コラム 2017.06.06. 06:00

“アライバ”の現在地

無断転載禁止
中日の黄金期を支えた荒木と井端の二遊間

白球つれづれ~第14回・荒木と井端~


 守備の人、中日の荒木雅博がついに2000本安打の記録を達成した。39歳。史上48人目の大台突破である。

 6月3日ナゴヤドームで行われた楽天戦の4回だった。美馬学の投じたスライダーに一瞬、バットは止まりかかったが打球は右前にポトリ。ど派手な一発でも、見事なクリーンヒットでもない記念の一打もまた荒木らしかった。

 自らを「へぼバッター」と言う。1995年の高校ドラフト1位とは言え、福留孝介(現阪神)、原俊介(元巨人)を抽選で外して当初は4位指名を予定していた荒木に幸運が舞い込んだ。

 しかし、非力な打撃では一軍で通用せず一時は俊足を生かしてスイッチヒッターに挑戦したことも。ようやく、バットでも快音を響かせて一番・二塁の定位置を獲得したのは2001年の夏以降。プロ6年目のことだ。


球界屈指の二遊間


 同時期にレギュラーの遊撃手としてのし上がってきたのが井端弘和。現巨人の内野守備走塁コーチだ。年齢は大卒の井端が2歳年上だが共に俊足好守のバイプレーヤー。守っては鉄壁の二遊間としてゴールデングラブの常連に成長していく。

 センター前に抜けそうな打球を二塁手の荒木が好捕すると、近くまで駆け寄った遊撃手の井端にバックトス。これを井端が一塁に送球してアウトにする。体勢が中堅方向に流れている荒木では一塁に強い送球は出来ない。井端との絶妙な呼吸が揃って名人芸は生まれた。

 またある打席ではベンチからヒットエンドランのサイン。ところが井端はバットを振らず平然としている。「(荒木の)スタートが良かったから」と盗塁をアシストしたという逸話も残っている。いつしかこの名コンビは“アライバ”と称されるようになった。


2000安打の礎


 「守りで億という金を稼いだ男。オレの野球に荒木という選手は絶対に欠かせなかった。誰が打つよりもうれしい」。2000安打達成に際して、元監督の落合博満氏がスポーツニッポン紙上に贈った言葉である。

 今でこそ、名二塁手と言えば広島・菊池涼介の名が浮かぶが、全盛期の荒木の守備範囲の広さは図抜けていた。これを支えていたのがキャンプで名物となっていた落合のノックだ。

 捕れる、捕れない、の絶妙な位置に、意地悪なほど正確な打球が飛ぶ。いわゆる、球際の強さを鍛えるわけだが、“アライバ”はどちらかが音を上げるまでやめようとしない。壮絶な鍛錬があったからこそ40歳近くの野球人生と快記録が生まれたのだろう。

 守備の人はまた、脚の人でもある。盗塁王のタイトルは一度だけだが2004年から6年連続で30盗塁以上を記録している。一方で本塁打は実働21年で33本だけ。「33本しか打てない選手だったから徹底して小技をやってきたし、右打ちにも徹してきた。33本のおかげで2000本も打てた」と振り返る。


それぞれの歩み


 まだまだ現役として活躍の場を求める荒木に対して、井端は一昨年限りで現役を引退。そのまま巨人のコーチに就任した。高橋由伸が同じく現役引退から新監督に就く際、直々に電話をもらいコーチの要請を受けると即決した。この時点で2000本安打まであと88本。一つの勲章を求めるなら違う選択肢も残されていた。だが、この男は高橋の懐刀として生きる道に迷いはなかった。

 「相手として対戦する時はアウトになれ、とも思うが他球団と対戦している時は気になるし、頑張れと思う」。井端の偽らざる心情だろう。

 開幕から出遅れた中日はようやく戦力が機能しだした。荒木の2000本フィーバーも手伝って活気が戻ってきた。逆に巨人は交流戦前から連敗地獄が続いている。気がつけば中日の足音まで忍び寄ってくる。

 球界でも指折りの名コンビからライバル球団の選手とコーチ。立場はそれぞれに変わっても二人の挑戦に終わりはない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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