コラム

“申告制敬遠”に異議あり! 幾多のドラマを生んできた敬遠がもつ魅力

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敬遠攻めに嫌気が差した西武・カブレラが『左打席に立つ』という抗議を見せたことも...(C)KYODO NEWS IMAGES

“試合時間短縮”が目的と言うが...


 現地時間3月2日(日本時間3日)、米大リーグ機構(MLB)と選手会が今季のルール変更を発表。中でも注目を集めたのが、『敬遠四球』が守備側の監督による申告制となり、ボールを投じることなく打者が一塁へ進塁することとなった点だ。

 MLBが近年推し進めている試合時間短縮のための改革だと言うが、昨季のMLBにおける敬遠は2.46試合にひとつという計算であり、このルール変更が試合時間短縮に効果的だとはあまり思えない。

 そもそも、ファンは試合時間の短縮を望んでいるのだろうか...。

 イニング間にお目当ての“球場メシ”を買いに行ったり、緊迫した場面以外では試合を見ながらも仲間たちと野球談義に花を咲かせることも野球観戦の大きな楽しみだろう。なにかと比較されるサッカーとは異なり、いい意味での“のんびり感”こそが野球の魅力でもある。


新庄の“伝説の一打”は再現不能に


 新ルールの採用による最も残念なところは、“敬遠を巡るドラマ”が生まれる機会が完全に消滅してしまうことだ。メジャーに限らず、日本のプロ野球においても幾多のドラマを生んできた。

 いまも語り草となっている“敬遠ドラマ”と聞いて、野球ファンがまず思い出すのは新庄剛志(元阪神ほか)だろう。阪神時代の1999年6月12日、巨人との伝統の一戦でその伝説は生まれた。

 同点で迎えた延長12回裏。一死一、三塁で打席に立ったのは、8回に同点ソロを放つなどこの日3安打の4番・新庄。巨人ベンチは敬遠を指示するが、マウンドの槙原寛己(元巨人)が投じた1球目は外し方が甘かった。

 「これなら打てる!」と確信した新庄は、直後の2球目に思い切り足を踏み込みバットを振り切る。打球は大きく開いている三遊間を抜け、三塁走者の坪井智哉が生還。まさかのサヨナラ勝ちとなった。

 この“伝説の一打”には、知られざる秘話も存在する。3日前の広島戦で敬遠された新庄は、「バットを伸ばせば届くのではないか」と感じたていた。そこで当時の柏原純一打撃コーチとともに大きく外されたボールを打つ練習をあらかじめしており、それを知っていた野村克也監督も敬遠打ちに関して容認していたというのだ。

 ちなみに、柏原もまた日本ハム時代の1981年に敬遠球を打ったことがある敬遠打ちの“先輩”。それも新庄はヒットだったが、柏原は本塁打にしている。


投手側の“反抗”も...


 ほかにも“敬遠ドラマ”は数知れない。同じ年の10月5日、巨人のルーキーだった上原浩治はシーズン20勝目をかけてヤクルトとの最終戦に臨んでいた。

 ところが、この試合の最大の注目ポイントとなったのは、激しい本塁打王争いを繰り広げていた松井秀喜とロベルト・ペタジーニの直接対決。松井は敬遠気味の四球で歩かされ続けるなか、一方の上原はペタジーニとの勝負を避けさせようとするベンチの指示を無視したのだ。

 1、2打席目はきっちり打ち取ったものの、迎えた7回の第3打席。走者なしの場面にもかかわらず、ベンチからは敬遠のサインが出た。ペタジーニを渋々歩かせた上原は、マウンドを蹴り上げ悔しさをあらわに。続く古田敦也、稲葉篤紀と対戦した際には、唇を震わせて涙を流しながらボールを投げ込んでいった。


 そのほかにも、近年では2013年の交流戦で、ブランコ(当時DeNA)に対して敬遠を指示された時の金子千尋も印象深い。

 1点リードの二死三塁という場面や、5回までにブランコの本塁打などで6失点を喫していたこともあり、ベンチの指示も妥当なもの。しかし、エースとしてのプライドが許さなかったか、金子は150キロを連発する全力投球でブランコを歩かせた。普段はクールな金子が垣間見せた感情的な一面が、強く印象に残っている。


 通常の投球と異なる敬遠は、投手にとっても少なからずプレッシャーを感じるもの。小林繁(元巨人ほか)は、1982年の大洋との開幕戦で敬遠するつもりの投球を暴投してしまい、サヨナラ負けを喫している。こんなハプニングも、敬遠が申告制になってしまえば二度と生まれることはないのだ。

 そもそも、試合時間の短縮というのも野球ファンを増やすためという目的から着想されたものだろう。申告制敬遠への変更によるごくわずかな試合時間短縮と、敬遠によって生まれるドラマ...。どちらが野球をより魅力的なものにするか、考えるまでもない。

 ルールに関してはMLBを追随することも多い日本球界だが、申告制敬遠の採用だけは避けてほしいものである。


文=清家茂樹(せいけ・しげき)
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