◆ 白球つれづれ2026・第14回
プロ野球開幕から10日。この間の最大の異変と言えば、ヤクルトの快進撃だろう。
各3カードを終了した6日現在(以下同じ)7勝1敗でセリーグの首位を快走中だ。戦前の下馬評では断トツの最下位候補と目されたチームに何が起こっているのか? 様々な角度から“春の珍事?”に迫ってみる。
「燕心(エンジン)全開」。今年のヤクルトのチームスローガンだ。
池山隆寛新監督を迎えて、新たな航海に旅立つ。プロ野球史上4人目の新人還暦監督だが、心は誰より若く、熱い。「対話・笑顔・元気」を合言葉にチームの刷新を図った。もちろん最下位からの脱出に必要なチームのまとまりを前面に出したかったに違いない。
それでも開幕を前にして戦力は揃わない。
山田哲人、塩見泰隆、内山壮真といった主力選手を故障で欠き、即戦力の期待を集めたドラフト1位の松下歩叶選手(法大)までキャンプ途中で離脱。3月下旬のキャンプ打ち上げ段階では、チームの仕上がり具合を問われると「合格点に満たない」と指揮官は苦渋の表情を浮かべた。
ない袖は振れない。だが長く二軍監督を務めた池山監督には開き直る材料があった。「池山チルドレン」を使った攻撃野球の実践である。
山田や内山らのレギュラーがいないなら、と思い切って若手を大抜擢。五番に岩田幸宏選手を起用すると、意外性を発揮して打線のキーマンとなる。六番以降は増田珠、伊藤琉偉、武岡龍世ら一軍半クラスの選手を活用するあたりは、共に汗を流して来た二軍監督ならではの発想である。ない袖を振った。
彼らの年俸は一番高い岩田で2700万円(推定、以下同じ)から最も低い伊藤の1400万円まで超リーズナブル。そんな彼らが首位快走の原動力になっている。これまでレギュラーに届かなかった若手が、今まで以上の期待を背負って切磋琢磨する。そこへ指揮官は「バント無用」の、のびやかな采配に徹する。池山監督自身が現役時代は「ブンブン丸」と呼ばれ、フルスイングでアーチを量産した長距離砲。ミスをしても引きずらない。誰かがヒーローになったらみんなで喜びを分かち合う。そんなムードの先頭に立って監督が声を枯らしているのだから、ベンチにも活気がみなぎる。
もうひとつ、ここまでの快進撃を支えている要因がある。これまた12球団最弱と見られてきた投手陣の奮闘だ。
前節までのチーム得点41に対して同失点23はいずれもリーグ1位。さらにチーム防御率2.63もトップだ。
開幕投手を務めた吉村貢司郎は2試合1勝1敗ながら防御率は0.60と抜群の安定感を誇る。山野太一は2戦2勝、高梨裕稔が2試合で防御率2.38。昨年は故障に泣いた奥川恭伸は初登板の広島戦で7回1失点の好投を見せ、ベテラン・小川泰弘も白星スタートを飾っている。
昨年は吉村の8勝がチームの勝ち頭。前述の5投手で24勝28敗だからチームが最下位に沈むのも当然だ。今年は現時点で3失点以下のゲームが6試合。5点以上取られたゲームは打線が奮起して取り返す。この数年不安要素だったクローザーに新外国人ホセ・キハダが加わり、早くも3セーブを記録しているのも明るい材料だ。
ペナントレースは143試合の長丁場。わずか8試合で先を語れるわけではない。まだ阪神、巨人との対決は終えていない。各球団とも2度くらいの対戦を終える30試合あたりまでは戦力の見極めは難しい。だが、一方でヤクルトと言うチームは過去に最下位から優勝の離れ業を2度もやってのけている。調子に乗ると手の付けられない強さを発揮してきた歴史がある。
人気マスコットの「つば九郎」も1年ぶりに帰ってきて、神宮のムードは最高潮。さて、この“イケイケ旋風”がどこまで続くのか?
下馬評では阪神の“一強”と呼ばれる中で、真っ先に空高く飛んだ池山ツバメ。指揮官の声は枯れても、まだ奇跡の進軍は止まらない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)