石川慎吾、山本泰寛、重信慎之介…
苦しむ巨人を最後に救ったのは、ダイナマイト石川慎吾のひと振りだった。
6月25日の中日戦。同点の9回裏一死一・三塁の場面で代打として打席に立った石川が、センター前に抜けるプロ初のサヨナラ安打。交流戦明けから続いていたチームの連敗を止めた。
日本ハムからの交換トレードで今季から巨人に加入したプロ6年目の石川は、1993年4月27日生まれの24歳。巨人では大卒2年目の山本泰寛(93年10月10日生)や重信慎之介(93年4月17日生)らと同学年ということになる。
今のチームでは88年生まれの坂本勇人がキャプテンを務め、89年生まれの小林誠司が正捕手として起用されているものの、それ以外に一軍のレギュラーとして定着している20代野手はひとりもいない。
巨人は2010年以降のドラフトで延べ40名の選手(育成を除く)を指名しているが、内27名が投手である。10年1位・沢村拓一(中央大)、12年1位・菅野智之(東海大)、13年3位・田口麗斗(広島新庄高)とのちに主力となる投手を指名できている一方で、野手に関しては非常に現状は厳しいと言わざるを得ない現状だ。
13年2位・和田恋(高知高)、14年1位・岡本和真(智弁学園高)と上位で“右の大砲”タイプの高卒内野手を指名したものの、ともに二軍で内外野のポジションすら固定できずに苦しむ日々。今季のイースタン成績は4年目の和田が23試合で打率.217、本塁打0の7打点。3年目の岡本は41試合で打率.234、4本、18点という物足りない成績だ。
岡本にしても高校時代は主に一塁を守り、守備面に不安があるのはドラフト前から分かっていたはずなのに、三塁転向や無謀とも思える外野挑戦をさせたのち、最近の二軍戦では再び一塁先発起用されている。正直、理解に苦しむ育成法だ。
下からの突き上げを…
強かった頃の巨人といえば、年齢層のバランスが非常に良かった。
日本一に輝いた09年は30歳の正捕手・阿部慎之助に、補強組の小笠原道大やアレックス・ラミレスがチームの土台をしっかりと作り、そこに若手の亀井善行や坂本勇人を抜擢するなど、バランスが取れていた。そういうチーム状況で育成選手上がりの当時24歳・松本哲也が台頭し、新人王を獲得したわけだ。
今季の由伸巨人は、坂本という柱を軸に長野久義や陽岱鋼で新たなベースを作ろうとしたものの、開幕から長野の打撃不振や陽の故障による出遅れで頓挫。チームもリーグ5位に低迷している。そこで注目されるのが、移籍1年目の石川や2年目の山本、重信といった『93年組野手』の存在である。
プロ野球選手のインタビューで「新人の頃は30代のベテラン選手がもの凄く年上のおじさんに見えました」という言葉をよく聞く。無理もない。社会人野球以外は、基本的に部活で同世代の選手とプレーしてきたのだから。いつの時代も学生が新卒で入った会社でまず戸惑うのは、ついこの間まで「スーツ姿のおっちゃん」と思っていた上司とのコミュニケーションである。
巨人でも、坂本や小林の世代は高卒ルーキーと10歳近く違うわけだ。戦力的な面ではもちろん、若手選手がプレーしやすい環境作りのためにも、坂本らの次の世代に当たる93年組の一軍定着が望まれる。
ここまで68試合中60試合に出場している石川。今月13日に一軍昇格してから8試合で「2番・二塁」としてスタメン起用された山本。昨季限りで引退した鈴木尚広に代わる勝負どころの代走として起用される重信。さらに彼らの1学年下には、94年生まれの辻東倫やドラ1ルーキー・吉川尚輝らが控えている。
もちろん、彼らがみな同時期に一軍で活躍するというのは難しいだろう。ある二軍監督に取材したときの言葉を借りると、「チャンスは平等に与える。でも、生き残れるのはほんのわずかです。プロ野球は(学生野球と違って)みんな頑張れというのが通用する世界じゃない」という人生を懸けた生存競争がこれから繰り広げられるはずだ。
思えばもう6~7年前だろうか。まだ20代前半の大田泰示、中井大介、藤村大介、橋本到らが“ジャイアンツ球場四天王”と期待されていた時代があった。時は経ち、大田は新天地の日本ハムで活躍し、中井や藤村も今年で28歳になる。あの頃、“育成の星”と呼ばれた松本哲也も来月には33歳だ。
気が付けば、一軍の主力だけでなく、期待の若手層も世代交代が求められているチーム事情。
石川慎吾、山本泰寛、重信慎之介...。巨人の時計の針を先に進められるかは、彼ら『93年組野手』がカギを握っているだろう。
【巨人・93年組の成績】
・石川慎吾 60試 率.246 本3 点12 盗1 OPS.664
・山本泰寛 12試 率.242 本0 点1 盗1 OPS.662
・重信慎之介 40試 率.156 本0 点1 盗6 OPS.430
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)