コラム 2017.03.15. 17:15

【白球つれづれ】“絶滅危惧種”のサブマリンを考える

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貴重なはたらきで侍投手陣を支える牧田

白球つれづれ2017 ~第2回・サブマリンを考える~


 今や日本球界の誇る“匠の技”と言っていいだろう。

 歴史に残る死闘を繰り広げた12日の日本-オランダ戦。ハラハラドキドキの延長、そしてタイブレークで圧巻の投球を見せたのは牧田和久だった。

 地面スレスレから放たれるストレートはシュート回転して打者の懐をえぐり、110~120キロ台のスライダーは鋭く曲がる。シモンズ、プロファー、ボガーツといったメジャー選手をきりきり舞いさせ、外野にすら打球は飛ばなかった。

 小久保監督の言う「全員の執念でつかんだ勝利」に違いはないが、一方で外国人相手では下手投げ、いわゆる“サブマリン投法”が絶大な威力を発揮するということを改めて実証した試合ではなかっただろうか。


日本が誇る武器


 牧田の球歴を紐解くと興味深い。

 社会人の日本通運から西武にドラフト2位で入団。初年度は先発スタートも、チーム事情でシーズン途中から抑えに転向し、5勝・22セーブで新人王に輝く。

 2年目からは再び先発に戻るも、昨年は主に中継ぎとして起用され7勝1敗で防御率1.60。侍ジャパンの大半の投手は何らかのタイトルを獲得しているが、この男はチームの台所事情によって先発も、中継ぎも、抑えも任される究極の便利屋ゆえに勲章とは縁がない。だが、国際試合になると欠かせないピースとしてお呼びがかかる。これもサブマリンがゆえのことだ。


 国際試合において、パワー勝負では分が悪いのはこのオランダ戦でもわかる。

 日本の強みはスモールベースボール。足を絡め、堅い守りとち密な戦略が求められる。そしてもう一つの強みは、ほとんど日本独自の投法と言っていい“サブマリン”だ。

 確かにメジャーリーグでも下手から投げる投手はいる。だが絶対数がないうえに、牧田ほどの制球力と投球術はない。最速130キロ程度ながら90キロ台の遅球も交えて打者を幻惑。加えて投球間隔から角度まで工夫して、クイック投球もうまい。今後、決勝ラウンドに勝ち進んだことを想定した時、オランダ以上の強豪であるドミニカ、アメリカらになくて、日本だけにある武器となり得る。


国際舞台で輝く理由


 思えば第1回・第2回大会では、渡辺俊介のサブマリンが威力を発揮した。そして前回、今回と牧田の出番となる。

 では、なぜ国際大会でサブマリンが有効なのか?ひとつ目はこれまで経験したことのない『軌道』と『タイミング』だ。

 今や各チームとも事前の偵察、研究は進んでおり、配球パターンまで読み切られることも珍しくない。150キロ超の剛速球でも、甘く入ればピンポン玉がメジャー級のパワーだ。

 しかし、下手投げは研究のサンプルが少ないうえ、独特の間と浮き上がったり沈んだりの変化もある。いくら頭で分かっていても、初対戦ではとにかく厄介なのだ。

 また、大柄でピュンピュン振り回してくる打者はかわされるともろい。そのうえ腕が十分に伸びきらない内角に弱点のある打者が多く、微妙なコースは見逃し、小さく当ててくる日本野球より有効となるのは必然である。


出てこい、次代のサブマリン


 我が国の球界では、サブマリン投法を武器とする名投手が何人も誕生した。

 長嶋茂雄と立大の同期生だった杉浦忠(南海)は、1959年には38勝4敗、勝率.905というお化けのような記録を樹立。ど真ん中と思って打ちに行ったストレートはホップして空振り、右打者への内角カーブは死球に見え、倒れこむと大きく曲がってストライクだったと語り継がれている。

 1970年代には、山田久志(阪急)が投手タイトルを総なめ。ところが、今や牧田に代わる下手投げの後継者は見当たらない。まさに「絶滅」の危機に瀕しているのだ。

 「今は高校生でも左の俊足打者を重用する傾向があり、投球モーションの大きいアンダースローでは走られやすい。足腰が強靭でコントロールも安定した下手投げを育成するには時間もかかるので、なかなか出て来ないのでは」とあるベテランスカウトは分析する。

 とは言え、今後のWBCや五輪などの国際大会を見据えても、“サブマリン”は日本のキラーコンテンツに違いない。プロ・アマを問わず指導者はもう一度、その大切さを認識してもいいのではないだろうか?

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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