20数年前、多くの野球ファンが、このゲームソフトを使って1リーグ制をシミュレートしていた。
2003年9月25日発売のPS2版『新ベストプレープロ野球』(エンターブレイン)である。2004年6月13日に近鉄とオリックスが球団合併に基本合意したことから始まった球界再編騒動だったが、当初は経営陣が選手会やファンの反対意見を無視して1リーグ制への移行を画策。そんな時代背景もあり、野球シミュレーションゲーム『新ベストプレープロ野球』の12球団総当たりの1リーグペナントモードが話題となった。
ベストプレープロ野球シリーズの歴史を振り返ると、阪神タイガースが初の日本一となった1985年、FM-7のPCソフト『ベストナインプロ野球』(アスキー)として初登場。そして、星野中日が初のリーグ優勝に輝いた1988年にはファミコン版の『ベストプレープロ野球』が世に出て、知名度も急上昇する。開発者はのちに『ダービースタリオン』シリーズで一世を風靡する薗部博之である。

『ファミスタ』のようにアクションではない、豊富なデータを駆使してシミュレーションを楽しむ頭脳派野球ゲームの登場は画期的で、熱狂的なファンを生んだ。92年までにファミコンだけで、新データ版含む5本を発表する人気シリーズとなるが、『ベストプレープロ野球スペシャル』では多くのバグが発見され、後期ロットでバグ修正版が発売されたこともある。
1999年には7年ぶりの新作がWindows用ソフトで、2002年にはゲームボーイアドバンス版、2003年にはプレイステーション2と各機種で最新作が発売された。ちなみに一部はレトロゲーム市場でプレミア化しており、2026年現在、中古のGBA版が1万5000円前後、PS2版も5000円台で店頭に並んでいる。特にマニアの間でシリーズ最高傑作の呼び声高い2000年発売のPC版は、発売元の事業撤退で市場に出回った数が少なく、ネットでも6〜7万円前後の高額で取引されている。
◆ 12球団総当たりの1リーグ制ペナントを再現

現時点で最終作のPS2版『新ベストプレープロ野球』は、タレント時代の森下千里が「文句があるなら監督やってみな!」と居酒屋の野球好きおじさんに啖呵を切るCMが有名だ。
本作のウリは各選手の詳細データはもちろん、例えば人工芝のグラウンドは土より疲れが溜まりやすく、スタミナの低い野手はペナントレース後半に打撃指数が下がる異様なリアルさにある。さらにはストライクゾーンの広さやボールの飛びやすさまでプレイヤー好みに細かく設定できてしまう。
2003年当時の球界はパ・リーグだけで年間1000本塁打が乱れ飛び、両リーグで計32名の3割打者が誕生。現在の球界事情では信じられないレベルの打高投低だったので、もし今の最新データを作成して遊ぶならば、初期設定でストライクゾーンを広くして、ボールをやや飛びにくくした方がリアリティのある数字に近付くだろう。
今回は久々に『新ベストプレープロ野球』で12球団総当たりの1リーグ制ペナントを再現してみる。
最初はボールの反発力+3にしてオート進行したら、小笠原道大(日本ハム)が打率.447、タフィ・ローズ(近鉄)が62本塁打という凄まじい成績になってしまったので、調整なしのノーマルボールやあえて飛距離マイナス数値の低反発球を試してみる。何度かシーズンを繰り返してみたが、優勝争いは2003年に日本シリーズを戦ったダイエーと阪神、そして強力打線の巨人の三つ巴のケースがほとんどで、そこに西武、ヤクルト、中日が上位で絡んでいくペナントが多かった。逆指名ドラフト時代の真っ只中、もし実際に強引に1リーグ制へ移行していたら、似たような展開になっていたのではないだろうか。

打者成績が上がりすぎるのを防ぐため、ストライクゾーンを上下左右に+1ずつ広め、ボール飛距離は−1の初期設定で実行したペナントでは、巨人が2位ダイエーに13ゲーム差をつけて独走優勝。
シーズン成績の詳細を見てみると、全試合DH制のため、チーム守備力を落とさず、清原和博とペタジーニの共存が可能になり、清原は36歳にしてキャリアハイの打率.315、31本塁打、96打点、OPS895。ペタジーニも打率.323、28本塁打、86打点、OPS1,006と2002年オフにメジャー移籍の松井秀喜の穴を埋めた。その二人とクリーンアップを組む四番の高橋由伸はシーズン最多記録を更新する222安打を放ち、打率.374のハイアベレージで同学年の松井稼頭央(西武)と熾烈な首位打者争いを繰り広げた。
投手陣では球の切れ、制球力、スタミナがA設定の28歳の上原浩治が、抜群の制球力でゾーンの広がりの恩恵を受け、22勝を挙げる大エースぶりだった。しかし、球質Dのため22被本塁打を喫するなど、強力打線に助けられた面も少なからずあったのも事実である。開幕戦でその上原と投げ合った松坂大輔(西武)は220イニングで14勝8敗、リーグ最多の231奪三振をマークした。黒田博樹(広島)、斉藤和巳(ダイエー)、川上憲伸(中日)、井川慶(阪神)、岩隈久志(近鉄)ら各球団のエースが凌ぎを削った2000年代初頭である。

ファミ通責任編集でエンターブレインから発売されている『新ベストプレープロ野球』公式ガイドブックでは、「エースの信頼度数値は低い方が、疲れが出ても投げ続けさせることが少ないので、疲労が溜まりにくく効率的かも」と冷静な分析もしている。なお、監督采配で完投型と継投型のタイプ別に検証すると、完投型は先発陣に疲労が蓄積され投壊状態に陥り、チーム防御率に1点以上の差が出たという。
この公式ガイドブックもこだわりの内容で、「もしも上原が左投手ならば成績は変わるのか?」とか、「もしも清原が左打者だったら?」を実際にデータ検証している。ちなみに選手数値そのままに左右のオーバー、サイド、アンダースローと投法別に検証したら、最も防御率が良いのは左のオーバーハンドで、清原は10シーズン平均で算出した打率が右打席は.272、左打席は.288というものだった。ほぼ同じ数値の左右の野手同士で検証しても、出塁率は左.361、右.306と大きな差が出ている。
本書はその内容の面白さから当時の定価以上のプレミアが付いてしまっているが、「もしタフィ・ローズが非力だったら?」「もし吉井理人が速球派だったら?」といった検証の数々は野球本としても充分面白いので、もし店頭で見かけたら即買いがオススメだ。

本シリーズはあまりの数値設定の多さとマニアックさに大人向けのゲームと思いがちだが、ファミコン時代からベストプレープロ野球をきっかけに、データの魅力や野球の奥深さに目覚めた少年も多かった。いつの時代も、子供を決して甘くみてはいけない。ダビスタのインタビューで、開発者の薗部はこんな言葉を残している。
「子供向けに、なんてことはまったく考えませんでしたからね。やさしくしてあげようなんてまったくなくて、むしろ逆で。だって、大人向けに作った方が、子供って食いつくでしょう」(NumberWeb2019年5月17日配信記事より)
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)