コラム

空前絶後の"清宮"狂騒曲

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春季東京大会準々決勝の駒大高戦で2本塁打、高校通算81号とし、記者の質問に答える早実の清宮=15日、神宮第二

白球つれづれ2017 ~第11回・清宮幸太郎~


 先日、都内で異例の極秘会談が開かれた。集まったのは早稲田実業学校(以下早実)野球部監督の和泉実らと在京スポーツ紙の野球担当部長ら。内容は今後の清宮幸太郎への取材体制についてだった。

 この13、14日に行われた熊本での招待試合で怪物君は高校通算本塁打を1本更新して計93号とした。こうした招待試合や公式戦の取材は枠が設けられているため特に問題はない。だが、練習試合となると早実の取材陣へのガードは固い。仕方なく相手チームの談話をもとに原稿を作るという変則態勢を余儀なくされる。

 区切りの100号へ、カウントダウンの始まった今、これは深刻な問題だ。今後のスケジュールを追ってみる。直近の大きな大会は今月20日から始まる関東大会。そして、6月17日の抽選を経て7月には夏の全国選手権大会の東京都予選となる。この間には毎週のように強化目的の練習試合が組み込まれるのだが、ここで99号、メモリアルな100号アーチが生まれる確率は高い。その時に従来通りでは取材にならない。そこで異例の直談判となったわけだ。

 結論は現時点では白紙のまま。和泉は「私の一存で決められる話ではない」と答えを保留したと言われる。古くは王貞治から荒木大輔や斎藤佑樹らの甲子園アイドルを輩出した同校は全国でも屈指の伝統校だ。

 長い歴史の中で培われた不文律が「どんなに騒がれても一人だけ特別扱いはしない」というもの。1人の高校生を学校全体で守るという考えも理解できるが、今回の清宮フィーバーはそうした経験則すら吹き飛ばす勢いなのである。


慣例を変える男


 清宮狂騒曲春の陣のスタートは4月27日に行われた春季東京都大会決勝の対日大三高戦だった。大観衆が見込まれるため神宮球場で異例のナイター開催。NHKがトップニュースで伝えた試合は4時間を超す延長戦の末に18対17で早実が勝利。加えて清宮は2発。特に3点差を追う9回の同点アーチは改めて勝負強さと強運を実証した。

 この神宮でも、先日の熊本でも、球場への一番乗りは午前3時、4時とファンの熱狂ぶりは日に日に増すばかり。これには東京都高野連も夏の都大会で異例の開催を検討し始めたと言われている。

 通常、西東京に属する早実は八王子や立川の球場で戦い準決勝から神宮球場に乗り込んでくる。しかし、大観衆が詰めかけ、混乱することが予想されるため早実戦に限って全試合を神宮開催とするプランだ。

 かつて、作新学院時代に剛腕を誇った江川卓を見たさに栃木では臨時列車まで出されたという記録がある。それに匹敵する騒動となるのだろうか?


時代の寵児


 怪物アーチに話題の集まる清宮だがファンの注目は高校卒業後の進路にも集まる。今回の熊本遠征にもソフトバンクや阪神など4球団のスカウトが足を運んだが、これはもう熱意や誠意を見せるためのデモンストレーションと言っても過言ではない。清宮の進路については早大進学説やプロ入り、果ては大リーグ挑戦まで語られている。現時点で言えることは仮にプロ入りを表明すれば今ドラフトでは6球団近くが指名、争奪戦を繰り広げるだろうということだ。

 スター誕生には本人の努力はもちろんだが「時の運」もまた必要不可欠である。今の野球界を見渡すとスーパースターと和製大砲が明らかに足りない。スーパースターの階段を駆け上っている大谷翔平(日本ハム)のメジャー流出は時間の問題なら、大砲と言えば筒香嘉智(DeNA)に中田翔(日本ハム)くらい。その筒香にも近い将来のメジャー挑戦が取りざたされている。

 母校の大先輩である王貞治が球団会長を務めるソフトバンク、一塁手を固定できない阪神、阿部慎之助の後釜を模索する巨人。大谷が抜けた際に客の呼べるスターが欲しい日本ハムなど、清宮に熱い視線を送る球団は多い。時代が清宮を求めているからこその狂騒曲なのである。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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