熾烈なマッチレース
いよいよ折り返しを迎えた2017年のペナントレース。セ・リーグは広島の独走状態となりつつある一方、パ・リーグは楽天とソフトバンクによるマッチレースの様相を呈している。
7月5日現在、「マイナス0.5ゲーム差」という珍しい状況ながら辛うじて楽天が首位をキープ。オールスターを挟んでどちらが抜け出すのか、それとも僅差のままでシーズン終盤を迎えるのか…。目が離せない状況がつづく。
戦力的にはソフトバンクがやや上と見るファンが多いだろう。投手では和田毅や武田翔太、千賀滉大といった先発陣をはじめ、野手も内川聖一やデスパイネなど主力の故障者が続出したなか、育成出身の石川柊太を筆頭に新たな戦力が今年も台頭。大崩れすることなく、得意の交流戦では3連覇を達成した。
なかでも、ここにきて甲斐拓也が正捕手に定着しつつあるのが大きい。守備ではここまで無失策。盗塁阻止率は両リーグ断トツの「.476」という数字を叩き出し、バットでも甲斐が安打を記録した試合は19勝4敗。打点を挙げれば9勝0敗と、その貢献度は高い。
一方の楽天は、核弾頭としてチームを引っ張ってきた茂木栄五郎が戦列を離れており、オールスター前の復帰は微妙な状態。楽天が高い得点力を維持するためには、茂木の早期復帰が必要不可欠だ。
機動力に差…
ここまでほぼ互角の戦いぶりを見せている両チームだが、ソフトバンクが大きく上回っている点がある。以下のデータをご覧いただきたい。
【楽天とソフトバンクの比較】
▼ 1試合平均得点
楽:4.86
ソ:4.81
▼ 1試合平均失点
楽:3.49
ソ:3.42
▼ チーム本塁打
楽:74
ソ:93
▼ チーム盗塁数
楽:19
ソ:49
得点と失点はほぼ同じような数字が並んでいる。本塁打数はソフトバンクが19本多いが、消化した試合数も8試合多く、長打力の面ではそこまでの差があるとは言えない。
注目すべきは、両者の盗塁数だ。楽天の19個に対し、ソフトバンクは30個も多い49個を記録している。
先週末に仙台で行われた首位攻防3連戦は、いずれも1点差という白熱した戦いになったが、盗塁数は楽天の1個に対し、ソフトバンクはダブルスチールも含む5個を記録。得点に結びつくことはなかったが、相手バッテリーへのプレッシャーという意味では、ソフトバンクが楽天を圧倒していたのは言うまでもない。
楽天のここまでの戦いぶりを見ると、1~4番打者による得点力はリーグ随一のものを誇るが、5番打者以下が課題になっている。そこで、下位打線に相手バッテリーの警戒を誘える俊足選手がいれば…。攻撃の幅はより広がっていくだろう。
秘密兵器は“元ドラ1ルーキー”
そこで注目したいのが、二軍で汗を流す2年目・オコエ瑠偉の存在だ。
昨季のドラ1ルーキーも、51試合の出場で打率.185と結果を残せず。自慢の足でも一軍では盗塁4つに留まるなど、プロの壁に打ちのめされた。
悔しさをバネに飛躍を誓った2年目の今季も、キャンプの前日に胃腸炎を発症する不安な出だしになると、キャンプインして間もなく右手を負傷。手術を受けたため、大幅に出遅れた。
それでも6月にファームで実戦復帰を果たすと、ここまで11試合の出場で打率.362をマーク。盗塁も8つ決めており、このままの調子を維持できればいつ一軍から声がかかってもおかしくない。
弱点となっている機動力を補うにはうってつけの存在であり、打撃面でも成長した姿を見せることができれば、4年ぶりVの使者となる可能性も十分に秘めている。
秘密兵器はチームの救世主となるか、はたまた秘密のままで終わってしまうのか。オコエ瑠偉の今後に注目だ。
文=八木遊(やぎ・ゆう)