コラム 2017.05.08. 18:00

元祖・攻撃的2番打者「2000年の小笠原道大」の凄さとは?

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日本ハム時代の小笠原道大
 流行は約20年周期で繰り返される。

 ファッション界にはそんな言葉があるらしい。これは野球界でも同じことだ。ここ数年のプロ野球のトレンドは、「攻撃的2番打者」だろう。貯金13でパ・リーグ首位を走る楽天の2番打者はペゲーロ。開幕から27試合連続で2番として先発出場すると、打率.288、8本塁打(リーグ3位)、23打点(リーグ4位)、OPS.985の好成績。ちなみに犠打・盗塁ともに0だ。これまでの小技ができて俊足タイプの繋ぎの2番とは真逆のタイプのスラッガーである。

 DHのないセ・リーグでもDeNAのラミレス監督は「8番投手、9番ショート倉本」というオーダーを組み、梶谷隆幸を度々2番で起用。6日のヤクルト戦では満塁アーチを放つなど、ここまで7本塁打はセ・トップの数字だ。メジャーリーグでも近年は2番に強打者を据えるチームが増えた。


バントをしない2番打者


 この攻撃的2番打者ブーム。今から20年近く前にも「バントをしない2番打者」として球界の話題をさらった男がいた。日本ハムの小笠原道大である。NTT関東から96年ドラフトで3位指名された痩身の捕手。のちの名球会入り打者としては信じられないことだが、高校通算0本塁打で5年間も社会人野球に揉まれ、便利屋的な扱いでどこでも守れる“コンビニルーキー”としてのプロ入りだった。

 2年目の98年に左手人さし指骨折で登録抹消も、全治6週間の診断を無視して強引に1軍復帰すると、骨折が完治しないまま代打本塁打をかっ飛ばす根性を見せ「ガッツ」と呼ばれるようになる。すでに社会人出身の20代中盤、高卒ルーキーと違って2軍で経験を積んでいる時間はない。若手時代の小笠原は常に迫り来る時間と戦っていたわけだ。

 そして、落合博満が引退した3年目の99年に一塁固定されるとフル出場。2番打者として打率.285、25本塁打、83打点とブレイク。ビッグバン打線の一角を担い、同年のベストナインとゴールデングラブ賞も受賞した。

 小笠原の著書『ガッツ 魂のフルスイング』(KKロングセラーズ)によると、当時の上田監督から「2番打者がバントを多用するようになる前は、2番打者も攻撃的だった時代があった。投手力に不安を残すので初回からビッグイニングを作りたい」と説明を受けたという。

 ちなみにトレードマークのヒゲが定着したのもこの頃だ。シーズン中は伸ばしても、オフになるとさっぱり剃り落していたら、球団からグッズ制作の関係で「剃るのか、残すのかどっちかに決めてくれ」と迫られ、そういうことなら「特徴がはっきりしていた方がいいから伸ばします」とヒゲの小笠原が誕生した。


球界を代表するスラッガーへ


 「2番小笠原」の絶頂期は4年目の2000年だ。このシーズンも主に2番を打ち、135試合にフル出場して、打率.329、31本塁打、102打点、OPS.959という凄まじい成績を残した。さらにキャリア最多の24盗塁ともう一歩でトリプルスリーも狙えるほどの大活躍。27歳の小笠原は翌年、チーム事情で1番から3番を経験し、02年からは完全にクリーンナップとして固定され、天才イチロー渡米後のパ・リーグを同学年の中村紀洋や松中信彦とともに支えていくことになる。

 そのキャリアで3割・30本塁打を9度記録、本塁打王1回、首位打者2回、打点王1回。さらに日本ハム最終年の06年と巨人移籍初年度の07年にセ・パ両リーグで2年連続MVPを獲得。06年の日米野球では来日したメジャーの投手たちがWBC日本代表優勝メンバーの「オガサワラだけには打たせない」とガチンコ勝負を挑み、それに男は黙ってフルスイングで応えるラストサムライ。あの頃の背番号2は確かに日本球界を代表するスラッガーとして打席に立っていた。

 まさにイチローと松井秀喜が去ったあとの00年代NPB最強打者、小笠原道大。そのキャリアの原点は「攻撃的2番打者」にあると言っても過言ではないだろう。

 最後に驚くべき記録をひとつ紹介したい。日本ハム在籍10年間で小笠原は計4813打席に立ち、なんと犠打数は「0」だった。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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