を更新する156キロを記録、自慢のフォークは打者をきりきり舞いさせる。
日本投手が世界を相手に通用するパターンは、150キロ台後半のキレのいい直球と、メジャーリーガー相手でも縦に落ちるフォークボールを駆使できること。種市はいずれの要素ももっているから面白い存在になる。
2016年、八戸工大一からドラフト6位で入団して10年目。昨季まで通算37勝31敗2ホールドの成績は特筆するものが少ない。
だが、昨季後半戦の9月・10月に別人のような快投を続けて自身初の月刊MVPを受賞している。この間5試合に先発して4勝1敗、防御率0.95と安定感は抜群。中でも奪三振は48を数え無双ぶりを発揮している。
この好調さを今年の侍ジャパンの宮崎キャンプでも持続していたので、視察に現れた評論家達も一様に驚きの声を上げている。
「ストレートの球威はあるし、フォークのキレも抜群、面白い存在になる」と高評価を口にしたのは、第1回WBCのMVPに輝いた松坂大輔氏。
クローザーとして大勢の調子が上がらない場合、もしくは他に適任者が見つからない時に第2先発組から抜擢するとしたら、この種市が最有力候補に浮上するかもしれない。あとは髙橋宏斗や伊藤のスクランブル発進もあり得る。
種市の球歴を調べてみると、好素材と故障の間で苦闘してきた足跡が見て取れる。
プロ1年目からシーズンオフのアジアウィンターベースボールリーグ、イースタン選抜に選出され、2年目にはフレッシュオールスターに出場し、WBCのU-23W杯日本代表にもなっているのは大器の証明。だが2020年には右肘痛からトミージョン手術を受けて以後の2年間を棒に振る。こうした苦難の道を乗り越えて現在の投球を勝ち取った。
プロ入り以来、将来の夢としてメジャー入りを語って来た。誰も聞く耳を持っていなかったが、この大舞台で目を見張る活躍をすれば、MLB関係者の目に止まるのも間違いない。
遅れてやって来た大器に一世一代の大舞台が託されるかもしれない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)