◆ 個人タイトル獲得チャンスに恵まれない中継ぎにスポットを当てる
緊迫した場面を三振で切り抜ける、あるいはゲームやイニングを三振で締めくくる――投手にとっての大きな見せ場のひとつだ。当然、最多奪三振は投手の個人タイトルにもなっている。ところが、多くても70イニング程度しか投げられない中継ぎ投手の場合、実質的に奪三振王になるのは不可能だ。
ただ、実際には投球回に対しての奪三振は中継ぎ投手のほうが多い。ゲームの終盤、リードを保って逃げ切るためには、どんなささいなリスクの芽も摘んでおきたい。ゴロやフライでもアウトを奪えるが、何が起こるか分からないのが野球。一番安全な方法が三振を奪うことだ。
そのため、三振を奪えるタイプの投手を勝ちパターンの継投に起用するのが王道。しかも、なるべく長いイニングを投げることを計算しながら投球する先発投手と異なり、中継ぎ投手は短いイニングに全力投球で臨む。必然的に三振が増えるというわけだ。
先発投手と違い、個人タイトル獲得のチャンスに恵まれていない中継ぎ投手を評価すべく、9イニング当たりの平均奪三振数である「奪三振率」に注目したい。以下は、昨季、30試合以上救援登板した投手の奪三振率リーグベストテンである(ただ、中継ぎ投手が9イニングを全力投球することは有り得ないし、肉体的にも不可能。彼らが先発に転向したとしても同様の成績を残せるわけではないことを前提とする)。
【セ・リーグ】30試合以上救援登板した投手の奪三振率ベストテン
順位 選手(所属)
1位 11.72 ジャクソン(広島)
2位 11.03 マシソン(巨人)
3位 11.01 藤川球児(阪神)
4位 10.63 今村猛(広島)
5位 9.66 小川龍也(中日)
6位 9.53 ドリス(阪神)
7位 9.52 山﨑康晃(DeNA)
8位 9.37 ザガースキー(DeNA)
9位 9.31 田島慎二(中日)
10位 9.23 久古健太郎(ヤクルト)
【パ・リーグ】30試合以上救援登板した投手の奪三振率ベストテン
1位 11.54 佐藤達也(オリックス)
2位 10.83 松井裕樹(楽天)
3位 10.73 スアレス(ソフトバンク)
4位 10.54 サファテ(ソフトバンク)
5位 10.23 大石達也(西武)
6位 10.13 マーティン(日本ハム)
7位 9.46 内竜也(ロッテ)
8位 8.89 五十嵐亮太(ソフトバンク)
9位 8.78 増田達至(西武)
10位 8.41 平野佳寿(オリックス)
◆ 覇者・広島が強いセにハイレベルな上位争いのパ
中継ぎ投手のなかでも、セットアッパー、クローザーなど重要な役割を担う投手の名が多く見られるのは予想通りだろう。セ・リーグでは広島のジャクソンと今村猛がベスト5に入り、リーグ覇者の中継ぎ陣が奪三振率でも高い数字を示している。寂しいのがやはりヤクルト。4.73という12球団ワーストのチーム防御率をそのまま表すように、久古健太郎がかろうじて10位に滑り込んだのみだった。
驚いたのは3位に入った藤川球児(阪神)。阪神復帰後、当初は先発として起用されたものの、5試合で防御率6.12と振るわず中継ぎに転向。最終的な防御率は4.60に終わった。衰えを指摘されることも多いが、かつて球界を代表するクローザーたらしめた奪三振力は健在といったところ。
パ・リーグは上位6人が奪三振率10.00を超えるハイレベルな争い。トップは11.54を記録した佐藤達也(オリックス)。しかし、昨季の佐藤は防御率5.01とふがいない結果に終わってしまった。2013年、2014年と2年連続で最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得した右腕の完全復活が待たれる。
意外だったのは日本ハム。日本一チームからランクインしたのは、9月初めに離脱するまでクローザーを務めたマーティンのみ。ただ、惜しくもベストテン圏外ではあるものの、谷元圭介と鍵谷陽平のふたりも奪三振率はそれぞれ7.87(13位)、7.66(17位)と比較的高く、チームとして三振を奪う総合力は高いと言えそうだ。
ちなみに、日本ハムと言えば忘れてはならないのが大谷翔平。昨季、大谷が記録した奪三振率は11.19。もちろん、先発投手としては断トツの数字だ。規定投球回達成者のプロ野球記録は1998年に石井一久(ヤクルト)が記録した11.05である。
昨季、大谷があと3イニングに登板して2三振を奪っていたら、新たなプロ野球記録を打ち立てていたことになる。今コラムは、中継ぎ投手にスポットを当てるためのものであったが、またしても大谷のすごさに気付かされた。やはり、どこまでも規格外の男である。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)
※初出時に内竜也投手の奪三振率をランキングに掲載しておりませんでしたが、正しくは「9.46で7位」でした。訂正してお詫び申し上げます。