白球つれづれ2017 ~第12回・菊池雄星~
西武の菊池雄星が見違えるほどの快投を見せている。22日現在、防御率は1.24でリーグトップ。19日のソフトバンク戦では投手戦の末に1-2で惜敗したものの、先発した8試合すべてで先発投手の価値基準となるクオリティ・スタート(QS、6回を自責点3以内)をクリア。抜群の安定感でチームのAクラス進撃を支えている。
アメリカからの視線
「キャリアはアップダウンだがストレートに球威がある上、最近はカーブ、スライダー、チェンジアップを駆使して打者を打ち取る。空振りを奪える左腕はいつだって魅力的だ」とは同記者の菊池評だ。
WBC出場は叶わなかった菊池だが、最近のメジャー球団は駐日スカウトを配するチームも多く、見る目は確かだ。前述のソフトバンク戦にも日本ハムで活躍し、現カブスのF・セギノール国際スカウトが現れて熱視線を送っている。
大谷翔平とは花巻東の3年先輩。高校時代からメジャー志向を公言してきた男にとって後輩ばかりに注目が集まるのは面白いはずがない。
しかし、プロ入り以来、逸材、大器と騒がれながら規定投球回数をクリアして、初の2ケタ勝利(12勝)を上げたのも、やっと昨年のこと。ようやくエースの階段を駆け上り始めたのが現状だろう。
複雑なポスティング事情
昨オフにはポスティング制度を使ってのメジャー移籍を球団に直訴している。しかし、球団側にはおいそれと認めるわけにはいかない事情もある。昨年限りで岸孝之が楽天にFA移籍、これ以上の人材流失は防ぎたいところ。加えて実績面でもまだ物足りない。
ある球団関係者は「今後、2年連続で15勝以上とか、チームを優勝に導くくらいの“置き土産”が必要」と注文を付ける。今季、来季と文句なしの成績を残して、18年オフにメジャー移籍が現実的な見方となる。
西武では過去に松阪大輔(現ソフトバンク)がレッドソックスに移籍した際に約60億円の移籍金を手にしたことがある。しかし、今年になってMLBは日本野球機構に対してポスティング制度の見直しを要求。現行の最高2000万ドル(約22億3000万円)からの大幅減額を突き付けている。
表向きは「日本と韓国の選手間に移籍金で大きな隔たりがあるから」とMLB側は説明するが、素直に受け取るむきは少ない。このままでは巨額の争奪戦が予想される大谷シフトという見方がもっぱら。
すでに大谷のような25歳未満の外国人獲得には総契約金の上限を575万ドル(約6億4000万円)とすることが決定しているが、こうした緊縮策が日本球団のガードを固くする要因にもなりかねない。
乗り越えるべきもう1つの壁
加えて、菊池が名実ともに大エースの評価を得るためにはもう一つ乗り越えるべき大きな壁がある。対ソフトバンク10連敗の屈辱だ。2011年の初対戦以来15度の登板で勝ち星もない。理由は単なる巡りあわせではないようだ。
「投手も打者も一流が揃っているチームなので先に点を与えると苦しい」とは19日の敗戦後の談話だが、相手側はどう見ているのか? 西武、ロッテそして今季からソフトバンクの打撃コーチを務める立花義家の言葉が示唆に富んでいる。
「早い回から飛ばしてきたので終盤に球威が落ちてきたね。それにロッテなどには見下して投げていたのに、表情に余裕が感じられなかった」
つまり、強敵を前に一つのミスも許されないと思うのは当然でも、その余裕のなさが投球にも表情にも出てしまっては自ら墓穴を掘っているということだ。特定の苦手チームを作っては15勝以上の大勝ちなど望めない。ましてやそれがソフトバンクとなれば優勝の確立も低くなる。エースのハードルとはかくも高い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)