コラム

巨人・田口麗斗、昭和の香りがする左腕エース

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巨人・田口麗斗(C)KYODO NEWS IMAGES

白球つれづれ~第20回・小さな巨人~


 柔よく剛を制す。小が大を倒す。大相撲では小兵の異能力士・宇良が大人気だ。大型全盛、パワー勝負が幅を利かすスポーツ界にあって、いや、そんな時代だからこそ小粒な山椒の活躍には大拍手を送りたくなる。野球界に目を転じるとそんな男がいる。巨人の左腕・田口麗斗、まさに「小さな巨人」だ。

 身長1メートル71。大男の中に入ると肩ほどの高さで、帽子を取ると高校球児のような丸刈り。およそスマートとは言い難いがマウンドに上るとこれほどたくましい左腕もいない。球宴前の前半戦終了時点で自身4連勝の8勝2敗。防御率はセリーグトップの2.09。球団ワーストの13連敗などで奈落の底に沈んだチームの中で数少ない優等生だ。


東の松井と西の田口


 広島新庄高時代は高校野球史上に残る名勝負を繰り広げた。夏の県予選決勝。瀬戸内高のエース・山岡泰輔(現オリックス)との息詰まる投手戦は延長15回でも決着がつかず引き分け再試合。この試合で19奪三振をマークした田口は翌日の再試合でも1失点の完投と気を吐いたが、勝利の女神に見放されて甲子園行きを逃した。それでも右打者の膝元に食い込むスライダーとカットボールを各球団のスカウトは高評価、その年のドラフト3位で巨人入団が決まった。

 話はちょっと脱線するが、当時のスカウト陣の評価は高校生投手の双璧として「東の松井、西の田口」の名を挙げている。東の松井とは、今や球界を代表するストッパーに成長した楽天・松井裕樹のこと。こちらは順当にドラフト1位で指名を受けるが、なぜ田口は3位だったのか?

 ひとつは甲子園で活躍した松井に対して、田口は全国ブランドになれなかった点。もし、彼が瀬戸内高との激闘を制して甲子園でも圧巻の奪三振ショーを演じていればドラ1は確実だったろう。もう一つは小柄ゆえにプロで本当に通用するのか、評価が分かれた点だろう。

 獲得した巨人のスカウト評も「数年、鍛えれば一軍で通用する」と将来性を買ってのもので、半信半疑?は背番号90にも表れている。


存在感を増す若き左腕


 大谷翔平の165キロ快速球を筆頭に、今の球界はエース格になると150キロ超のスピードを誇り、体格も1メートル85センチ超えはざらにいる。そんなパワー全盛時代に田口は技を磨いて成長していく。

 プロ2年目で早くも頭角を現すと3年目の昨シーズンには一軍の先発ローテーションに定着して13勝はチームの勝ち頭だ。何より若手の人材不足が指摘される巨人にあって20代の主力は菅野智之、坂本勇人に小林誠司くらい。中でも25歳以下では田口しかいない。今年22歳になる左腕の存在はここでも群を抜いている。

 愛嬌のある丸刈りもチーム愛から生まれた。連敗地獄の最中に田口自身も打ち込まれて7連敗。その夜、バリカンを手にしたという。

「チームは連敗中だし、自分の頭を見てみんなが笑顔になってくれればいい」その後に田口自身も4連勝だから、丸刈り効果も捨てたものじゃない。


左腕エースとして


 投球術の巧みさはもともと定評のあったところだが、右打者の内角にスライダー、カットボールを駆使しながら、外角へのチェンジアップをマスターすることで投球の幅が広がった。スタミナ不足でイニングの終盤に打ち込まれる課題も克服しつつある。

 「調整より強化」を念頭にシーズン中でも猛練習をこなした直後にブルペンで投球するなど独自の調整法もいとわない。7月4日の広島戦ではプロ入り最速の146キロもマーク。今年1月には21歳にして一つ年下の芽衣さんと結婚。かつての野球界では若くして所帯を持つのも珍しくはなかった。こんなところにも昭和の臭いを感じさせる。

 菅野、マイコラスに田口。ようやく先発3本柱が揃い反撃体制も整いつつある巨人。その3人共に最多勝、最優秀防御率のチャンスがある。とても借金を抱えるチームとは思えない陣容だが、それだけに山口俊、大竹寛ら第4、第5の先発陣の奮起が待たれる。若き左腕エースに引っ張られてばかりではベテランの名が泣くと言うものだろう。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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