極上の投手戦
日本を代表する2人の投手が、ニューヨークの地で見事な投げ合いを演じた。
現地時間6月23日(日本時間24日)のヤンキース-レンジャーズの一戦で、田中将大とダルビッシュ有がメジャーの舞台で初対決。田中は8回、ダルビッシュは7回を投げてともに無失点と両者譲らず。この名勝負は現地でも大きく取り上げられた。
歴史に残るその試合で、田中とダルビッシュはどのような投球を見せたのか。MLB公式サイト『MLB.com』やデータサイトの『Fangraphs』などを基に検証してみた。
田中は“技”、ダルビッシュは“力”
<球種比較>
▼ 田中将大:投球数100
ストレート 25.0%
スライダー 35.0%
カットボール 6.0%
カーブ 12.0%
スプリット 22.0%
▼ ダルビッシュ有:投球数88
ストレート 52.3%
スライダー 33.0%
カットボール 4.6%
カーブ 10.2%
まず2人が投じた球種の割合を見ると、田中はスライダーが最も多く、ストレート、スプリットと続いた。目に留まったのが、この試合で記録した田中のストレート平均球速。93.5マイル(150.4キロ)は、メジャー90試合の中でも最速だった。
また、カーブの割合が12.0%で、これは今季最も高い割合だった。すなわち田中はスライダーを軸に力のこもったストレート、スプリット、そしてカーブを織り交ぜるなど、緩急で勝負していたことがわかる。
一方のダルビッシュはというと、ストレートの割合が52.3%。2番目に多いスライダーが33.0%となっており、この2つの球種だけで85%を超えた。
また、ダルビッシュがこの試合で投じたストレートの平均球速は94.4マイル(151.9キロ)だったが、これは今季の平均(94.0マイル)をやや上回る程度。田中とは対照的に、平常心を保っていたことが伺える。
田中は“丁寧に”、ダルは“大胆に”
<コース比較>
▼ 内角への投球割合
田中将大 31.0%
ダルビッシュ有 50.0%
▼ 低めの投球割合
田中将大 76.0%
ダルビッシュ有 62.5%
続いて、2人が相手打者のどのコースに投球していたかを見てみよう。内角への投球割合を見ると、田中が100球中31球。ダルビッシュは88球中ちょうど半数の44球だった。
また、低めへの投球割合は田中が76.0%、ダルビッシュが62.5%。田中は、内角の厳しいコースを突きつつも、外角低めを投球の中心に据え、「長打は絶対に避けたい」という意思が垣間見えた。
一方のダルビッシュは、対照的に相手打者の懐を大胆に攻めるパワーピッチングで相手打者を圧倒。このデータからも両者の投球の特徴が見て取れる。
“先手必奪”の田中
<初球の比較>
▼ 初球ストライク率
田中将大 92.6%
ダルビッシュ有 63.6%
この試合で田中が最も気を使ったのが、“初球の入り方”だった。対戦した27人の打者に対して、初球が「ボール」だったのはたった2人だけ。92.6%という初球ストライク率は、メジャー通算90試合で最も高い数値だった。この試合のように、いかに初球でストライクを取っていけるか否かが、完全復活のカギとなるかもしれない。
こうして2人の投球内容を振り返ると、「“柔”の田中」と「“剛”のダルビッシュ」という対照的な2人のスタイルが浮き彫りになった。
渡米後、ともに大きな故障を経験した2人。手術を避けた田中はより“柔”に、トミージョン手術を受けたダルビッシュはより“剛”にシフトしているようにも映る。
近い将来、また2人が投げ合う日が来るだろう。その時は一体、どんな投球を見せてくれるだろうか。
文=八木遊(やぎ・ゆう)