投げては日本最速165キロ、打っては掛布!?
最近、メディアで「二刀流」という言葉をほとんど聞かなくなった。
ほんの1年前、昨シーズンの夏頃は6月から7月にかけての2カ月間で15連勝を含む計32勝11敗と勝ちまくった日本ハムの快進撃とともに、プロ野球界の話題の中心にいた大谷翔平の二刀流。それが今季はチームの成績低迷と、大谷自身も右足首や左大腿二頭筋肉離れといった下半身の故障の影響で投手としてはわずか1試合(1回1/3)しか投げられていないこともあり、“投手・大谷”がニュースに取り上げられる機会は激減した。
昨季の大谷は、野手としてキャリア最多の104試合に出場。382打席で104安打を放ち、打率.322に22本塁打で67打点、OPSは1.004の好成績。さらに投手としても21試合で10勝4敗、防御率は1.86。174奪三振を記録してチーム10年ぶりの日本一に大きく貢献すると、4年目で初のパ・リーグMVPにも輝いてみせた。
ちなみに過去の『高卒4年目野手』という観点で見たら、“野手・大谷”に最も近いのは1977年の掛布雅之(阪神)だろう。この年、4年目の掛布は103試合で打率.331、23本塁打、69打点。OPSも.986と昨年の大谷と非常に近い打撃成績を残している。
投手としては最速165キロを計測するエース、打っては掛布クラス。そして松井秀喜と同じく高卒4年目のMVPプレーヤー。それが2016年最強で最高の大谷翔平だったわけだ。
歴代スラッガーたちを凌ぐ驚異の長打率
そんな二刀流旋風のシーズンとは対照的に、今季はここまでのほとんどを“打者・大谷”としてプレーする背番号11。それでも6月下旬に一軍復帰した後は、やはりスラッガーとして非凡な成績を残している。
20日現在、40試合(140打席)で打率は.357をマーク。本塁打も5本放ち、打点17でOPSは.994。打席数が違うので単純比較はできないが、参考までに現在リーグトップの秋山翔吾(西武)は打率.333で、それに次ぐ2位の柳田悠岐(ソフトバンク)が.314。パ・リーグ規定打席到達者で3割打者が6名しかいないことを考えても、打者・大谷翔平の能力の高さを再確認できる。
その規格外のプレーの数々と大人びた雰囲気に忘れがちだが、1994年7月生まれの大谷は今年の大卒ルーキーたちと同学年だ。「二刀流」から離れ、「23歳のスラッガー」として見ても、鈴木誠也(広島)とともに同世代のトップグループにいると言っても過言ではないだろう。
参考までに高卒でプロ入りした球界を代表する長距離砲たちの『23歳シーズンの成績』を見ると、例えば日本ハムの先輩・中田翔のプロ5年目(2012年)は144試合で打率.239、24本塁打、77打点、OPS.727。その中田と侍ジャパンでクリーンナップを組んだDeNA・筒香嘉智の5年目(2014年)も、114試合で打率.300、22本塁打、77打点、OPS.902という成績だ。
ちなみに、今季の大谷の長打率.579は、『23歳シーズン』の筒香が記録した.529や、中田の.420を軽く上回り、37本塁打を放った5年目の松井秀喜(1997年)の長打率.564をも超越している。
日本で“二刀流”が見られるタイムリミット
皮肉にも、故障で投手としての登板が激減したことにより、クローズアップされる“打者・大谷”の魅力。
一時期の大手マスコミの強引とも思える大谷推しに対するコアな野球ファンからの批判を見ていると、視聴者の好みが均等化ではなく細分化した現代において、テレビカメラがひとりの選手を追い続けるプロ野球中継伝統のスターシステムは限界を迎えつつあると実感するが、もちろんプレーしている大谷本人には何の非もない(これは最近の高校野球報道における早実の清宮幸太郎に対しても同じことが当てはまる)。
たとえメディアに騒がれ、猛スピードで世間に消費されようと、大谷翔平ならそれを超える新たなニュースを発信し続け、予測不能のスピードで進化を続けることだろう。
恐らくそう遠くない未来、大谷翔平の「NITOURYU」はメジャーリーグを震撼させるはずだ。それが来季なのか、それとも2年後なのか…?どちらにせよ、この奇跡のような才能を日本の球場で見られるタイムリミットは迫っている。
それはこの国の野球ファンとして、とても誇らしく、少し寂しく思う。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)