実績あった西野が...
まだプロでの実績がない若い投手の場合、力量や適性を測るためにまず中継ぎで起用することが通例だ。その上で先発を任される投手もいるが、この場合は厳密には“先発転向”と呼ぶべきではないだろう。
しかし、今季は、中継ぎで十分過ぎるほどの実績を残したふたりの投手が先発に転向し、注目を集めている。
そのひとりがロッテの西野勇士だ。2008年の育成ドラフト5位でプロ入りすると、4年目の2012年に支配下選手登録。2013年に一軍初登板を果たした。
その年、24試合の登板でいきなり9勝(6敗)をマーク。西武とのCSファーストステージ初戦では2番手として登板し、1回2/3を無安打無失点の好投を見せ、プレーオフ・CSでは育成ドラフト出身選手として史上初の勝利投手となったことでも話題を集めた。
益田直也が負傷離脱した2014年からは代役として開幕からクローザーを任され、最速150キロの直球と決め球のフォークを武器にリーグ3位の31セーブをマーク。以降、2014年と2015年は2年連続で防御率1点台という安定した投球で、昨季までの3シーズンで計86セーブを挙げるなど、リーグを代表するクローザーとして実績を積み重ねてきた。
不動の守護神としての地位を築いた右腕であるが、涌井秀章や石川歩に次ぐ先発の柱になってほしいという首脳陣の意向や、肘の痛みのために連投に不安があることもあって今季から先発に再転向。しかし、ここまでは4試合で1勝3敗、防御率5.23と苦しむチームの中で自身も苦しい戦いを強いられている。
特に5月2日の日本ハム戦では、3回2/3を投げて5失点と炎上。伊東勤監督からは「準備不足」と苦言を呈され、試合後すぐに二軍降格を明言されてしまった。
新スタイルで生まれ変わった又吉
一方、すでに先発転向が成功したという声も多いのが、中日の又吉克樹である。
開幕直後こそチーム事情により3試合にリリーフ登板したが、その後は先発として4試合に登板。1勝に留まっているものの、防御率は2.60と安定した投球を披露している。
四国ILの出身。2013年ドラフト2位でプロ入りした又吉は、ルーキーイヤーの2014年からチームに欠かせない投手となった。
オープン戦で好成績を残して開幕一軍を勝ち取ると、開幕戦で一軍デビュー。サイドスローから投げ込むキレ味鋭い直球とスライダーで三振の山を築くスタイルは、まさに勝負どころの中継ぎ投手としての適性十分。以降、主にセットアッパーとして3年連続60試合登板という鉄腕ぶりを発揮している。
先発に転向した今季、又吉の投球内容にははっきりとした変化が見られる。昨季までほとんど使わなかったシュートの投球割合が大きく増加し、代わりに直球が減少したことだ。いい意味で力が抜けた投球ができており、シュートとのコンビネーションによってスライダーがさらに効果的なボールになっていることが好結果につながっていると見られる。
現在のところロッテ、中日ともに最下位に沈んでいるが、こうした配置転換が功を奏して戦力アップしたチームは数知れず。うまくハマった時にはチームの起爆剤となり得る。
西野と又吉、対照的な姿を見せる2人の“先発転向組”のこれからに注目だ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)