中日・根尾昂 (C) Kyodo News

◆ 白球つれづれ2026・第15回

 中日が泥沼の苦境にあえいでいる。

 13日現在(数字は以下同じ)3勝11敗の最下位。首位の阪神とは、早くも7.5ゲーム差をつけられている。開幕前にはドラフト1位の即戦力で中西聖輝投手(青学大)や、メジャー164発の怪力、ミゲル・サノー選手の加入などで戦力アップ。セ・リーグ優勝争いのダークホース的存在と目されていただけに、ドラゴンズファンでなくても期待外れのすべり出しとなった。

 あまりの惨状に、球団側もテコ入れ策へ動いた。

 今月11日には、日本ハムから杉浦稔大投手を金銭トレードで獲得。13日には前二軍監督の落合英二氏(現投手コーディネーター)を一軍に配置転換する緊急人事を発表した。いずれも投手陣の建て直しが目的、何せ今季11敗中、6度が逆転負けで、チーム防御率4.29はリーグワーストだから手をこまねいているわけにはいかない。

 そんな暗黒の日々にあって、先週たった一筋の光明が見えた。プロ8年目、根尾昂投手の初勝利だ。

 8日のDeNA戦。4対4の同点で迎えた延長10回に6番手でマウンドに上ると、打者3人にノーヒット、2三振の好投を見せると11回味方打線が2点を奪い逃げ切った。その瞬間、通算36度目の一軍マウンドで勝利投手の記録がついた。

 2018年のドラフトは、根尾のためのドラフトと言っても過言ではなかった。大阪桐蔭高では三度の甲子園制覇。中でも投手として、遊撃手として二刀流の活躍を見せる根尾のスター性と注目度は抜群で、プロ志望を明言すると4球団が競合。岐阜の小学時代には「ドラゴンズ・ジュニア」に選抜されるなど天才少年と呼ばれた逸材がくじ引きで地元球団に入団したのも運命だったのかも知れない。

 今でこそ、大谷翔平選手(ドジャース)の出現で、当たり前のように「二刀流」が語られる。だが大谷以降の二刀流選手の系譜を見ていくといかに難しい挑戦かがわかる。

 プロの世界に二刀流として入団した主な選手は根尾と日本ハムの矢澤宏太(22年ドラフト1位)くらいか。しかし、根尾の場合は入団直後の度重なる故障もあって、一時は内野手に専任。その後外野手登録を経て22年に、再び二刀流に復活するが大成するには至っていない。

 矢澤は今季も投手として登録されるが、新庄体制の下では、俊足の外野手として起用され、レギュラーを覗うところまで成長しているが、こちらも二刀流は休止状態だ。

 アマチュア球界に目を転じると山梨学院大付属高の怪物・菰田陽生選手が投打の二刀流としてプロから注目を集めているが、高校野球も指名打者制度が導入されると、「投手兼四番」は死語になっていくかも知れない。

「二刀流選手」の響きは最上だが、根尾の場合は「どっちつかず」の弊害を生んだ側面も見逃せない。投手としても150キロを超える速球を投げる。打者としても非凡な才能がある。それでどちらかが図抜けていけばプロの世界でも通用するが、両方ともに「そこそこ」では主力級にはなれない。本人にも、指導者側にもその辺りの迷いがあったはずだ。

 気がつけばプロも8年目。次々とスターは生まれ、追い抜かれていく。

 昨年から中継ぎ投手に専念。まずは自分の居場所を確保しなければ整理対象にもなりかねない存在になっていた。それでもファームながら42試合に登板。防御率2.68と一定の手応えをつかんだ。速球とスライダー主体の投球もカットボールやツーシームを習得することで打者を打ち取る術を見つけた。

 今春はキャンプから結果を残し、開幕こそ二軍で迎えたがすぐに一軍から指名がかかった。一軍投手陣の中でも「ブルペン」と呼ばれる救援投手陣は、開幕時に昨年の守護神・松山晋也や中継ぎエース格の清水達也を故障で欠き、松山が戻ってくると貴重な左腕・橋本侑樹がリタイアと火の車。こうした中で1イニング限定ながら、着実に無失点で結果を残す根尾の存在価値は高まっている。

 涙を流す苦労人も多い中で、ヒーローインタビューのお立ち台でも笑顔を浮かべながら次の1勝に目を向けた。

「性格が明るくて、大舞台にも強いハートを持っている」と井上一樹監督も、更なる高みに期待を寄せる。

 チームのピンチは、自分のチャンス。長いトンネルを抜けた根尾の出番は確実にやって来る。ようやく地に足をつけた野球人・根尾昂の「第二章」が始まる。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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